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陰謀論は米国の「体質」、ケネディ暗殺から60年の今もなお 背景に政府不信か、トランプ前大統領の影響も大きく【ワシントン報告②陰謀論】

47NEWS / 2023年6月1日 10時0分

1963年11月、米テキサス州ダラスで暗殺される直前のケネディ大統領(AP=共同)

 米国で陰謀論を聞かない日はない。今年で発生から60年となるケネディ大統領暗殺事件は、今なお陰謀論にまみれている。虚実織り交ぜた主張を展開したトランプ前大統領の影響も大きく、どう見ても荒唐無稽としか思えない主張が幅をきかせた。歴史に根ざす米国の体質との議論もある。一頃に比べれば勢いは下火になったものの依然としてある、政府への不信感が一つの背景ではなかろうか。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕)
 ▽膨大な史料
 膨大な史料が集積するワシントン近郊の国立公文書館新館。ケネディ暗殺の文書は500万ページを超え、一つの事件としては「指折りの多さ」(公文書館アーキビスト)という。目指す史料にたどり着くのは大変な根気がいる作業で、それを手助けするための分厚いインデックス・ファイルが閲覧室にはずらりと並んでいる。ケネディ事件に特に詳しいアーキビストも手助けしてくれる。ケネディ事件に今なお陰謀論が付いて回る理由を尋ねてみると、「それはわれわれの業務とは直接関係がなく、アーキビストの職務範囲を超える」とかわされた。


 公式には元海兵隊員オズワルドの単独犯行と結論付けられているが、数々の疑問がある。犯行場所とされたテキサス州ダラスの教科書倉庫ビル6階から正確に頭部を撃ち抜く技量の有無に加え、2日後にダラス市警の地下でオズワルドを射殺したナイトクラブ経営の男の動機もはっきりしない。何より、逮捕直後、警察に詰めかけた記者団から大統領を撃ったのかと聞かれ、「ノー。ソ連にいたことがあるから疑われた。だまされた」と口走ったオズワルドの発言が今も尾を引いている。


ダラス市警で記者団と言葉を交わすオズワルド=1963年11月23日(AP=共同)


ダラス市警で銃撃されるオズワルド=1963年11月24日(AP=共同)


ダラス市警で銃撃されるオズワルド=1963年11月24日(AP=共同)

 ▽えたいが知れない
 オズワルドの単独犯行でないとすると、裏で操っていたのは誰だったのか。
 数多い秘密工作で知られた中央情報局(CIA)の関与説が消えないのは、えたいの知れない力を持った組織だという国民の疑念に基づく。キューバのカストロ政権の転覆計画にまつわるCIAとケネディの対立が疑惑に一定の信憑性を与えた。
 犯人は本当にオズワルドだったのか。ケネディ暗殺に詳しいバージニア大のラリー・サバト教授(政治学)は取材に「それ以外の可能性を排除できないとはいえ、1%をはるかに下回る」と断言した。今も一部の史料が未公開の理由についても「個人名が書かれているからではないか。今も生存している関係者はいるだろうし、自由のない外国の人がいるかもしれない」と語った。事件の本質とは無関係であっても、プライバシーの保護から公開できないのではないかとの見立てだ。
 関連史料の公開は順次進み、現在「97%以上」(公文書館)に達する。昨年暮れも1万ページを超える史料が機密解除された。事件前からオズワルドの動向を情報機関が把握していたことなどを明らかにしたが、目新しい情報はない。事件を調査したウォーレン委員会の報告書は「オズワルドが謀略の一部だったとする信頼すべき証拠はない」と結論づけた。


ケネディ暗殺事件関連資料の索引ファイル=2月17日、米ワシントン近郊の国立公文書館(共同)

 ▽巨大組織が暗躍?
 陰謀論の定義はいろいろあるが、一般的には多くが関心を持つ事象の通説を否定し、背後で巨大組織が暗躍しているという使われ方が多い。
 共和党のトランプ氏が当選した2016年大統領選のころから特に広がった。トランプ氏は一部の既存支配層が米国を動かしていると声を張り上げ、オバマ民主党政権から権力を国民の手に取り戻そうと呼びかけた。これも自分たちの知らないところで、一部のエリートが自分たちを裏で操っているという一種の陰謀論だろう。貧富の格差拡大で、社会階層を上がっていくことが以前より難しくなってきている社会構造も根底にある。
 陰謀論には聞くに堪えないものもある。極右ニュースサイト、インフォウォーズは、2012年に起き、児童ら26人が死亡したコネティカット州のサンディフック小学校銃撃事件で「リベラルな民主党政権が銃規制のために企てた」と放言し、遺族の猛反発を買った。裁判で巨額の賠償を命じられた。
 米国と陰謀論の関わりはどこにあるのか。カリフォルニア大デービス校のキャシー・オルムステッド教授(歴史学)は「時代によって内容は変われど、米国の歴史と政治の一部であり続けた」と指摘する。建国以来、宗教や移民、奴隷など対立の引き金となる課題が付いて回り、相手側が自分たちを陥れる策略を練っているという疑心暗鬼に駆られてきたとの説明だ。
 トランプ氏は敗北した2020年大統領選について民主党が裏で票集計を操作したとの主張で、議会襲撃事件への導火線を敷いた。陰謀論が落ち着いてきたのは司法判断が改ざん主張をことごとく突き崩したためで、米国が見せた回復力の一端だ。


1963年11月にケネディ米大統領が暗殺された現場=テキサス州ダラス(ロイター=共同)

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