「電気椅子で死にたい。そうすれば遺族は安らげる」そう語る死刑囚の真意 死刑は残すべきか廃止すべきか、アメリカから考える②執行直前の14人と話した元矯正局幹部
47NEWS / 2023年6月12日 11時0分
「究極の刑罰」と言われる死刑。内閣府が2020年に公表した世論調査では、死刑の存続を8割が「やむを得ない」と回答している。ただ、死刑を執行している国は世界の中では少数派だ。
死刑の賛否について議論するためには、制度に関わる人々の話を聞くことが必要不可欠だと私は考えている。特に、職務として死刑執行に関わる人の経験や意見を聞いてみたいとずっと思っていたが、日本で取材を続けていても直接取材するのは難しく、行き詰まりを感じていた。
そこで、2022年夏からアメリカのカリフォルニア州立大学フラトン校にフルブライト奨学金で留学し、フィールドワークとして聞き取りを進めた。情報公開が進むアメリカでも、執行に携わった人を探すのは容易ではなかったが、数人から話を聞くことができ、改めて死刑という刑罰について考えた。(アメリカは2021年7月から「死刑のあり方を検証する」として、連邦法に基づく執行を停止している)。今回紹介するのは、14人の死刑執行に携わったサウスカロライナ州の矯正局の元幹部。死刑制度を支持している。「実際に会った死刑囚たちは、真に改心していた」と明かした。(共同通信=今村未生)
※アメリカの死刑制度について、記者が音声でも解説しています。以下のリンクから共同通信Podcast「きくリポ」をお聞き下さい。https://omny.fm/shows/news-2/23
カリフォルニア州立大学フラトン校=2022年
▽執行直前の死刑囚1人1人に会いに
弁護士、ジョン・オズミントさんは2003年から2011年までサウスカロライナ州矯正局に勤めた。当時は州矯正局の幹部で、州内の32の刑務所を統括する立場。合計約2万6千人の受刑者を収容していた。死刑執行のプロセス全体に責任があり、最終的な指示も出す立場だったが、オズミントさんには、幹部らしくない習慣があった。
この州の死刑は通常、裁判所が命令書を出してから30日後に執行される。オズミントさんは誰かの死刑執行が決まると、その死刑囚に面会に行っていた。矯正局の幹部は必ずしも、死刑囚に会う必要はない。それでも会いに行ったのは理由がある。
「彼らと共に過ごし、彼らが精神的に準備できているかを確かめていた」
オズミントさんによると、携わった14人のうち12人は執行までに自らの罪を認め、心から悔いていた。12人の大半はキリスト教徒。彼らはいずれも、面会に来たオズミントさんにこう語ったという。「自分の犯した罪に対して、死刑は適切な判決だ」
中でもオズミントさんが忘れられないのは、元恋人の両親を殺害した罪で死刑が確定し、2008年に49歳で、電気椅子によって死刑執行されたジェームズ・アール・リード元死刑囚だ。
▽自ら電気椅子を選択した理由
アメリカでは、連邦や州によってさまざまな執行方法が採用されている。圧倒的に多いのが薬物注射。この方法が最も人道的だと考えられているためだ。死刑情報センターによると、1976年以降で薬物注射は電気椅子の10倍近い。
リードの執行当時、サウスカロライナ州では電気椅子は何年も実施されておらず、とても珍しかった。リードは、その執行方法を自分で選んだ。
面会に来たオズミントさんに、リードはこう言った。
「いいんだよ、聞いていいんだよ」
オズミントさんら職員が、電気椅子を選択した理由を知りたがっていることを、彼は分かっていた。
促されるまま「なぜ電気椅子を選んだのか」と尋ねると、リードは自分が犯した罪の重さと恐ろしさを語ったという。
オズミントさんは当時を振り返り、リードの考えをこう代弁する。
「彼は、電気椅子で死ねば、被害者遺族に『被害者と同じ凄惨な死を遂げた』と思ってもらうことができ、それが彼らの安らぎにつながるかもしれないと考えていた。彼は『遺族や自分の家族が前に進むチャンスを与えたい』とも話していた」
遺族らへの思いを知り、彼を抱きしめて一緒に祈りを捧げたという。
テキサス刑務所博物館に展示されている電気椅子=米テキサス州ハンツビル郊外(撮影・鍋島明子、共同)
▽「教育」が更生を促した
オズミントさんは、自分が接してきた死刑囚の多くが、死刑判決を受けたことで「真に改心した」と感じている。
