アングル:中銀デジタル通貨、トランプ氏禁止令で中国・欧州が主導権
ロイター / 2025年1月31日 16時53分
トランプ米大統領が就任早々の1月23日に米ドル版中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行禁止を打ち出したことで、CBDCの試験的な導入で先行する中国や欧州諸国による国際標準化に道が開かれたと専門家は指摘する。 写真は中国のデジタル通貨のイメージ。2020年10月撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)
Marc Jones
[ロンドン 28日 ロイター] - トランプ米大統領が就任早々の23日に米ドル版中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行禁止を打ち出したことで、CBDCの試験的な導入で先行する中国や欧州諸国による国際標準化に道が開かれたと専門家は指摘する。
米国は以前から世界最大の基軸通貨であるドルのデジタル化に慎重な姿勢を示していたが、それでもなお今回世界で唯一、大統領令でCBDCを禁止したという事実は無視できない。米国も先週までは技術の急速な進歩を生かし、少なくとも流れに乗り遅れないようにするため、CBDCの導入を検討していた。
デジタル通貨の賛成派は、24時間365日リアルタイムで外国為替の決済が可能になり、利用が落ち込む現金通貨に代わる決済手段になり得ると主張している。
反対派は、決済制度上のこうした機能改善は既存のシステムでも実現可能だと訴え、世界各地で起きている導入反対運動はCBDCが政府による監視ツールになり得るというトランプ氏の主張の一つに重点が置かれる。中銀はこうした主張を否定している。
CBDCは開発を主導する先頭集団が形成されつつある。中国、バハマ、ナイジェリアなど先行する国ではすでにデジタル通貨の利用が広がっている。また、欧州では欧州委員会の内部で反発が強まっているにもかかわらず、欧州中央銀行(ECB)が今年後半に「デジタルユーロ」の主な仕様を発表する予定だ。
米シンクタンク、大西洋評議会のジョシュ・リプスキー氏は、トランプ氏の米ドルCBDCの禁止が米国内に与える影響は限定的だと見ている。米連邦準備理事会(FRB)は以前から個人向けデジタルドルに積極的ではなかったからだが、それでも今回の決定は重要な影響をもたらすと言う。
CBDC禁止は「最大の影響は世界に対するメッセージ」で、「欧州に対して、デジタルユーロによって個人情報保護やサイバーセキュリティー面における標準を独自に設定できる余地があると伝えることになる」と説明するリプスキー氏は、今後ドル連動型「ステーブルコイン」が事実上デジタルドルの役割を担う可能性が高いと予想した。
一方、中国については「関心が持たれているこの技術に米国は関与せず、われわれが先頭を走っていると他国にアピールし、CBDCの国際標準化を主導しようとする」と見ている。
<深まる分断>
トランプ氏はデジタルドルに反対の立場を取る一方で仮想通貨を支持し、仮想通貨の国家備蓄にも前向きな姿勢を示した。トランプ氏のこうした方針はCBDCを巡り地政学的な分断が広がりつつある状況下で示された。
国際決済銀行(BIS)は昨年10月、中国、香港、その他の新興国と協力して進めていたCBDC決済の国際的な実証実験プロジェクト「エムブリッジ」から突然離脱し、衝撃が走った。
トランプ氏の新たな大統領令はデジタルドルを禁止する理由として、個人情報保護の問題のほか、米国の主権や金融システムの安定性を脅かす恐れがある点も挙げた。
トランプ氏の大統領令は「脱ドル化」の流れにも影響しそうだ。
ブラジル中銀のCBDCである「DREX」の開発に携わるパルフィン社のマルコス・ヴィリアート氏は、米国の今回の決定が他国のCBDC推進の取り組み阻止することはないとしつつ、CBDC間の相互運用性を巡る懸念はさらに深まるとの見方を示した。
現在、多くの関係者が注視しているのは、BISが主導するもう一つのCBDCの実証実験プロジェクト「アゴラ」の行方。アゴラはエムブリッジと異なり、米ニューヨーク連銀を含むG7(主要7カ国)の中銀が主導する西側中心のプロジェクトだ。
ニューヨーク連銀、BISのほか、JPモルガンなどアゴラに参加している米大手銀は今後の方針について公式なコメントを出していない。
しかし、英シンクタンクの「公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)」のルイス・マクレラン氏は、トランプ氏がCBDC禁止を掲げたことで「アゴラのようなプロジェクトの価値が大きく低下するリスクがある」と見ている。
その上で、アゴラなどのプロジェクトをFRBの関与なしに進める唯一の方法は、法定通貨であるドルを裏付けとするステーブルコインを大幅に取り入れることだが、それには方針の大幅な変更が必要だとの認識を示した。
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