焦点:ハイテク国産化急ぐ中国、米依存に「セキュリティ懸念」
ロイター / 2023年10月30日 15時47分
10月26日、中国は西側のテクノロジーを「国産」に置き換えようと、投資を強化している。写真はっ中国東莞にあるファーウェイの施設に置かれたサーバー。2019年3月撮影(2023年 ロイター/Tyrone Siu)
[北京 26日 ロイター] - 中国は西側のテクノロジーを「国産」に置き換えようと、投資を強化している。背景には、米国政府によるハイテク製品の対中輸出制限の強化がある。政府の入札案件や研究論文、状況に詳しい4人の人物への取材から明らかになった。
ロイターが中国政府や中国軍、政府系の事業体による入札の詳細を報じるのは、今回が初めて。昨年以来、国内の代替テクノロジーへの置き換えが加速している様子が明らかになった。
業界の事情に詳しい2人の人物によれば、中国はコンピューター機器の置き換えに大規模に投資しており、次には電気通信セクターと金融セクターが対象になるという。また国の補助を受けた研究者らは、西側によるハッキングの可能性に対して特に脆弱(ぜいじゃく)なものとしてデジタル決済を挙げており、この分野の国産化の動きもありそうだ。
ロイターが中国財務省のデータベースを閲覧したところ、国有企業(SOE)や政府、軍機関による入札案件のうち、設備の国産化に関する件数は、2022年9月以降の12カ月間で119件から235件へと倍増していた。
データベース上では、この間に落札されたプロジェクトは総額1億5690万元(約32億円)で、前年比3倍以上となっている。
このデータベースで分かるのは中国全体での入札案件のごく一部でしかないが、国による入札案件を集めたデータベースとして一般に公開されているものとしては最大だ。IT分野の調査会社ファーストニューボイスによれば、中国は2022年に外国のハードウェア及びソフトウェアの置き換えのために前年比で16.2%増の1兆4000億元を投じている。
ただしアナリストによれば、最先端の半導体製造能力が不足していることから、100パーセント国産の代替品による完全な置き換えは困難だという。
北京のコンサルタント会社トリビアムチャイナで技術政策調査部門を率いるケンドラ・シェイファー氏は、過去にも国産品で代替しようという努力はあったものの、「成功させるだけの技術的能力がなかったために頓挫した。今でも一定程度、そうした能力不足は残っている」と指摘する。
<西側依存への懸念>
証券会社5社によれば、国有企業は昨年9月、オフィスのソフトウェアシステムを2027年までに国産品に置き換えるよう国有資産監督当局に指示された。こうした具体的な期限を定められるのは初めてだったという。ロイターではこの指示について独自の裏付けを得ることができなかった。
入札データから見ると、今年の国産移行プロジェクトは、機密に関わるインフラを対象としている点が際立っている。
「甘粛省のある政府機関」による入札案件は、詳細は明らかにされていないものの一部の情報が公開されており、予定価格440万元で、情報収集システム用の機器を更新するという内容だった。
北東部ハルビンと南部アモイ の人民解放軍部隊は昨年12月、外国製コンピューターを国内製品に置き換えるための入札を行った。
国内最大の国営研究組織である中国科学院の莫建雷氏らテクノロジー研究者らは、中国政府は、西側諸国製の機器が外国勢力によってハッキングされることへの懸念を強めていると指摘した。
国有資産監督当局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
政府系の研究者らはこの1年、地政学的な懸念を理由として、国内の金融インフラにおけるハッキング対策を強化するよう政府に呼びかけてきた。
3月に発表されたある研究論文は、中国のクレジットカード「銀聯(ユニオンペイ)」の決済システムが米BMCのソフトウェアに依存している点に注目。「米国側が設定したハードウェア及びソフトウェアのセキュリティーの脆弱性に注意し、金融セキュリティーのファイアウォールを築くべきだ」と指摘した。
BMCはコメントを控えるとしている。
国営通信大手の中国電信の研究者らが専門誌「サイバースペースセキュリティ」 で今年発表した論文は、中国が米半導体大手クアルコムのバックエンド管理用の製品や、基本ソフトとして米アップルの「iOS」、米アルファベット傘下グーグルの「アンドロイド」に依存しすぎていると結論づけている。
研究者らは「これら(のシステム)はすべて米国企業にガッチリと掌握されている」と指摘した。
米財務省によれば、中国は世界貿易機構(WTO)の公的調達に関する条項に調印していないため、こうした国産品への置き換えの取り組みが国際合意に反しているとは考えにくいという。米国も同様に、公共部門が行う調達から中国企業を排除するルールを導入している。
