「アメリカの銃」AR15型…多数の命奪ったその引き金は軽かった 現地射撃場で記者が試射、性能と手軽さは乱射の悲劇にも
47NEWS / 2023年6月12日 10時0分
米国で銃乱射事件が起きると、メディアはある一点に注目する。凶器が「AR15型ライフル」かどうか―。手軽さと高い性能から米国人をとりこにしながら、事件で多数の犠牲者を出してきた表裏一体の性質を持つ銃だ。「アメリカ(A)のライフル(R)」とまで呼ばれる銃の存在を伝えようと法令に違反しないよう狩猟免許を取得し、射撃場で試射した。奪われてきた命の重さを思うと、その引き金はあまりにも軽かった。(共同通信ニューヨーク支局 稲葉俊之)
▽銃口管理
まず、いきなり外国人の記者が射撃場に行って試射できるのだろうか。単刀直入に言って答えはノーだった。アルコール・たばこ・銃器取締局や関係法令によると、米国に就労や就学の査証(ビザ)で滞在する外国人は銃器の取り扱いを禁じられている。
法令を詳しく見ると狩猟免許の取得者は例外だった。狩猟者講習の受講が必要で、拠点のニューヨークから最も近い会場は100キロ以上離れており、諦めかけたとき、米国人の同僚がオンライン講習を見つけてくれた。
講習では銃の仕組みから学ぶ。撃鉄で銃弾の雷管をたたいて内部の火薬を爆発させ、飛翔体(弾丸)を発射させる。英語の狩猟用語には戸惑った。楽しそうな「GAME(ゲーム)」は「獲物」、着飾りそうな「DRESS(ドレス)」は獲物を「さばく」という意味だった。
とにかく厳しいのは銃口と銃弾の管理。どんな状況でも銃口が安全な方向に向いていることを確認し、発砲するとき以外は弾倉から銃弾を抜くよう再三指導を受けた。
七面鳥の狩りでは特に注意を繰り返された。鳴き声をまねしておびき寄せるため、別の狩猟者を誤射してしまうことが頻発しているらしい。米国での〝狩猟あるある〟のようだ。狩猟の技術やルールなども学ぶ講習を2日間、数時間ずつかけて修了し、全てをおさらいする最終試験に合格した。
米東部ペンシルベニア州の射撃場で、鍵をかけて管理された銃器=2月10日(共同)
▽疲労感
次のハードルは取材をさせてくれる射撃場だ。連絡しても無視か拒否されるばかり。乱射事件が起きれば銃規制の必要性が報じられるため、記者は歓迎されていないようだった。
だが東部ペンシルベニア州にある「サンセットヒル射撃場」は違った。総責任者のカール・シミノさん(65)は「公平に報道してほしい」と快く応じてくれた。ニューヨークから車で約2時間の射撃場に足を踏み入れると、その理由はすぐに分かった。
塀で遮られた屋外の射撃エリアへの入り口と出口をそれぞれ1カ所に制限し、壁にかけた銃器は全て施錠していて管理は徹底されているように見える。「銃を見せびらかすような人たちが集まるような場所じゃない」とシミノさん。
銃器のレンタルは無料で、弾丸に課金される。AR15型は7発で19ドル(約2600円)だった。ゴーグルとヘッドホンを付け、弾倉が空の状態で指導員に構え方を教わる。「直前まで引き金には指をかけない」「銃口をむやみに動かさない」と強く注意された。
弾倉をセットしてもらい、約40メートル先の20センチほどの的に向かって構えた。銃身は約1メートル、重さは約3キロ。肩に力が入り、呼吸は乱れて照準がぶれる。「バーン」。引き金はスムーズで銃床を当てた肩には指で小突かれた程度の反発しか感じない。
硝煙のにおいは気にならなかった。引き金を引くたびに新たな銃弾が装填される半自動式で、既に次の射撃の準備に入っているからかもしれない。7発連続で撃ち、的には当たらなかったものの大きくは外れなかった。
「安全に配慮すれば射撃は楽しいアクティビティだ」。シミノさんはそう語った。確かにAR15型の扱いやすさは予想通りで、練習すれば的に当たって爽快なのかもしれない。だが緊張で強い疲労感を覚え、その日は再挑戦する気にはなれなかった。
米東部ペンシルベニア州の射撃場で、AR15型ライフルの撃ち方を教える指導員=2月10日(共同)
▽軍が採用
ARは1950年代に開発した銃器メーカーの名前を取った「アーマライト・ライフル」の頭文字だ。その後、大手メーカー、コルトが製造・販売の権利を買い取り、1960年代に「M16」として米軍に採用され、ベトナム戦争で使われた。
引き金を引けば銃弾が出続ける全自動のM16に対し、AR15は銃弾は自動的に装填されるものの、1発ごとに引き金を引く必要がある半自動式。コルト社は警察や市民向けにAR15を売り出し、大きな成功を収めた。
