過去40年で最悪の干ばつ、巨大な穴に道の両脇に…家畜の死臭漂う現場を歩いた 「国際社会が見過ごした」エチオピア南部で何が
47NEWS / 2023年5月21日 10時0分
日本がバブル景気に沸く少し前の1983~85年、アフリカ東部のエチオピアは世紀の飢餓に苦しんでいた。最終的に100万人の犠牲者を出したとも言われる大災害の原因は、紛争と並び大地を襲った干ばつだった。
世界に「悲惨なアフリカ」のイメージを印象づけることになった飢餓から約40年。国連がそれ以降で最悪と訴える大規模な干ばつが再びアフリカ東部を襲った。ケニアやソマリアの一部とともに、最も深刻な地域の一つとされるエチオピア南部ボラナ県を取材すると、そこには力尽きた家畜の死骸と死臭に包まれつつ、なすすべもなく人々が立ち尽くす残酷な光景が広がっていた。(共同通信=菊池太典)
▽350万頭の牛が消えた
首都アディスアベバから飛行機と車を乗り継ぎ、まずは県の北西にある町ヤベロに入った。ヤベロは干ばつ地域の一歩手前にあり、現地に向かう政府や援助機関の支援隊が滞在する拠点となっている。泊まった宿の敷地には、日本の国際協力機構(JICA)のロゴが入った車両も駐車していた。
エチオピア南部ボラナ県ヤベロに駐車していた、JICAのロゴが入った車両=3月(共同)
「本当に干ばつなんて起きているのだろうか」。人や家畜が忙しく行き交う活気あふれるヤベロで感じたこんな疑問は、すぐに打ち消されることになる。より乾燥している南方へ向けて車を走らせると、30分とたたずに道の両脇に牛やヤギの死骸が目立ち始めた。既に骨だけのもの、腐乱して強烈な異臭を放つもの、昨日今日に死んだような真新しいもの、死骸の状態はさまざまだ。
この地域では住民のほとんどが牧畜で暮らしている。売り物としても、自家用としても、家畜のミルクや肉、労働力が生活を支えてきた。しかし2020年から続く干ばつで草が枯れ果て、放牧が成り立たなくなった。干ばつは気候変動の影響もあると指摘される。餌を失った家畜は次々と衰弱して死を迎えた。県政府によると、県内で飼育される牛は干ばつ前の4百万頭から50万頭に減ってしまった。
死骸の横を人々は何事もないように通り過ぎていく。取材を案内してくれた地元NGO「ガヨ・牧畜開発イニシアチブ」のジャルデッサさん(35)は悲しそうに言った。「ここ2年、あまりに多くの死骸を目にしてきたので、みんなもはや気にもしないのです」
干ばつが続くエチオピア南部ボラナ県で道の脇に散らばった牛の死骸=3月(共同)
▽掘られた巨大な穴の中には…
住民の話からは厳しい状況が浮かぶ。ある村で、村長のガルガロさん(75)が「見せたいものがある」と、村はずれに案内した。やがて赤茶色の大地に掘られた巨大な穴が見えてくる。穴の中に何があるか分かると、思わず吐き気を覚えた。そこには数え切れない数の家畜の死骸が累々と積み重なっていた。村では衛生対策で、死んだ家畜を穴に集め、いっぱいになると土をかぶせることにしたのだそうだ。周囲には埋め立ててできた小山が複数あった。
エチオピア南部ボラナ県の村で、家畜の死骸が集められた墓穴=3月(共同)
今回の干ばつで死んだ村の家畜は5千頭を超えるという。土の中には、ガルガロさんの全財産だった50頭の牛と20頭のヤギも埋まっている。ガルガロさんは同行中に何度も嘆きを口にした。「全て終わってしまった。元の生活は二度と戻って来ないでしょう」
家畜は食料を提供してくれるだけでなく、荷物の運び手でもあった。今は子どもたちが代わりの労働力となってしまった。県内を回っていると、小学生くらいの子どもが日中から重そうな水のタンクやまきを運ぶ姿が目につく。当然のように、干ばつ以降は就学率が大幅に下落したという。
家畜を失った住民はそもそも、生計を成り立たせることができず、住み慣れた土地を去るケースが相次いでいる。干ばつエリアにある町ドゥブルクでは、中心部を取り囲むように、枝などで組んだ骨組みに土壁を塗り、シートをかぶせただけの粗末な小屋がひしめく。ボラナ県では人口120万人の3割近くに当たる約35万人が、食料支援を求めて各地の避難キャンプに移り住んだ。
近く出産予定のカバレさん(37)は昨年中ごろ、子ども5人や夫と避難してきた。すぐにも家に戻りたいが「家畜がいないのに帰るのは死にに行くようなもの」。カバレさんには、新しい家族を迎え入れる喜びを感じる余裕がない。「一家はこれまで牧畜しか知らず、これからどう生きていけばよいのか不安でなりません」
エチオピア南部ドゥブルクで避難キャンプに向かう男性=3月(共同)
▽果たして犠牲になった人数は
取材をしていると自然とあることに関心が向いていく。「果たしてこの干ばつでどれだけの人が亡くなったのか」ということだ。「家畜が全滅して気を病んだ近所の男が自殺した」「ある時期に村内の高齢者が相次ぎ餓死した」。住民からはいろいろな声が聞こえてきた。ドゥブルクのヘルスセンターでは、極度の栄養失調で搬送され、力なく横たわる子どもたちがいた。
極度の栄養失調で医療施設に搬送された男児(2)を背負う母親=3月、エチオピア南部ボラナ県
ただNGOのジャルデッサさんはいらだち混じりにこう切り出した。「亡くなった人の正確な数を調べる余裕がありません。被害の大きさに比べ、外の世界からの支援があまりに少ないのです」
ジャルデッサさんは「国際社会がロシアのウクライナ侵攻への対応に追われている間に、甚大な被害が見過ごされてしまった」とみる。
取材した3月中旬は、例年であれば1年を通して最大となるはずの雨期が始まる時期だ。今年も空には厚い雲が覆い、短時間ながら雨も降った。それでもジャルデッサさんは最後にこう強調した。
「もし明日にでも干ばつが終わったとしても、既に住民の多くは家畜を失いました。大規模な復興支援は間違いなく必要となります。『顧みられない人道危機』となっているアフリカ東部の干ばつに、少しでも目を向けてください」
避難キャンプで暮らす子どもたち=3月、エチオピア南部ボラナ県(共同)
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