見たら幸せ? ドクターイエロー風電車の正体は…
47NEWS / 2023年6月2日 11時10分
【汐留鉄道倶楽部】「見たら幸せになれる?」と、黄色の電車を眺めながら自問自答した。といっても、東海道・山陽新幹線で活躍する黄色がベースの検査用車両「ドクターイエロー」のことではない。米ワシントン首都圏交通局の地下鉄「ワシントンメトロ」に在籍している電車のことだ。
5月19日開業のワシントンメトロで98番目の駅、ポトマックヤード駅(バージニア州)の内覧会に参加した。ブルーラインとイエローラインの2路線が乗り入れる橋上駅舎から対面式ホームを眺めていると、ワシントン方面へ向かう見慣れない黄色の電車が近づいてきた。
外観の色合いこそドクターイエローに似ているものの、お仕事の内容は旧日本国有鉄道(国鉄)と分割民営化後のJRグループの路線をかつて駆けていた青色の客車「マニ30」と似ている。首都圏交通局の黄色の電車は「マネートレイン」、つまり英語で「お金の列車」を意味する現金輸送車両なのだ。
マネートレインは、フランスの大手鉄道車両メーカー、アルストムが製造した「6000系」の2両編成。私が目撃した際はアルミ合金製の銀色の車体に茶色の帯が入った通常塗装の2両と連結した4両編成で走っていた。内覧時のポトマックヤード駅は開業前だったため、他の営業用電車と同じように通過していった。
マネートレインについて探ろうと首都圏交通局の広報担当者に問い合わせると「6000系の1編成だけを保有している」と教えてくれた。しかし、どのように運用をしているのかは「保安のため開示することはできない」とすげなく断られた。
口が堅いのは仕方がない面もあるかもしれない。日本銀行が印刷された紙幣を国内の支店へ運ぶのに使っていたマニ30に関し、日銀のホームページは「実際に使われていた期間中(2004年3月末まで)はベールに包まれ、秘中の秘とされていた」と存在すら隠していたことを明かしている。マニ30が駅で停車中に写真撮影を試みた鉄道愛好家が、乗り込んでいた警備員から「撮らないでください!」と制止されたとの逸話も聞いた。
これに対し、首都圏交通局はマネートレインの存在ははっきりと認め、私が目撃時にカメラのシャッターを切っても全く注意されることはなかった。マニ30ほどはタブー視されていない様子だが、詳しい実態が秘密のベールに包まれていることには変わりない。
東海道・山陽新幹線の「ドクターイエロー」=20年4月26日、福岡市の博多駅で筆者撮影
そこで地元の鉄道愛好家や関連ウェブサイトを通じてマネートレインの情報を収集した。すると、現行車両はかつての6000系の営業用車両を改造したことが分かった。車内にあった座席は取り払われ、床一面にお金を置けるスペースが広がっている。真偽は定かではないが、「大量のお金を積んでも重みに耐えられるように床を補強している」との説もある。
マネートレインは少なくとも新型コロナウイルス流行前までは「平日ならば1日2回出動していた」(事情通)という。運用時には駅に停車すると特定の扉が開いて係員が下車し、自動券売機などにたまったお金を回収して専用のカートで運ぶ。日本の鉄道警察隊に当たる首都圏交通局の警察官も同乗して「強盗被害を防ぐために銃を装備して護衛している」(同)とされる。係員はお金の回収が終わるとカートを電車に運び込み、扉が閉まると発車して次の駅での回収作業に向かっていく。
謎が謎を呼ぶのか、マネートレインを巡ってはうわさ話も絶えない。一例として現行の6000系は老朽化しているため、日立製作所グループが25年に納入を始める予定の次世代車両「8000系」の一部として「置き換え用の車両が造られるとのうわさがある」(鉄道愛好家)と聞いた。
実現すれば現行のマネートレインをまねて「黄色の外観になる」とまことしやかに語られている。だが、歌手の山本リンダさんがヒット曲「どうにもとまらない」で「うわさを信じちゃいけないよ」と戒めたように、現金を運ぶ車両のうわさを信じるのは厳禁だろうか?
☆大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社ワシントン支局次長。マネートレインを巡っては、米ニューヨークの地下鉄で積まれたお金の強奪を狙う内容の米映画「マネートレイン」(1995年公開)が制作されましたが、興行成績は“金のなる木”というほどではなかったようです。
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