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焦点:スーパーカーにもEV化の波、課題は重さ・パワー・冷却

ロイター / 2021年9月30日 17時54分

 9月27日、 スーパーカーを製造する企業にとっての至上命題は、これまで常に「速さ」だった。写真は9月、英アッパー英フォードのサイエッタ本社で、軸方向磁束技術を採用したモーターの試作品を手にするヴィック・キスト氏(2021年 ロイター/Nick Carey)

[英オックスフォード 27日 ロイター] - スーパーカーを製造する企業にとっての至上命題は、これまで常に「速さ」だった。いま彼らが先を争っているのは、気候変動対策の政策によって内燃機関が使えなくなる前に電気自動車(EV)のスーパーカーに移行するという、存亡を賭けたレースだ。

イタリアの高級スポーツカーメーカーのフェラーリやメルセデス・ベンツなどは、最高水準の性能を発揮する車をEV化するという類を見ない課題を解決するための専門性やテクノロジーを求めて、英オックスフォードに本拠を置くYASAといったEV用モーターに特化したスタートアップ企業の門を叩いている。

バッテリーは非常に重く、走行の負荷が高すぎるとEV用モーターはオーバーヒートしてしまう。フルスロットルの限界走行でサーキットを10周できるような軽量スーパーカーを数十万ドルで販売するニッチ産業にとっては大きな問題だ。

メルセデス・ベンツ部門を抱える独自動車大手ダイムラーは今年、「軸方向磁束」技術を採用した高性能EV用モーターを開発したYASAを買収した。このモーターの重量は23キロで、フェラーリに搭載される300キロ近いV12エンジンに比べて非常に軽い。しかも大きさと形状はステアリングホイール程度だ。

YASAはすでにフェラーリやスウェーデンのスーパーカー製造企業であるケーニグセグのほか、企業名は伏せられているが英国のスーパーカー製造企業向けにモーターを製造している。

YASAからほど近い場所に本拠地を構えるサイエッタは、やはり軸方向磁束技術を採用した各種の水冷式モーターを開発している。同社はアジア地域の巨大なオートバイ市場に向けたモーターの製造を強化しているが、ロイターに取材に対して、大型のプロトタイプも製作済みで、あるスーパーカー製造企業との供給交渉に入っており、他に2社が興味を示している、と語った。

「スーパーカー製造企業は、内燃機関に関しては裏も表も知り尽くしている」とサイエッタのグラハム・レンデン最高営業責任者(CCO)は語る。「だがEV用パワートレインについての知識はないので、彼らが今求めているのは、提携相手だ」

とはいえ、この分野は未知の領域であり、高性能車向けのEV用モーターの製造に向けた明快なロードマップは存在しない。スーパーカー製造企業は、内燃機関が姿を消した後も生き残るために何十億ドルも投資しなければならないだろう。採用したテクノロジーが長期的に投資に見合った利益をあげるという保証はない。

<敵は「重さ」>

スーパーカー、そしてハイエンドの「ハイパーカー」は、いずれもプロのレースレベルに迫る性能を持つスポーツカーだ。自動車メーカーにとって非常に利益率は高いが、資本集約性の高いニッチ市場である。

コンサルティング会社アリックスパートナーズと調査会社IHSマークイットの推計では、10万─1000万ポンド(1515万─15億円)の価格帯に該当する「高級」または「超高級」スポーツカーの販売台数は、2021年は全世界で15万2000台以上だった。市場規模は26年には50%近く拡大し、22万3000台になると予想されている。

だがYASAの創業者ティム・ウルマー氏によれば、ダイムラーが描くYASAの長期的な方針は、YASA製モーターの今後のバージョンではコストを削減し、ダイムラーがEVへのシフトを進める中で、あらゆる車種にYASA製モーターを使えるようにする、というものだという。

「自動車の技術というものは、いきなり大規模に展開できるものではない。まずは超高級ニッチ部門から始まる傾向がある」とウルマー氏は言う。

高性能電気自動車のメーカーは、最終的にはもっと軽量で強力なバッテリーを開発する道を見つけなければならない。だが、今日のバッテリー技術ではガソリンエンジンによる持続的なパワーに太刀打ちできないため、平行して、EV用モーターから車体の素材に至るまであらゆる要素について見直しが進められている。