ベトナム戦争から帰還した退役軍人の間で人気が広がったとも言われる。コルト社の特許権は1970年代に失効し、現在は数百社が製造、販売しているとされ、AR15ではなくAR15「型」と呼ぶのが正確だ。
800~2千ドル程度で購入でき、業界団体などによると、AR15型を主とする「スポーツライフル」は米国に2400万丁以上が出回る。その手軽さと性能の高さは銃乱射事件で悲劇を生んできた。2016年に南部フロリダ州のナイトクラブで49人、2017年に西部ネバダ州のコンサート会場で58人の命を奪った。
昨年も5月に南部テキサス州ユバルディの小学校で21人がAR15型で殺害された。7月に中西部イリノイ州の独立記念日パレードで7人が死亡した事件では人々が逃げ惑う中、連射音が響く映像が報じられ、半自動式の恐ろしさを見せつけた。
バイデン大統領はAR15型を名指しして「なぜ一般市民が攻撃用の武器を購入できないといけないのか」と述べ、殺傷能力の高い銃の販売禁止などを求めている。だが銃規制に対する米国の世論は二分されている。
3月下旬に米南部テネシー州ナッシュビルの小学校をAR15型ライフルで襲撃した容疑者(地元警察のツイッターより)
3月下旬に米南部テネシー州ナッシュビルの小学校を襲撃した容疑者が持っていた銃器(地元警察のツイッターより)
▽「規律ある民兵」
米紙ワシントン・ポストが今年1~2月に実施した世論調査では、AR15型など威力が強い銃器の販売禁止を支持したのは47%にとどまり、反対が51%と上回った。なぜ米国の世論は銃規制に傾かないのか―。
最も簡単な答えは、米国の憲法修正第2条が「国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない」と規定するからだ。ワシントン・ポストの昨年9~10月の調査でAR15型を持つ約400人のうち33%が「自衛」、射撃や狩猟目的に続いて12%が「憲法上の権利」を保有の理由に挙げた。
「自衛」や「権利」と言うならば犯罪者が銃を入手しにくいように規制を強化することに問題はないように思える。それでも射撃場のシミノさんは「規制は良心的な市民から楽しみを奪い、犯罪者は止められない」と反発した。
実際は取材の最後に漏らしたのが本音だった気がする。「いつでも、どの国でも政府が市民を抑圧するとき、最初に武器を取り上げるのが常とう手段だ」との、強い不信感のこもったひと言だ。
修正第2条には「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要」との前置きがある。銃擁護ロビー団体の全米ライフル協会(NRA)は個人の生活と自由を「政府」などから守るために銃を持つ権利が必須だと解釈する。
銃は国家権力への対抗手段で「自由」と同義なのだから、当事者である連邦政府が規制するのは言語道断なのだろう。日本人の私には理解しにくいが、通報しても警察官の到着は翌日になりかねないへき地もある米国では「自分の身は自分で守る」という意識が強い。
銃乱射事件が起きた米テキサス州ユバルディで、広場に設けられた十字架のモニュメントを見つめる人=5月24日(共同)
▽若者の死因
しかし、権利を守ってきた代償は大きい。非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、銃による事件と事故の死者は昨年だけで約2万人に上る。19歳以下の若者の死因で2020年に銃器関連が交通事故関連を抜いて初めて1位になったとの研究結果もある。
「銃を持つ権利を侵害するという話ではない。生きる権利を保障するということだ」。2018年にフロリダ州パークランドの高校で17人が射殺された事件で、17歳の息子を亡くしたマニュエル・オリバーさん(55)は規制の必要性を強調する。
事件で使われたのはAR15型だった。オリバーさんは「素早く大量の人々を殺すよう設計された銃だ。なぜ一般市民がそんなことをする必要があるのか」と嫌悪感をあらわにした。
昨年6月には28年ぶりに本格的な銃規制法が成立したが、21歳に満たない購入者の犯罪歴調査の厳格化などにとどまり、AR15型の乱射事件に歯止めをかけられていない。
小学校銃乱射事件から1年の追悼集会で、ろうそくを手にする子ども=5月24日、米テキサス州ユバルディ(共同)
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