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隣人が同性カップルだと、なぜ嫌なの? 「生きづらさ」強いる元首相秘書官の差別発言、G7サミットを機に本当に理解は進むのか

47NEWS / 2023年5月22日 10時0分

大阪高裁で開かれた同性婚訴訟控訴審の口頭弁論に向かう原告ら=2022年12月

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の開催を機に、性的少数者の権利擁護に対する関心が高まっている。性的指向や性自認に関する議論は多岐にわたるが、大きな論点の一つが「同性婚」の法制化だ。共同通信が3~4月、全国の3千人を対象に実施した世論調査では、71%が「同性婚を認める方がよい」と回答。「認めない方がよい」の26%を大きく上回った。
 一方、今年2月には岸田文雄首相の秘書官を務めていた荒井勝喜氏が「(同性カップルが)隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」などと発言し、国会でも大きな問題となった。首相はその後、荒井氏を更迭した上で「不快な思いをさせてしまった方々におわび申し上げる」と陳謝したが、首相のスピーチ作成も担う最側近の一言は、官邸と世論の乖離を浮き彫りにした。


 なぜ、高い人権意識が求められる政府官僚からこうした差別発言が飛び出すのか。また実際のところ、同性カップルは地域コミュニティーの中でどのように暮らしているのか。当事者の声や研究データから、その実情を取材した。(共同通信=伊藤怜奈、山本大樹)

※記者が音声でも解説しています。以下のリンクから共同通信Podcast「きくリポ」をお聞き下さい。
https://omny.fm/shows/news-2/19

 ▽周囲になじみ、近所の人が子守や犬の散歩も
 古い町家が立ち並ぶ京都市内の住宅街で暮らす坂田麻智さん(43)とパートナーのテレサさん(40)。レズビアンの2人は2015年、同性カップルの婚姻が認められた米オレゴン州で結婚した。昨年8月には、知人男性から精子の提供を受け、テレサさんが長女を出産している。
 現在の家で暮らし始めたのは10年前。30年以上空き家だった木造の町家を麻智さん名義で購入した。近所には長年住み続けている人や高齢者も多いが「性的マイノリティーであることで暮らしにくさを感じたことは一度もない」(麻智さん)という。


京都市で暮らす坂田麻智さん(右)、テレサさん(中央)と長女(左)=2023年3月

 引っ越してきた直後は、近所の人にも2人のセクシュアリティーや関係性は話していなかった。まずは町内会主催の行事に積極的に参加。交流の機会を増やし、徐々に周囲になじんでいった。引っ越しから1年後、地元の新聞社から取材を受けたことをきっかけに、同性カップルであることをカミングアウトした。近所の人は「新聞に出てたね」「見たよ」と明るく声をかけ、今までと変わらない態度で接してくれた。
 麻智さんは「元々は性的マイノリティーに対して嫌悪感があった人もいたかもしれないが、お互いをよく知った上でカミングアウトしたのでスムーズに受け入れてもらえたと思う」と話す。長女が生まれた後も、近所の人が子守を買って出てくれたり、飼い犬の散歩をしてくれたりと関係は良好だ。

 ▽家族仲は良好、だからこそカミングアウトはしない
 麻智さんとテレサさんは、自分たちの関係を明らかにした上で地域に溶け込んで暮らしているが、全ての同性愛者が同じように暮らしているわけではない。家族にも明かさず、周囲の目を気にしながら暮らすカップルも多く、実体が可視化しづらいのも事実だ。
 大阪市のアパートでパートナーの男性と暮らす30代の男性は、自身がゲイであることは家族にも伝えていない。「親もニュースなどでLGBTQの存在は知っていると思うが、まさか自分の息子が当事者だとは思っていないだろう。家族仲が良いからこそ、関係を壊したくない」とこぼす。


大阪市のアパートでパートナーと暮らす30代男性=2023年5月

 男性は地方で生まれ育ち、進学を機に上京した。小さい頃から、周囲に過干渉な人が多い地元での暮らしに息苦しさを感じていたという。そうした人間関係から離れ、東京で暮らすようになって視野や交友関係もぐっと広がった。「もし地元で今のパートナーと暮らせるかと言われたら難しい。近所同士のつながりも強いし、子どもの頃から自分をよく知っている人たちにどう思われるか…」
 性的少数者の権利擁護に取り組む認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」が2018~20年に、累計7162人に実施したアンケートによると、ゲイの人ら性的少数者の一部は異性愛者の男女に比べて1人暮らしの割合が高かった。法人のスタッフは「背景の一つには生まれ育った環境で、生きづらさを感じた経験があるのではないか」と分析。「都心部での1人暮らしになると近所付き合いも希薄になる。それが当事者の居心地の良さにもつながっている」と話す。


認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」が累計7162人に実施したアンケートの結果をまとめた「職場のLGBT白書」

