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マウスピース矯正事業「早い段階から破綻を認識」 デンタルオフィスXの関係者証言、録音データから明らかになった自転車操業の実態

47NEWS / 2023年2月25日 10時0分

 歯の矯正治療を巡る金銭トラブルで集団提訴し、記者会見する加藤博太郎弁護士(前列左)と原告=1月26日、東京・霞が関

 医療法人「デンタルオフィスX(エックス)」運営の歯科診療所で、マウスピースを使った矯正治療事業を巡る金銭トラブルや健康被害が相次いでいる問題で、事業展開に携わったメンバーが共同通信の取材に応じ「経営陣は早い段階から事業運営が破綻するのを認識していたのに勧誘活動を続け、問題を拡大させた」と証言した。

 デンタルオフィスXは、宣伝に協力すれば治療費が返金され「実質0円」になるとうたう「モニターモデル制度」を活用し、若い世代を中心に患者を急速に集めた。治療費を賄う多額のローンを抱えたまま放り出された状態となった患者の集団訴訟を手がける加藤博太郎弁護士は運営の実態について、新規患者から得られる売上金をそれまでの患者への返金に回す自転車操業だった可能性が高まったと判断。詐欺や特定商取引法違反の疑いがあるとして刑事告訴を検討している。(共同通信=松尾聡志)

 ▽運用益を元手に患者に返金する算段
 共同通信は、2022年4~8月に開かれたデンタルオフィスXの運営会議の録音データを関係者から入手した。メンバーの証言も合わせると、事業は2019年1月に福岡市で始まり、東京の石神井公園や銀座、京都市に拡大した。ともにコンサルティング会社の「THE GRANSHIELD(ザ・グランシールド)」と「Earther(アーサー)」の代表が事業の最高経営責任者(CEO)と総務担当役員に就任。米国の企業が開発したマウスピース矯正システム「インビザライン」で最高ランクの「レッドダイヤモンドプロバイダー」の称号を持つ歯科医師が技術総合担当役員だった。そしてデンタルオフィスX理事長の歯科医師を加えた計4人が経営陣に当たる。

 事業展開を支えたのが取材に証言したメンバーらだ。ファイナンシャルプランナーなど金融関連の有資格者が多く、アーサーと業務委託契約を結んで患者の勧誘を担っていた。証言によると、デンタルオフィスXの資金面は実質的にアーサーが管理していた。矯正の新規契約による売上金から診療所の運営経費などを差し引いた上で、一部をTHE GRANSHIELDに委託して投資に回し、その運用益を元手にモニターモデルになっている患者に返金する算段だった。

 ▽CEOは「ノリと勢いで行ってた」
 2022年3月、モニターモデルの患者への返金がストップし、金銭トラブルが表面化した。対策を話し合うため、デンタルオフィスXは4月上旬に会議を開いた。その録音データには、ずさんな経営実態を巡るやりとりが収められていた。

 デンタルオフィスXの事業のCEOも務めていたTHE GRANSHIELDの代表は「モニターモデルはたくさんの売り上げをつくるけど、利益でいうとほぼ残らないんですね。当時の経営判断としてノリと勢いで(事業を)行ってたんじゃないかな」と解説。患者が保有するモニターモデルの契約書に記載された契約相手はTHE GRANSHIELDだが、THE GRANSHIELDの代表は「そもそも契約書をアーサーが勝手に作ったというストーリーに」と持ちかけた。

 アーサーの代表は「アーサーとしても個人としても社会的に終わるのは間違いないので、全体の利益を考えるとアーサーを悪くして勝手にやったというのが現状の解決策になる」と応じた。

 返金が停止した直後、アーサー名義で患者に理由を説明する通知を送った。そこには「ロシアのウクライナ侵攻で海外口座の資金が動かせなくなったため」と記載されていたが、会議ではTHE GRANSHIELDの代表が「突っ込みどころ満載」と苦笑する場面もあった。


