アングル：ＡＩブームで電力需要増、ＥＳＧファンドのハイテク企業投資に影響か

　９月２６日、人工知能（ＡＩ）ブームで大量の電力が必要になったのに伴い、大手機関投資家は米マイクロソフトやアルファベットに電力需要についての詳細な情報の開示を求めている。写真はデンマーク・フレデリカにあるグーグルのデータセンターの冷却タワー。２０２０年撮影（２０２４年　ロイター/Frank Cilius/Ritzau Scanpix）

Isla Binnie

[ニューヨーク ２６日 ロイター] - 人工知能（ＡＩ）ブームで大量の電力が必要になったのに伴い、大手機関投資家は米マイクロソフトやアルファベットに電力需要についての詳細な情報の開示を求めている。今後もこれらの企業をＥＳＧ（環境・社会・企業統治）ファンドに大きく組み入れ続けるべきかどうかを判断するためだ。

こうした問題が話題に上り始めたのは最近だが、ロイターが取材した欧米のファンド業界幹部６人は、ＡＩブームによる環境への影響を以前より注視していると語った。ゴールドマン・サックスの推計では、ＡＩブームによってデータセンターの電力需要は２０３０年までに１６０％増加する見通しだ。

これらＡＩ関連企業への投資削減を検討していると述べた幹部は１人もいなかった。ただＡＩ開発競争をリードする大手ハイテク企業の一部では、既に温室効果ガス排出量が増加し始めており、リターンだけでなく環境も重視する資産運用会社は問題を提起し始めている。

ＡＩとクラウドコンピューティングは成長の重要な推進力である以上、ハイテク業界の電力需要が衰えることはなさそうだ。もっとも、データセンターのエネルギー効率が大幅に向上すると予想する声も多い。

ＥＳＧファンドにとって、ハイテク株の多くは人気の投資先になっている。製造やエネルギーなどの他の産業よりも温室効果ガスの排出量が少ないにもかかわらず、突出した利益を上げているからだ。

ＥＳＧ投資は新型コロナウイルスのパンデミック期に盛り上がった後、やや人気が落ちている。それでもデータ会社モーニングスター・ダイレクトのデータによると、欧州連合（ＥＵ）の「サステナブルファイナンス開示規則」第８条および第９条の基準を満たす、最も厳格なＥＳＧファンドの保有株式は依然２兆２４００億ドルに上る。世界の株式ファンド総額は昨年時点で約３０兆ドルだ。

いわゆる「８条ファンド」は「環境または社会的な特徴等を促進する」、「９条ファンド」は「サステナブル（持続可能な）投資を目的とする」と規定されている。

最大規模のＥＳＧファンドの上位保有銘柄を見ると、米アップル、米アマゾン・ドット・コム、米アルファベット、米マイクロソフト、米メタ・プラットフォームズ、米エヌビディアなどの巨大ハイテク企業が名を連ねている。

投資家やアナリストは、温室効果ガス排出量を巡る懸念が払拭されない場合、これらの投資の一部に影響が出る可能性があると言う。

デンマークのノルデア・アセット・マネジメントの責任投資部門を率いるエリック・ペダーセン氏は「ハイテク企業に対して気候変動について働きかける上で、当社はＡＩという切り口をその中心部分に据えることになるだろう」と語った。

企業が現在および将来にわたって再生可能エネルギーを利用するという約束をしっかりと守らなければ、運用担当者は厳格なＥＳＧファンドの一部からそれら企業の株式を除外する可能性もある。  

＜ビッグシフト＞

ペダーセン氏は、ＥＳＧファンドの標準的な構成を最も大きくシフトさせる可能性がある分野のひとつがＡＩだと指摘。ＡＩ関連企業は、ノルデアのＥＳＧ基準を満たすのが難しくなるかもしれないという。

ノルデアの運用資産２６５０億ユーロ（２９１７億ドル）には、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、アップル、エヌビディア、メタの株式への投資約１７０億ユーロが含まれている。

モルガン・スタンレーのカルバート・リサーチ・アンド・マネジメントのシニアＥＳＧリサーチアナリスト、ジェイソン・チー氏は、各社に現在のエネルギー使用に関するより詳しい情報を求めている。チー氏は、電力供給契約（ＰＰＡ）などのデータ開示で先頭を走っているのはマイクロソフトだが、同氏が望むほど多くの情報を提供している企業は皆無だと述べた。

投資家は、企業自らの温室効果ガス排出量だけでなく、関連するサプライチェーン（供給網）からの、いわゆる「スコープ３排出量」についても、より多くの情報開示を求めるようになっている。

＜課題＞

コンピューティングとデータセンターにおける電力需要増という課題は、ハイテク企業自体にとっても見過ごせるものではない。

マイクロソフトは２０２３年にサプライチェーンの温室効果ガス排出量が３０．９％増加したと発表。アルファベットは総排出量が１３％増加したと報告している。両社とも、排出量の増加は課題だと表明した。

メタは今年、２０２０年以降は事業活動による排出量実質ゼロを達成していると説明。ただ、２０３０年までにバリューチェーン全体の排出量を実質ゼロにする目標については、ＡＩに必要な電力を考えると達成がずっと困難になるとの見通しを示した。アマゾンとアップルは最新の環境報告書で、排出量が減少していることを明らかにした。

カルバートのチー氏は、ＡＩ開発の段階ごとに、サプライチェーンの中で電力需要が集中する部分は異なってくると予想している。つまり、現在はデータセンターが大量の電力を必要としているが、将来的には他の企業でより多くの電力が必要になる可能性もある。またＡＩ推進派は、ＡＩ技術が最終的には他の産業分野のエネルギー効率向上に役立つ可能性があると主張している。

企業がＡＩに必要な電力を低炭素エネルギーで担おうと努めていることは、原子力発電への投資増加にも表れている。

アマゾンは今年、再生可能エネルギーを補うために原発からの電力購入を開始すると発表した。またマイクロソフトは先週、ペンシルベニア州の原子力発電所の再稼働を支援する契約を結んだと発表した。