定年後に夫婦で挑戦した白髪染めの開発、知識も資金もないけれど試行錯誤で自信の商品に きっかけは「抜け毛の悩み」、藍染め植物を活用
47NEWS / 2023年5月30日 11時0分
藍染めに使うタデ科の植物「タデアイ」を原料にした白髪染めを、高知県香美市の依光文雄さん(80)と洋子さん(73)夫婦が開発した。鮮やかな紫に染まるのが特長で、髪の弾力もよみがえると好評だ。開発に取り組むきっかけになったのは、市販の白髪染めを使っていた際の抜け毛が気になったこと。高齢になっても、どこに住んでいても優れた商品を生み出せる―。知識も資金もない状態から必要な情報を集め、失敗を繰り返しながら、愛される商品に育てた。(共同通信=野島奈古)
▽ネットで見つけた藍染めの研究
洋子さんは50歳を過ぎたあたりから白髪が気になり、市販の染毛剤を使うようになった。2年ほどたったころ、シャンプーの時に髪の毛が指に絡みつくようになった。排水口にたまった毛を見るたびに「白髪染めのせいか」と落ち込んだ。そうした中、大阪で建設会社に勤めていた文雄さんが定年退職し、夫婦で古里の香美市に移り住んだ。
白髪染めの悩みの解決策を探す中で、インドの伝承医学を学ぶ講習会に参加しハーブの一種「ヘナ」を知った。ペースト状にして頭部に塗ると、白髪がオレンジ色に染まり、さらに地肌を健やかにする効果があるという。洋子さんは、他の植物と組み合わせて落ち着いた色味を出したいと考えた。
インターネットで調べると、大学教授の藍染め研究を発見した。タデアイは通常、深い青色に染まる。洋子さんによると、マイクロ波を当てて酵素を死滅させた葉に、色素のある葉を混ぜ合わせると紫に発色するという研究だった。「これだ」と確信し、大学を通じて教授に連絡を取り、研究の手法を使ってもいいと快諾を得た。藍染めには関心がなく、アイの実物を見たことすらなかった。年金暮らしの傍ら、試行錯誤の日々が始まった。
▽天敵との闘い、5年かけての実験
まずは葉の調達に取りかかった。ネットで見つけた千葉県の工房から葉をもらえることになった。すかさず実験を開始。「できそう」と手応えを得たものの、種から栽培したいとの思いが膨らむ。藍染めが特産の徳島県藍住町をたまたま車で通りかかったところ、道路脇の畑にタデアイの種がちらほら落ちていた。収穫後に残った種だった。車から降りて住民に畑の所有者を聞き、家を訪問した。「好きなだけ持っていけ」。拾って持ち帰り、プランターで育て始めた。
最初は無農薬栽培の天敵、害虫と雑草に悩まされた。文雄さんによると、茎の付け根から小さな虫が入ると養分が吸われて葉が黒くなり収穫できない。バケツと箸を持って畑へ向かい、虫を一匹ずつ取り除き、黒くなった箇所ははさみで切った。「やっては反省の繰り返し。経験を積み重ねていくしかなかった」。2人は苦労を振り返る。
タデアイの生育状況を確認する依光文雄さん(左)と洋子さん=3月29日、高知県香美市
マイクロ波を使った実験でも壁が立ちはだかった。設備が高価な上、均一に熱を与えることができない。大量生産が難しい現実に直面した。一度は諦めかけた。だが考えてみると、熱は他の方法でも与えられると気付いた。沸騰したお湯に葉を浸してみたり、高温の水蒸気の中に葉を入れてみたり、いろいろな方法を何度も試した。「毎回結果を確かめるのが楽しみだった」と洋子さん。最適な方法を見つけるまで、5年ほどかかった。
▽目標は法人化、後継者探しも
当時は化粧品の製造許可を取得していなかったため、生産と販売を別の企業に委託することにした。高知県内には見つからず、四国に範囲を広げた。いったん断られたものの、藍染め製品を販売する香川県の会社との共同研究が決まり、販売できるようになった。だが、その後会社が倒産。特許を買い取った後、自宅近くに農園と納屋を改築した製造所を構え、「藍里農園&コスメティクス」として生産を開始した。現在は高知県内のスーパーや藍里農園のウェブサイトで販売する。東京を中心に約40店舗の美容室でも使用され、評判は上々という。
別売りのへナの毛染めと混ぜると、茶色に染めることも可能だ。ヘナにはトリートメント効果があり、2度染めでしっかり色が入るという。「髪にも肌にも優しい。もっと世の中に広めたい」。洋子さんのまなざしは熱い。
タデアイとヘナの毛染めの比率を変えて使用した際の染まり方のサンプル
事業が安定しつつある現在、2人は後継者探しに動き出している。目標は人材確保と事業拡大、そして法人化だ。まずは品ぞろえを増やそうと、足用せっけんの開発を進めている。文雄さんは「後継者が決まったら安心して引き継げるような経営をしたい」と意気込みを語った。
白髪染めは内容量の異なる2種類を展開。30グラムで2310円、100グラム7370円。
「藍里農園&コスメティクス」が販売する2種類の商品
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