ロシアの核兵器使用はどれだけ真実味があるのか クレムリンへの「無人機攻撃」で高まる緊張 プーチン氏は小型核を一時検討
47NEWS / 2023年5月24日 11時0分
ロシア大統領府が5月3日、大統領府が置かれているモスクワ中心部のクレムリンがウクライナの無人機2機による攻撃を受けたと発表した。ウクライナ側は関与を否定したが、「大統領殺害を狙ったテロ」と捉えたロシアは激しく反発。ウクライナへの核攻撃を検討すべきだとの声も上がった。
これまでウクライナとの戦闘や西側との対立が激化するたびに、ロシアは核使用の威嚇を繰り返してきた。ウクライナ軍による東部での反転攻勢も予測される中、戦術核攻撃の可能性は現時点でどれだけ真実味があるのか。米国やロシアの報道を基に検証した。(共同通信=太田清)
▽他の選択肢はない
無人機攻撃後、ロシアのビャチェスラフ・ウォロジン下院議長は即座に「(ウクライナの)テロリスト政権を破壊することができる武器の使用を求める」と通信アプリに投稿、ウクライナへの核兵器使用を示唆した。ウォロジン氏は副首相や大統領府第1副長官を歴任したプーチン大統領の側近。
ロシア・モスクワ中心部のクレムリンの屋根付近で爆発する物体=5月3日(Ostorozhno Novosti提供・ロイター=共同)
また、ロシアの保守強硬派の政治家で国営宇宙開発企業ロスコスモスの社長を務めたドミトリー・ロゴジン氏は通信アプリに寄せたビデオ動画で、軍事ドクトリンによりロシアには核兵器を使用する完全な権利があり、ウクライナの攻撃を食い止める最良の手段は戦術核だとした上で「他の選択肢はない」と、戦術核使用が不可避であると強調した。
ロシア前大統領で、同国の安保問題に関する最高意思決定機関、安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ氏はこれに先立つ4月25日、モスクワで行われた会議で、核兵器は国家としてのロシアの基盤を成しており、国家の存在を脅かすような攻撃があった場合、核の先制使用があり得るとの考えを強調した。
ロシアのメドベージェフ前大統領=3月21日撮影(ゲッティ=共同)
▽小型の戦術核使用、戦場でのメリットは
ロシアがウクライナでの核使用を実際に検討したとの報道もある。英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は3月26日、消息筋の情報として、西側との核を巡る緊張が高まる中、プーチン大統領が昨年秋、ウクライナでの小型の戦術核兵器使用について検討したものの、最終的に戦場でのメリットがないことから断念したと報じた。
一般に戦術核兵器はTNT換算で数キロトンから数十キロトンと破壊力も比較的小さいほか射程も短く、地域レベルの戦場での使用を想定した核兵器を指す。独立系メディア「メドゥーザ」によると、ロシアが所有する戦術核は推定約800~1900発と幅があるが、運搬手段であるロケットの数を考慮すると、実際に使えるのは520~550発以下とされている。
ロシアとウクライナが激しい戦闘を続けているウクライナ東部での戦術核使用に関しては、ロシア軍自身も放射能汚染による被害を受ける恐れがあるほか、広い範囲に散在しているウクライナ軍に対する殺傷力も低いことから、かねて軍事専門家らの間で、その効果を疑問視する声が上がっていた。
ウクライナ東部ドネツク州でウクライナ軍と激しい戦闘を繰り広げている民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は、クレムリンへの無人機攻撃を受け5月4日、通信アプリで「ドローン攻撃に対し、核兵器で報復することはあり得ない」と強調した。
ロシア軍幹部に弾薬供給を求めるロシア民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏(同氏提供・AP=共同)
▽米国も対応策準備
一方で、米国はウクライナでの戦術核使用を想定、具体的な対応策を準備している。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は4月28日、米国がウクライナに放射線を検知するセンサーを提供すると報じた。同センサーは、ウクライナで核爆発が起きたり、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」が使われたりした場合、その規模や場所、影響を検知するほか、爆発や放射性物質の属性を分析し、攻撃した者が誰なのかを特定する目的で導入される。
米国はロシアが、陸上や海上輸送でウクライナ領土に核兵器を持ち込み、爆発させた後に、「西側からより多くの軍事支援を引き出すためのウクライナの自作自演」として責任を転嫁する事態などを警戒しており、こうしたセンサーがあればロシアの攻撃を明確に示すことができると期待している。
米エネルギー省核安全保障局(NNSA)の傘下にある核緊急支援チーム(NEST)がウクライナへの配備や、要員の訓練を担当。グランホルム・エネルギー長官が既に3月、計画の必要性について下院に報告、今年と来年、それぞれ約1億6000万ドル(約220億円)の予算を充てる方針だ。
また、AP通信は4月10日、交流サイト(SNS)に流出した米国の機密文書とみられる資料に、兵員や装備の不足などで追い詰められた場合、戦術核兵器の使用を承認する恐れがあるとの分析が記載されていると報じていた。
ウクライナ東部ドネツク州バフムト近くの前線で、りゅう弾砲を発射するウクライナ兵=4月23日(ロイター=共同)
▽下がる敷居
2010年に当時のメドベージェフ大統領が署名した軍事ドクトリンは、核などの大量破壊兵器による攻撃を受けた場合以外にも、「国家存続の危機」に立った場合にはロシアは他国に核攻撃を行う権利を有すると明言。20年に発表した「核抑止に関する国家政策の基本原則」でも、核使用は「敵国の通常兵器により国家が存続の危機に陥った場合」も認められると強調、敵が核兵器を使用しなくてもロシアが核攻撃を行えることを明示した。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)研究員、サム・クラニーエバンス氏とシッダルト・カウシャル氏は昨年6月に発表した共同論文で、14年に併合したクリミアが奪還されるような大敗北がない限りロシアがウクライナで戦術核を使用する可能性は低いとしながらも、ウクライナで優位に立つために通常兵力を再編成できない場合、戦術核の使用の敷居が下がる恐れを指摘した。
結局、ロシアはウクライナで核兵器を使用するのか。17年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)はホームページでこうした問いに対し「恐ろしいことだが、われわれにはプーチン氏が核を使用するのかどうか確実に知るすべはない。われわれが知っているのは核使用が受け入れがたい人道的結果を招くと言うことだけだ」と論評した。
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