「彼らは自ら『私は間違っていた。死刑に値する』と言えるほどの境地に達していた。このレベルの“更生”について思いを馳せてほしい」
遺族と死刑囚の双方が執行に同意する場面を「この目で見てきた」と語るオズミントさんは、こうした場合に、「死刑制度は機能している」と考えている。
更生することができる原因の一つに「教育」があるという。アメリカでは、死刑囚も行動認知療法などのプログラムを受けることができる場合がある。「死刑囚のほとんどは高校卒業資格を持っていなかったが、大学院レベルの学位を取得する人もいる。今は、タブレット端末を使って教育を受けることもできる。彼らは学び成長する。更生する理由や方法は千差万別だ」
東京拘置所刑場の「執行室」。死刑囚が立つ踏み板(中央下)は開いた状態(法務省提供)
▽「私が決めたことではなく、市民が決めたこと」
オズミントさんには、もう一つ重要な仕事があった。死刑執行される直前に「死刑囚の最後の言葉を確認すること」だった。
「出てくるのは自責の念と後悔の言葉だった。彼らは真に更生し、明日、街に戻しても安全だろうと思える人たちだった。そんな人が、刑務所には何百人もいる。それでも私たちが彼らを閉じ込めておくのは、被害者のためと、それが罰であるからだ」
オズミントさん自身は、人の命を奪うという非常に負担のかかる仕事と、どのような気持ちで向き合っていたのだろう。尋ねると「私たちは、社会のために仕事をしているだけで、意思決定者ではない」と語った。
「すべての人たちが死刑制度に関わっている。誰かを死刑にすべきというのは、私が決めたのではなく、サウスカロライナ州の市民が決めたこと。それは、約8割が支持するという日本の死刑制度でも同様だろう」
死刑執行に関わることへの心境についてさらに質問を繰り返すと、オズミントさんはこう述べた。
「なぜ、執行に携わる人が罪悪感を持たなければいけないのか?死刑の執行を行うかどうかについて、私たちに裁量はない。私がやらなくても、誰かがやっていたこと。この区別をつけないといけない。私はプロとして、仕事を行った。死刑の執行が市民全体の決定であると思えば、重い役割ではない。それを職員も理解しているのだろう。彼らから文句や愚痴は聞いたことがない。どれだけ大変だったかを語ることもない」
ただ、そんなオズミントさんも、次第に考え方は変わってきた。「かつては死刑制度に強く賛成していた。今は以前に比べると、どちらとも言えない立場だ。制度に対する賛否があることを理解しているし、反対する人の言い分も理解できる。人が変われるということも知っている」
それでも、死刑制度が不要だとまでは思っていない。「あまりにも恐ろしい犯罪が起こるから、死刑は今でも私たちの社会に存在する。すべての死刑囚が反省し、悔い改めるわけではない。さまざまな政策上の理由から、究極の刑罰に直面する必要があることは明らかだ」
東京拘置所=2019年、東京都葛飾区(共同通信社ヘリから)
▽死刑執行を公開する「価値」
「死刑制度は市民が決めたこと」と語るオズミントさんは、執行の様子を公開することも大切だと考えている。
アメリカでは、死刑の執行にメディアも立ち会う。州によって多少の違いはあるが、被害者遺族や死刑囚の家族などが同席できるほか、抽選などで選ばれた数人の記者も立ち会うことができる。執行を公開することには価値があると考えている。
「執行する側による不適切な行為や、不必要な痛みや苦しみを死刑囚に与えていないかを確認するため、執行に外部の人が立ち会うのは何の問題もないと思う。反対に、完全に非公開にしてしまうと何が行われているのか、人々の心に疑念が生じる。昔のように大衆が馬鹿騒ぎをするのはよくなかったと思うし、今はいいバランスを見つけることができたと思う。執行に携わる人々を、国のために専門的に行動するプロフェッショナルであると確認することが大切なのではないか。それが執行を公開することの価値だろう」
日本では、死刑執行は完全に非公開だ。刑務所関係者以外では検察官が立ち会うが、メディアはもちろん、被害者や死刑囚の家族も立ち会えない。私がそう説明すると、オズミントさんは最後にこう語った。「もし日本での執行に検察官や被害者、死刑囚の家族、弁護士、メディアといった分野の人たちが参加すると、執行に対する市民の信頼はより高まるのではないか」
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