クアルコム、グーグル、アップルにコメントを要請したが、今のところ回答はない。
<勝ち組と負け組>
独自のコンピューティング・システムを構築する中国の取り組みは、少なくとも2006年の科学技術開発5カ年計画までさかのぼる。同計画は、国家的な優先分野として半導体及びソフトウェアシステムを挙げていた。
この取り組みから生まれた国有企業が、このところ大型案件の落札を増やしている。ハルビンの案件を落札した2社は、米国の厳しい制裁の対象となっている中国電子信息産業集団と中国電子科技集団の子会社だった。
国産オフィス業務処理ソフトウェアを開発する北京の企業の従業員は、当局による22年の指示を受け、国有企業はマイクロソフトやアドビなどの米国企業の製品を使わなくなったと話す。
例えば国有煙草メーカーと取引のあるソフトウェアベンダーの従業員によれば、中国煙草は7月、子会社の一部でマイクロソフトのウィンドウズから中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)のEulerOSへの切り替えを開始したという。
西側諸国のテクノロジー企業は長年、中国政府の懸念に対処するためソースコードを提供し、中国企業と提携契約を結んできた。だが、中国工程院の倪光南氏など著名なコンピューター科学者は、こうした対応では中国のセキュリティー面でのニーズを満たすには十分ではないと指摘している。
中国煙草、マイクロソフト、アドビにコメントを要請したが、回答は得られなかった。
ロイターをはじめとするメディアは9月、中国の中央政府機関において一部の職員が業務でのiPhone使用を禁止されたと報じた
在中国欧州連合商工会議所は、ロイターの問い合わせに対し、「一部のセクターや顧客が国内サプライヤーを選ぶようになっており、外国のサプライヤーは非公式の障壁にぶつかることが珍しくない」と回答した。
在上海米国商工会議所は今年、同会議所に加盟しているテクノロジー企業の89%が、規制上の障害として「中国国内のライバルに有利な調達慣例」を挙げたと報告している。これはすべてのセクターの中で最も高い数字だ。
同支部のエリック・ツェン代表は、中国の国家安全保障上の懸念を認識しつつ、「米中両国の利益のために、米国企業がフェアに競争してビジネスチャンスを追求できるよう、通常の調達手続きが政治に左右されないことを願う」と述べた。
米商務省、中国電子信息産業集団と中国電子科技集団にコメントを要請したが、回答は得られなかった。
<優位に立つ華為技術>
中国の法人向けテクノロジー産業に詳しい3人の情報提供者によると、国産品への置き換えを目指す今回の動きの先頭に立つのが華為技術だ。
ソフトウェアやクラウドコンピューティング部門を含む華為技術のエンタープライズ事業は、2022年には前年比30%増となる1330億元の売上高を計上した。
情報提供者の1人は、非上場企業の華為技術は、国有企業グループに比べて製品の発売やプロジェクトの推進という点で機敏だと話す。
他の2人の情報提供者は、華為技術の優位点として、半導体からソフトウェアにまで至る製品ラインアップの幅広さを強調した。
また中国煙草のテクノロジー関連サプライヤーの従業員によれば、華為技術は社内サーバーと外部クラウドネットワークにおけるデータ処理能力、さらにはサイバーセキュリティー製品を幅広く提供している点も顧客に高く評価されているという。
華為技術はコメントを控えるとしている。
国産品への置き換えの動きによって、ソフトウェア産業の下位産業全体の構図も変化している。調査会社IDCによれば、データベース管理システム分野において、米企業を中心とする主要外国企業5社の中国市場におけるシェアは、2018年には57.3%だったが、2022年末には27.3%まで低下した。
一方、国産品への置き換えに向けた大規模大投資があっても、銀行や電気通信企業のデータベース管理のサプライヤーとしては、外国企業が依然として優位に立っている。テクノロジー市場専門のコンサルタント企業イコールオーシャンによれば、2022年末の時点で、銀行向けデータベースシステムに関する市場シェアは非中国企業が90%を握っている。
金融機関は一般的に、政府からの圧力があってもデータベースシステムの乗り換えには消極的だと、業界関係者の1人は言う。他の多くのセクターに比べ、金融機関では安定性への要求が高く、国内企業ではそのニーズに応えきれないと語る。
業界関係者の1人は、銀行がパソコンに関して国際ブランドから中国の主力サプライヤーであるレノボ に乗り換えるとしても、肝心の半導体については西側諸国の企業が提供する製品への依存が続くだろうと話した。
(翻訳:エァクレーレン)
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