アングル:米大企業による多様性の取り組み、トランプ氏復帰前から後退の兆し
ロイター / 2025年2月1日 7時50分
20日に就任したトランプ米大統領は、機会均等の取り組みを廃止するキャンペーンを開始した。写真は、ウォルマートのロゴとショッピングカート。2022年7月、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニカ市で撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
Richa Naidu Simon Jessop
[ロンドン 27日 ロイター] - 20日に就任したトランプ米大統領は、機会均等の取り組みを廃止するキャンペーンを開始した。しかし、米国の大企業では同氏の就任前からすでに女性登用が遅れ、機会均等が形骸化する傾向が見られていた。企業の優先順位が変わってきている。
トランプ氏は就任直後、連邦政府機関などでの「多様性、公平性、包摂性(DEI)」プログラムを廃止する大統領令に署名し、民間企業にも同調を求めている。
だがその数カ月前から、 メタ・プラットフォームズから小売り大手ウォルマートに至るまで、米国の著名大企業はすでにDEIプログラムの廃止や縮小に動いていた。DEIプログラムは、職場での女性や人種的マイノリティ、LGBTQ+(性的少数者)、その他過小評価されているグループの雇用と昇進の機会を高め、長年の構造的なレイシズムや性差別に対処することをめざすものだ。
メタは、ロイターが確認した1月10日付けの内部メモの中で、「米国では、多様性、平等性及び包摂性に向けた取り組みをめぐる法律的、政治的状況が変化しつつある」と述べている。
24日には小売大手ターゲットが、DEIプログラムを縮小する米国著名企業の列に加わった。
反DEIを掲げる活動家は、DEIプログラムはマイノリティの出自を持つ人々に不当な優位を与えていると主張するが、DEI推進派は、縮小や廃止によって企業は不公正な状態に逆戻りしてしまうと懸念する。
ロイターでは、昨年DEIへの取り組みを縮小または廃止した大企業9社(メタ、ウォルマート、アマゾン・ドット・コム、スターバックス、ディア・アンド・カンパニー、フォード、ボーイング、マクドナルド、ロウズ・カンパニー)について、雇用機会均等委員会(EEOC)に提出された資料と、雇用の構成に関する報告書を精査した。
一部の企業は数年分のデータに限られているが、これらの資料からDEIの進捗にばらつきがあることが分かる。
上記9社のうち、米国で女性の比率がコロナ禍以降に上昇した企業は4社にとどまる。中間管理職における伸びも限定的で、ヒスパニックや黒人女性の比率は依然低いままだ。
アマゾンでは、米国の中間管理職に占める女性の割合が、2020年の29.5%から23年には32%に上昇した。重機メーカーのディア・アンド・カンパニーでは、同時期に27.2%から28.4%に上昇している。
アマゾンはこのデータへのコメントを控え、同社のDEI関連ウェブサイトを参照するよう求めた。12月には「時代遅れのDEIプログラムの縮小」に関する社内メモを出した、引き続き多様性と包摂性を重視するとしている。
一方で、後退しているように見える企業もいくつかある。
メタでは、中間管理職に占める女性の割合が20年の34.4%から23年には29.8%に低下した。フォードでは、21年の26.7%から23年には24.8%に減少している。
しかし、メタとフォードのトップ幹部に占める女性の割合は改善しており、それぞれ35.3%から36.3%、25.2%から27.4%に上昇している。
調査した9社では、23年の米国の中間管理職におけるヒスパニックおよび黒人の女性の割合は、それぞれ平均5%前後にとどまっている。
ロイターが入手可能なデータに基づいて計算したところ、フォードではこの年の中間管理職層のうちヒスパニック女性はわずか1.1%、黒人女性は8.8%だった。ディア・アンド・カンパニーでは、黒人女性が1.1%、ヒスパニック女性が1%である。
米労働統計局のデータによれば、米国の労働者のうち黒人の比率は13%、ヒスパニックまたはラテン系人種は19%を占めている。