 デンタルオフィスXが患者に提供したマウスピース矯正器具

 ▽売上金の使途に多額のキャバクラ代か
 2022年4月中旬に複数回開かれた会議の録音データをまとめると、THE GRANSHIELDの代表は事業運営をアーサーの代表に一任していたと主張。石神井公園に診療所を設けた2019年11月ごろには投資に振り向けるための資金が届いていないことに気づいたと明かし、アーサーの代表も入金していなかったことを認めていた。

 運用益で返金を賄うという資金繰りの根幹が崩れた後に経営陣は銀座や京都に手を広げていた。勧誘役だったメンバーの一人が「きちんと返金されるか心配する患者には運用のプロがいるから大丈夫と説明してきたのに、話が全く違う」と訴えた。別のメンバーも「ポンジ・スキームと同じじゃないか」とくってかかって修羅場と化し、内部崩壊が鮮明となった。

 米証券取引委員会(SEC)によると、ポンジ・スキームは投資詐欺の手法で、1920年代に米国を騒がせたチャールズ・ポンジにちなんで名付けられた。運用益を配当するなどとうたって資金を集め、実際には新規の出資者から得た資金を既存の出資者に支払うことで事業が回っているように見せかけ、お金をだまし取る。出資者の増加ペースが鈍ると配当金が工面できなくなり、詐欺のシステムが破綻する。

 会議ではアーサーの代表が、技術総合担当役員だった看板歯科医師が「(事業運営に)現状関わっていないみたいな話をしているので、逃げる準備をしているのかなと思う」と明かす場面もあった。2021年末に会ったのが最後で、その際に「ちゃんと売り上げが上がっていないという話は伝えたので(この歯科医師は資金が枯渇することを)認識していたと思う」とも指摘した。

 2022年8月上旬に開かれた会議の録音データによると、THE GRANSHIELDの代理人弁護士が実態調査の結果を説明した。それによると、デンタルオフィスXの売上高は累計約27億円で、このうち約10億円は既にモニターモデルの患者への返金に充てられていた。差額の約17億円については、診療所の開設費やマウスピースの仕入れ代のほか、多額のキャバクラ代など問題のある使途も含まれていたと指摘した。

 ▽ローン申請で偽装指示も
 取材に応じたメンバーは、患者数は約1700人と経営陣が内部で説明していたと明かした。これに対し、患者の集団訴訟を担当する加藤弁護士は独自に入手した患者リストから「もっと多い可能性がある」との見方を示す。

 加藤弁護士が入手した通話アプリLINE(ライン)のやりとりによると、THE GRANSHIELDの代表は福岡で事業を始めた2019年当時、勧誘役のメンバーに「月に100症例ぐらい集めたい」と呼びかけていた。患者が中小企業の従業員や個人事業主だった場合には「ローン(の審査)が通りにくいので勤続年数は5年以上、年収も多めに」と申告内容を偽装するよう指示。「(金融機関の)調査は一切入らない」とも伝えていた。

 2020年6月に福岡の診療所で契約を結んだ川上千尋さん(仮名)は、治療費の154万円を賄うローンを申し込むため地方銀行の支店に出向こうとしたところ、勧誘役のメンバーからウェブ申請を使うよう求められた。当時無職だったが、勤務先を親族の会社にし、年収欄に500万円と入力するよう促された。

 石神井公園の診療所で2020年10月に契約した岸野冴子さん(仮名)も信販会社へのローン申請で、勤務先を前職の上場企業にし、年収を500万円に水増しするようメンバーに言われ、「本当に問題ないのかな」と思いながらも従った。岸野さんによると、メンバーから「信販会社から問い合わせがあった際には絶対にモニターモデルのことはバレないように」と念押しされた。

 患者約150人が2023年1月、医師や運営会社幹部らを相手に総額約2億円の損害賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こした。加藤弁護士は近く100人以上の規模で追加提訴すると明らかにした。THE GRANSHIELDは患者に対し「モニターモデル料の支払い再開に当たり具体的な手続きを検討している」と説明している。

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