軸方向磁束モーターは平らで円形のデバイスで、「パンケーキ」と呼ばれている。従来の円筒状の「放射磁束」モーター、いわゆる「ソーセージ」に比べて軽量で高効率だ。

ウルマー氏によれば、YASA製のモーターは冷却にオイルを使っており、オーバーヒートの心配はなく、従来のモーターよりはるかに高効率だという。同氏はオックスフォード大学で博士号取得のための研究の中でこのデバイスを開発し、2009年にYASAを設立した。

モーターの効率改善により、電気自動車の航続距離を最大7%伸ばすことができる。あるいは、電力消費が減る分、自動車メーカーとしては重いバッテリーを一部撤去して車両重量を10%軽減することができる、とウルマー氏は語る。

YASAはオックスフォード本社に小規模な工場を構えており、フェラーリのハイブリッド車「SF90ストラダーレ」及び「296GTB」に搭載されるモーターを製造するほか、AMG向けのモーターの試験も行っている。ダイムラーは、YASAが開発したモーターを自社工場で大規模生産する方法について研究を進めている。

YASAのクリス・ハリス最高経営責任者(CEO)は、ダイムラーに買収されたとはいえ、フェラーリなどの顧客との契約が終了するわけではない、と語る。

「ダイムラーは、私たちが顧客であるスーパーカー製造企業との仕事を続けることを望んでいる。それが最先端だからだ」とハリスCEOは説明する。「テクノロジーが成熟すれば、一般の車種にも採用されていくようになる」

フェラーリのマイケル・ライターズ最高技術責任者(CTO)は、自社のハイブリッド車種に搭載するYASA製モーターについて「自動車本位」と評する。イタリアを代表するスポーツカー製造企業であるフェラーリは、EV化を追求する中でサプライヤーの専門技術を頼りにすることになるだろう、と同氏は話している。

<求められるバッテリー革命>

自動車メーカーが車両の軽量化計画で標的としているのはモーターだけではない。

クロアチアのEVハイパーカー製造企業リマックのメイト・リマックCEOは、同社の「コンセプト2」のシャシー及びボディはいずれもカーボンファイバー製であり、重量削減のため、バッテリーも車体の構造の一部として作られていると話す。

リマックは独フォルクスワーゲン傘下の高級スポーツカー部門であるポルシェと合弁事業を形成しており、やはりフォルクスワーゲンが抱えるブランド「ブガッティ」を吸収する予定だ。リマックは性能向上のために「トルク・ベクタリング」、つまり車輪の中にモーターを内蔵する仕組みを採用しており、旋回性能を高めている。

英国のスポーツカー製造企業ロータスは、軽量アルミニウム合金を用いた新たなEVプラットフォームを開発し、車両の構造重量を37%軽減した。同社初となる完全EVスポーツカーの製造は2026年に始まる予定だ。

中国の吉利汽車及びマレーシアのエチカ・オートモティブの傘下にあるロータスには、他の自動車メーカー向けのサプライヤー兼エンジニアリング企業としての横顔もある。同社マネージングディレクターのマット・ウィンドル氏によれば、別の自動車メーカー1社向けのEVプラットフォーム供給について交渉が進んでおり、他にも複数のメーカーから関心が寄せられているという。

ウィンドル氏は、「EV化のコストとペースを考えれば、協働というやり方を選ぶべきだ」と話す。

中国の自動車メーカー第一汽車集団(FAW)は、米国を拠点とするエンジニアリング・設計会社シルクEVと提携して、合弁事業シルクFAWを立ち上げた。イタリアでEVスポーツカーを生産する計画だ。

シルクFAWでは車両のシャシーにカーボンファイバー製の部品を用い、モーターの重量を20%削減するために航空宇宙産業の銅配線技術を使った高回転モーターを検討している。ただし、他の選択肢も探っているところだ。

「出力レベルを上げることよりも、重量削減の方がさらに重要だ」と語るのは、シルクFAWでイノベーション及びテクノロジー担当副社長を務めるロベルト・フェデリ氏。

最も富裕なスポーツカー購入層にとっては、重量削減と高効率モーターの採用だけで十分かもしれない。こうした人たちにとって、車の用途といえば楽しみのためのドライブか通勤だけで、サーキットを高速で何周も回りたいと考える可能性は低いからだ。

だが、そうした希望を抱く人たちは長く待たされるかもしれない。

YASA創業者のウルマー氏は、「バッテリーに関して大きな革命が起きない限り、燃料タンクと同等のエネルギーを詰め込むことはできないだろう」と話す。

「長時間のレースを走るためには、もう少し時間が必要だ」

(Nick Carey記者、Giulio Piovaccari記者、翻訳:エァクレーレン)

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