<重要なのは「パイプライン」>
専門家は、中間管理職での多様性の促進が重要であると指摘する。ここで男女のキャリアパスが分岐することが多いからだ。
「パイプライン、パイプライン、パイプラインといつも言っているのはそのためだ」と、人材調査・コンサルティングのラッセル・レイノルズ・アソシエーツで欧州・中東・インド担当共同主任を務めるローラ・サンダーソン氏は語る。
「幹部委員会に女性がいるだけでは不十分。経営幹部候補として中間管理職のポストに女性がいる必要がある」
マッキンゼーのデータによると、米国企業のマネジャークラスに占める女性の割合は、20年に38%、23年に40%、24年には39%だった。
メタはロイターに対しDEIプログラムの縮小を認め、22年と23年の雇用データはレイオフの影響としたが、詳細は語らなかった。
ロウズは取材に応じず、ボーイングはウェブサイトのDEIデータを示すのみ。ディア・アンド・カンパニーはコメントを控え、スターバックスは従業員の構成データを提供したがロイターの試算へのコメントはなかった。ウォルマートは数値は認めたが、詳細な説明は控えた。
フォードはロイターに対し、21年に関してウェブサイトに掲載した資料は、この年のEEOC提出資料に基づいているものの、それ自体を提出したわけではないと述べた。21年の提出資料は共有しなかった。
マクドナルドは、ロイターが検証した雇用関連の提出資料にはフランチャイズ店舗が含まれていないため、米国内における同社の労働力の一部しか反映していないと述べた。
<変化する状況>
ジェンダー多様性の専門家らによれば、雇用や昇進機会の均等をめざす取り組みからの離脱は、米国の企業経営陣の姿勢の変化を示しているという。多くの企業でDEIの取り組みが増加したのは、20年に黒人男性のジョージ・フロイドさんがミネアポリス市警の警察官(当時)に約9分間にわたって膝で首を押さえつけられたことにより死亡した事件が契機となった。
その約3年前、「#MeToo」運動が注目を集め、職場の女性問題の議論が始まり、不平等やハラスメントが問われるようになった。
だがここ数年は、米国社会のいくつかのセクターで、機会均等への取り組みに対する反動が生じている。23年6月には、保守派優位となった連邦最高裁判所が大学の入学選考における積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を違憲とする判決を下した。この判例を機に、職場におけるDEIプログラムの廃止をめざす保守派団体による訴訟が相次いだ。
持続可能性に特化した英国の投資運用会社エデントゥリー・インベストメント・マネジメントで責任投資担当主任を務めるカーロタ・エスゲビラス氏は「企業は目立つことを避けるようになった」と語る。
マッキンゼーによれば、昨年の年次アンケート調査で「ジェンダー多様性は企業としての優先課題である」と回答した北米企業は全体の78%で、17年の88%に比べて減少した。マッキンゼーではこの10年間、北米企業における女性に関する年次報告を作成してきたが、同社シニアパートナーのアレクシス・クリブコビッチ氏は、「企業は、多様性はもはや最優先課題ではないと言っている」と語る。「深刻な後退を目にするのはこれが初めてで、とても心配だ」
一方で、男女間の格差が縮小するペースはきわめて遅い。管理職に昇進する人数の男女比は、18年の100対79に対し、24年でも100対81だ。
だが、DEIへの取り組みを諦めない大企業もある。アップルのEEOC提出資料によれば、同社の中間管理職に占める女性の比率は20年の28%から23年には29.8%に上昇した。1月初めには投資家に対し、同社にDEIプログラムの廃止を求める保守系シンクタンク「全国公共政策研究センター」による株主提案に反対するよう呼びかけた。
コストコの株主総会でも23日、DEIプログラムの見直しを求める提案が圧倒的多数で否決されている。
(翻訳:エァクレーレン)
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