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アングル:繰り返されるギリシャの森林火災、問われる再植林の是非

ロイター / 2024年9月30日 14時28分

 8月、ギリシャのアテネに面した丘陵地帯は森林火災の犠牲になったものの、最南端の部分では延焼が食い止められた。写真は火災の被害にあった自宅にたたずむマルレーナ・カルーディさん。ギリシャ・ペンテリで9月4日撮影(2024年 ロイター/Stelios Misinas)

Edward McAllister

[アテネ 19日 ロイター] - 8月、ギリシャのアテネに面した丘陵地帯は森林火災の犠牲になったものの、最南端の部分では延焼が食い止められた。2年前の火災ですでに焼失し、木々が生えていなかったからだ。だがその数キロ西側では、炎は新たな燃料を見つけた。森や雑木林がアテネ市郊外へと炎を導いてしまったのだ。

その道筋に、マルレーナ・カルーディさんが1970年代から暮らしている緑豊かなペンテリ村があった。火災はカルーディさんの家を焼き尽くした。しかし彼女が戻った時に最も心を痛めたのは、庭にあった樹齢100年以上の松の木々が茶色く焦げていた光景だった

壁だけが残る自宅の裏に座ったカルーディさんは、「最大の被害は家屋ではない。家は建て直すことができる」と嘆く。「私たちが来るより前からここに生えていた、そして私たちが死んでからも生き続けることを願っていた木々が焼けてしまった」

こうした惨状は、ギリシャをはじめ地中海沿岸地域の各所でよく見る光景となっている。科学者らが気候変動との関連を指摘する気温上昇と乾燥化により、森林火災が頻発し、規模も大きくなっているためだ。

国費で運営される研究施設である国立アテネ天文台が8月に発表したデータによれば、アテネを中心とするアッティカ地方では、2017年以来、森林・草原の37%が火災により焼失した。広葉樹林の60%以上、針葉樹林の41%が焼失し、まだ完全には再生していない。

4人の専門家は、森林の喪失により、樹冠や根系による保護を失って露出した土壌に雨が降ることで鉄砲水が発生しやすくなるだけでなく、剥き出しの地面の熱による気温の上昇、砂漠化、大気汚染の悪化が懸念されると指摘する。

政府の対応のあり方をめぐる議論も生じている。今後の火災の燃料を提供することになりかねない森林再生プログラムを続けるか、あるいは一部の科学者が呼びかけるように、新たな適応の道を探るかだ。

カルーディさんにとって結論は明らかだった。アテネ市北側の郊外を煙で覆い尽くした先月の火災の後、近所の人々はカルーディさんの庭に残された木を伐採するよう求めた。カルーディさんは断った。

「この森が失われたことに脅えている」とカルーディさん。「だが恐ろしいのは、残された木まで切り倒したいと考える人が存在するということだ」

<問われる植林の是非>

衛星画像で見ても、森林火災はアッティカ地方の風景を激変させている。数年前に植林された丘陵地帯は丸裸になり岩肌を見せている。森林が再び芽生えはじめた場所がまた炎の犠牲になることも多い。木々の姿とともに野鳥のさえずりも消えた。

衛星画像を使って森林破壊を追跡調査する取組み「グローバル・フォレスト・ウォッチ」のデータでは、アッティカ地方で2000年以降に生じた火災関連での森林喪失のうち、74%は2017年以降に発生している。

ギリシャだけの話ではない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「グローバル気候ホットスポット」として地中海沿岸地域に注目している。地上の気温が産業革命以前より1.5度上昇することにより、すでに森林火災と干ばつのリスクが増大しているからだ。

森林火災の脅威は、米国やカナダ、オーストラリア、さらには雨の多い英国でさえ高まりつつある。それとともに、森林が焼失した後にどう対応するかという議論も始まっている。

根系を回復し、失われた二酸化炭素吸収源を復活させるため、再植林を望む声もある。だが、森林と火災地帯は共存できないという意見もある。

4人の専門家によれば、現時点ではどちらが正しいという確かな証拠はなく、現地の要因に応じて最善の策が決まる、という。ただし、特に同じ場所が繰り返し火災の被害に遭っているような地域では対策の見直しが必要だとする見解もある。

コロラド州立大学で火災生態学を研究するカミーユ・スティーブンスルマン准教授は、「何をなすべきか、確たるコンセンサスはない」と言う。「その土地のかつての姿を取り戻したいと思ってしまうことも多いが、森林火災多発の時代にはふさわしくない場合もある」、

ギリシャは森林を取り戻したいと考えている。ギリシャ政府は欧州連合(EU)からの4億5000万ユーロの支援をもとに、アッティカ地方で100万本の木を植えることを含めた全国火災防止計画を採択した。

だが、火災の後で森林を再生してもうまく行かないと考える人もいる。

国立アテネ天文台の火災気候学者テオドール・ジャナロス氏は、先月の火災で黒焦げとなったアテネ郊外の丘陵地帯を調査した。

ただでさえ夏季には高温となる地域だが、来年は木陰が失われたことでさらに暑くなるだろう、とジャナロス氏は言う。木々が張り巡らす根が失われたことで土壌は緩くなり、洪水や地滑りのリスクも高まるという。埃も増えるはずだ。

木を植えるのではなく、何らかの種類の芝や農地など、火災になりにくい植生にしていくことが解決策だ、とジャナロス氏は指摘する。

「単に木を植えて森林を再生するだけでなく、自然災害への抵抗力を強化するような方向で景観を回復していく方法を真剣に考える必要がある」

<副次的な影響>

一方で、かつては火災とは無縁だった地域も被災するようになっている。

トドリス・アルバニティスさんはこの35年間、アテネ北方の森林地域にある100エーカーの農地で有機栽培に勤しんできた。意欲的な農家のための講座を開き、農業労働者のための宿舎を用意し、果実・野菜を栽培するビニールハウスをずらりと並べていた。

だが先月の森林火災で、合計の投資額が100万ユーロにも及ぼうかという設備と作物は灰じんに帰した。今は、うつろな姿をさらす納屋でトタン板が風にカタカタと鳴っている。新しく植えたイチジクの列も全滅した。焦げたジャガイモも腐るに任せたままだ。

作物がすべてダメになったわけではなく、アルバニティスさんは再建計画を立てている。先日の午後には、農園のスタッフが顧客向けに出荷するため、ナスやサヤマメ、メロンを収穫する姿が見られた。

とはいえ、火災について語るときのアルバニティスさんは感情を抑えきれない。炎は周囲の木々から家に向かって押し寄せてきた。消防隊の支援はなく、他の住民に頼ってその場を切り抜けた。

「あちこち火を消して回ったが、別の場所で炎が上がり続けた。ある時点でもはや手の施しようがなくなった。火は農場のすぐそばまで迫っていた」

(翻訳:エァクレーレン)

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