 ▽周りにいるかもしれない当事者や同性婚賛成派…いつの間にか「裸の王様」に
 元首相秘書官の荒井氏の発言は、同性カップルが感じる生きづらさや不安をさらに大きくするものだった。前出の男性は荒井氏が語った「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対だ」との言葉にも強い不信感を抱いた。「もしかしたら(荒井氏の)周りにもカミングアウトできていない当事者や、本当は同性婚に賛成の人がいるかもしれない。だけど『同性婚反対』という同調圧力がはたらく中では、本音を言えるわけがない」と推し量る。


「LGBT理解増進法案」について議論する自民党の合同会議=2023年4月

 麻智さんとテレサさんにも荒井氏の発言について尋ねたが、2人そろって「ありえない発言だ」とあきれ顔だった。麻智さんは「周囲で荒井氏の考えを批判できない雰囲気があり、いつの間にか『裸の王様』になっていたのだろう」とばっさり。さらに「首相の一番近くにいる人があんな発言をするなんて。個人の嫌悪感で私たちの権利が拒まれているのではないか」と危機感を抱く。テレサさんは「私たちは幸せに暮らしたいだけ。(荒井氏のような)差別的な発言をする人こそ、近くに住んでいたら嫌だと思う」と悲しみをにじませる。

 ▽近い存在ほど抵抗感
 周囲の目を気にしながら暮らす同性カップルがいる一方で、偏見や差別意識がにじむ言葉を公然と発する人もいる。なぜ、こんな状況が生まれてしまうのだろうか。
 「背景には、自分にとって『異質な存在』である人たちには、自分のコミュニティー、つまり同質的な空間に入ってきてほしくないという意識があるのではないか」。こう語るのは性的マイノリティーやジェンダーを研究する広島修道大の河口和也教授だ。
 河口教授のチームが2019年に実施した性的マイノリティーに対する社会意識の調査によると、「近所の人が同性愛者だったらどうか」との設問に対し、「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」といった否定的な回答をした人は28%だった。一方で、「近所の人」を「きょうだい」や「自分の子ども」に置き換えて聞いたところ、否定的な回答の割合は、それぞれ53%、61%に上昇した。


 河口教授は「調査結果と荒井氏の発言から、近所の人を子どもやきょうだいのように近い存在として見なす人ほど、抵抗を感じる傾向にあるといえるのではないか」と分析する。また、都市部と比べて地方では、性的少数者が周囲の視線を感じることも多く、行動が制限されてしまう側面があるという。こうした見方は、人間関係の密な地方での暮らしに生きづらさを訴える当事者が多いことの説明にもなりそうだ。
 では、この状況から脱するにはどうすれば良いのか。河口教授は「交流を重ねて、周囲の人々が性的少数者のことを『異質な存在』だと感じないようになるのが一番だが、そもそもカミングアウトするかどうかは当事者が決めること。まずは周囲の側が、身近に性的少数者がいるかもしれないという想像力を持つ必要がある」と語る。自分とは性的指向や性自認の異なる人がいるということを知り、思いを巡らす。そんな地道な取り組みが重要になる。

 ▽注目集める「LGBT理解増進法」、渦中の自民党は…
 国会ではこうした性的少数者に対する理解を広げるための「LGBT理解増進法案」に注目が集まっている。4月にまとめられたG7外相声明では、性的少数者の権利保護についても「G7の継続的なリーダーシップを再確認する」と明記された。G7各国は日本に速やかな法整備を求めており、国内でも自民党以外の各党はこの法案をサミット前に成立させるべきだとの立場で一致していた。


「LGBT理解増進法案」について議論する自民党の合同会議=2023年4月

 渦中の自民党は4月28日に党内で会合を開き、法案を巡る議論を約2年ぶりに再開した。2021年には与野党でいったん法案の内容に合意したものの、保守系議員らの反発を受けた自民党が土壇場になって了承を見送った経緯がある。今回も反対派の意見を踏まえ、超党派でまとめた法案の文言を一部修正し「与党案」として提出することになった。立憲民主党などとの距離は広がる一方で、法案の成立時期は不透明だ。
 法案提出が決まった今もなお、自民党内には反対の声がくすぶる。出生時の性別と本人が認識する性別が異なるトランスジェンダーへの対応で意見が割れているほか、同性愛者についても「社会の根幹、家族そのものに関わる問題であり、慎重に対応すべきだ」との声が上がる。


記者会見する「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」共同代表の寺原真希子弁護士(左)ら=2023年4月

 性的少数者や支援者らの団体は4月末、自民党の議論再開を受けて記者会見を開き、法整備の必要性を改めて訴えた。その中で、同性婚の実現を目指す公益社団法人「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」で共同代表を務める寺原真希子弁護士は次のように述べている。
 「世論の7割は既に同性婚に賛成しており、社会は準備ができている。議論が進んでいないのは国会だけだ。理解と法整備は、同時に進めるもの。当事者が被っている人権侵害を本当に解消しようと考えるのであれば、法律に差別禁止を明記した上で、同性婚の実現に向けて民法改正を進めるべきだ」

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