全34試合フル出場!サッカー・ベルギー1部のDF渡辺剛は五大リーグにステップアップできるか リーグでGK除きただ1人の快挙
47NEWS / 2023年5月25日 11時0分
サッカーのベルギー1部リーグで、コルトレイクの渡辺剛(26)がレギュラーシーズン全34試合にフル出場した。Jリーグから欧州に渡って2季目のDFは、18チームが参加するリーグ全体の中でもGKを除くフィールドプレーヤーでただ一人という快挙を成し遂げ「シーズンが始まったときは1試合でも多く出られるようにという気持ちで、まさか全部出るなんて思っていなかった。チームメートやスタッフが喜んでくれたので、1シーズンを通して頑張ってきてよかった」と達成感を口にした。(共同通信=田丸英生)
▽「1年間クリーンにプレー」
昨年7月の開幕時から不動のセンターバックとして守備陣を統率した。身長186センチで日本では大型DFと形容されるが、ベルギーではさらに屈強で身体能力の高いFWとマッチアップすることも珍しくない。激しい肉弾戦は避けられないが大きな負傷をすることなく、警告を受けたのも3回のみ。「そのうち2回は抗議とハンドだったので、ファウルでもらったイエローカードは1枚だけ。1年間クリーンにプレーできた」と自負する。
シーズン終盤に入って周囲の期待も感じながら記録を意識するようになる中、レギュラーシーズン最終節の前にはふくらはぎを痛めて練習から2日間ほど離脱した。「あと1試合できるかなという心配もあったが、監督も『やれるならやった方がいい』と言ってくれたので、練習をあまりやらないまま試合に臨んだ」と強行出場して最後まで走り切った。
統計データによると空中戦やタックルの勝率、インターセプトなどさまざまな項目でリーグのトップクラスに名を連ねた。8勝7分け19敗とチームの成績は振るわず、2度の監督交代を経て14位で1部に残留。下位で苦しい戦いを強いられたシーズンとなったが「相手に攻め込まれるからこそ、活躍できる状況が多かった。自分にとっては良かったのかな」と前向きに受け止めて守備力に磨きをかけた。
コルトレイクに所属する渡辺剛=4月25日、ブリュージュ(JEB ENTERTAINMENT提供)
▽念願の欧州挑戦、想像していたより壁が
山梨学院大付高(現山梨学院高)、中大を経て2019年にJ1のFC東京に加入。同年12月に国内組で編成された日本代表に選出され、東アジアE―1選手権で1試合に出場した。Jリーグで3年間プレーし、昨年1月に念願の欧州挑戦に踏み切ったが「フィジカル面、言語など想像していたより壁があった」と当初はすんなりと適応できなかった。
寒くて日が短い冬場に、単身で初めての海外暮らし。食事など生活面でも苦労したが「少したって妻が来てくれて日本食を毎日食べられるようになり、徐々に英語でコミュニケーションも取れるようになった」と最初の半年で順応して土台をつくり、2季目の飛躍につなげた。
4月16日、アウェー・アントワープ戦の渡辺剛(KV Kortrijk提供)
▽有望株が欧州トップレベルへのステップアップを目指す
ベルギーはMFデブルイネ(マンチェスター・シティー)やGKクルトワ(レアル・マドリード)ら世界的な名手を擁する代表チームが18~22年に国際サッカー連盟(FIFA)ランキング1位に君臨し続けた。
ただ、主力のほとんどは国外の有力クラブに所属する。国内リーグは若手の登竜門と位置付けられ、日本を含め世界各地から集まった有望株が欧州トップレベルへのステップアップを目指す。敵味方を問わず野心を持った面々がしのぎを削り「みんな活躍すれば上があるという思いでやっていて、五大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)を目指している印象がある。いいプレーをしてやろうという姿勢に満ちあふれている」と刺激を受けている。
4月16日、アウェー・アントワープ戦の渡辺剛(KV Kortrijk提供)
▽決して華やかとは言えない環境だが…
サッカー文化は深く根付いているが、コルトレイクのホーム平均入場者数は約6千人。新型コロナウイルス禍の前に平均3万人を超えたFC東京の約5分の1にすぎない。「コルトレイクでは練習を見に来る人が少なく、取材を受けることもあまりない。
日本にいたときより注目度は低く、FC東京とのギャップは感じる」と率直に語る。ぬかるんだピッチで泥にまみれることは当たり前で、古びたスタジアムのロッカールームは狭苦しい。決して華やかとは言えない環境に身を置いたことが、心身の成長に拍車をかけた。「FC東京では多くの人に見てもらえるうれしさとプレッシャーがあった。一方でここには人生を懸けてチャレンジしに来ているので、成功しないといけないというプレッシャーがある。自分自身との勝負だと思う」と強い覚悟を口にする。
2021年12月、FC東京時代の渡辺剛(右)=味スタ
▽チームのファン投票、圧倒的な得票数で1位に
世界最高峰のイングランド・プレミアリーグで活躍する三笘薫(ブライトン)と冨安健洋(アーセナル)をはじめ、ドイツで名を上げた鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)や遠藤航(シュツットガルト)、フランスでプレーする伊東純也(スタッド・ランス)ら多くの日本代表選手がベルギーから欧州五大リーグに羽ばたいていった。26歳になった渡辺自身も「年齢的にもこのタイミングでステップアップするチャンスがあればチャレンジしたい」と意欲を隠さない。ベルギーの全国紙ニュースブラットが1部リーグのプレーオフに進めずシーズンを終えた10チームから選出したベストイレブンに、元ベルギー代表主将のフェルトンゲン(アンデルレヒト)や坂元達裕(オーステンデ)らとともに名を連ねた。チームのシーズン最優秀選手を選ぶファン投票では、7割を超える圧倒的な得票数で1位に輝いた。
スタンダール紙のバート・ラガー記者は「シーズン当初はあまり知られていなかったが、徐々に存在感を高めていった。対人プレーに強く、ボールさばきも安定している。次のステップに進めると思うし、ベルギーの強豪か五大リーグの中堅クラブでも通用するだろう」と評価する。
対戦したセルクル・ブリュージュの上田(左)とコルトレイクの渡辺=2022年10月、コルトレイク(共同)
▽「自分もいけるんじゃないか」
欧州で着々と実績を積むことで、センターバックの層が厚い日本代表に食い込む可能性も見えてくる。移籍当初は「このチームで活躍しないと代表はまだほど遠い」と感じていた距離感も、近づいているとの手応えはつかんでいる。
同世代の板倉滉(ボルシアMG)や冨安らがワールドカップ(W杯)カタール大会で躍動する姿を見て「あれだけ大きなステージで活躍してすごいと感じたが、今季のプレーをしていれば自分もいけるんじゃないかと徐々に感じている」。次回2026年W杯まであと3年。このペースで順調に成長曲線を描いていけば、夢の大舞台も決して遠くはない。
2月19日、ホーム・アンデルレヒト戦の渡辺剛(KV Kortrijk提供)
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