「意識高い系」で台頭したNewsPicksが直面する試練、戦線拡大で〝とがった記事〟が減少
47NEWS / 2023年6月17日 11時0分
デジタル化の潮流を捉え「意識高い系」のメディアとして台頭したスマートフォン向けニュースアプリ「NewsPicks(ニューズピックス)」。経済分野を中心とした大型の特集記事や、メディアアーティストの落合陽一氏を起用した動画番組などを配信して存在感を高めてきたが、最近は有料会員数の伸びが鈍化。成長への懸念から株価が低迷するなど、サービス開始以来、最大の試練に直面した。
運営会社のユーザベース(東京)は2月に東京証券取引所グロース市場の上場を廃止し、米投資ファンドのカーライルの傘下に入った。メディアとしての価値に磨きをかけ、再上場に向けて再起を図る。消費者の自由な時間を巡るサービス合戦が激化する中、行く末はいかに。(共同通信=仲嶋芳浩)
▽100年に1度の大変化の時代
ニューズピックスは2013年にサービスを始めた。提携する雑誌や通信社のニュースをスマホのアプリでまとめて読むことができ、実業家の堀江貴文氏や元経済財政担当相の竹中平蔵氏ら著名人が記事への批評や感想を投稿するコメント欄の存在が注目された。各分野の最前線で活躍する人を取り上げた「イノベーターズ・トーク」などの連載も人気を博した。
「東洋経済オンライン」の編集長などを務め、2014年にニューズピックス編集長に就いた佐々木紀彦氏は「メディア業界に100年に一度の大変化が訪れている。大変化の時代の中で、テクノロジーとソーシャル、コンテンツの力を組み合わせることで、世界最先端のメディアを育てる」とぶち上げた。
ニューズピックスは佐々木氏の下で攻勢を強める。2016年には「週刊ダイヤモンド」で鳴らしていた池田光史氏ら3人の記者を迎え入れると発表し、「企業・産業チーム」を創設して調査報道を強化。日米の株式市場への上場計画が遅々として進まない注目企業の実態を暴いた連載「LINE韓日経営」などを放った。後にニューズピックスの編集長に就いた池田氏は、2021年の共同通信のインタビューで「人に焦点を当てた連載も人気だったが、次の成長ドライバーとして企業・産業報道が加わった。大きなテーマを真正面から取り上げたかった」と振り返った。
社会人や就活生に「必携」とうたうニューズピックスは、魅力的なコンテンツを武器に有料会員数を着実に増やした。2019年6月末の会員数は10万人を突破。その後、新型コロナウイルスの流行で情報の需要が高まったことも追い風となり、1年後の2020年6月末には1・7倍の17万人に急増した。
インタビューに答えるニューズピックスの池田光史編集長(当時)=2021年
▽「可処分時間」の奪い合い激化、株価は4分の1以下に
だが、最近は「ネットフリックス」などの動画配信サービスやゲームとの間で「可処分時間」の奪い合いが激化。2022年末時点の会員数は20万人弱と伸び悩んだ。2020年秋に4千円を超えていた株価は、2022年に入ると千円を下回って取引される場面が増え、短期的な収益の確保を求める株主からの風当たりも強まった。
こうした状況を受け、持続的な成長に向けた経営基盤強化のため、株式の非公開化に向けた検討を開始。国内外で投資実績が豊富なカーライルの買収提案を受け入れることを決めた。
ニューズピックスについて、読者からは「最近はここでしか読めない記事が少なくなった」(IT企業の男性社員)との声がある。カーライルの小倉淳平マネージングディレクターは「有料会員数が増えていることを市場に示さなければならず、ひずみが生じていた。ニュースで取り扱う話題のジャンルが増え、戦線が拡大していた」と分析し、ニューズピックスならではの“とがった”コンテンツが目立たなくなっていたと指摘する。非上場化で足腰を強くした上で、着実に成長する状態に切り替える必要があると説明する。
▽動画配信を強化、活字を敬遠する層を開拓
ニューズピックスは2023年4月、「新しい視点を集めて、経済の未来をひらく」ことを会社の使命にすると発表した。佐久間衡・共同最高経営責任者(CEO)は、投稿した記事の中で「目指す世界は『分断ではなくつながり』、『固定ではなく変化』、『行動する勇気』が多くの方に生まれること。そのために決定的に重要なことは『新しい視点』との出会いだ」と強調した。
ニューズピックスの売りの一つがコメント欄だ。ヤフーニュースなどにも同様の機能はあるが、ニューズピックスでは経営者や中間管理職、有識者、学生ら多彩な顔ぶれが実名で意見を交わす。カーライルの小倉氏も、コメント欄を一段と活性化できれば、多くの人が集い、つながりを生み出す場にできると見定める。
動画配信も一段と強化する方針だ。動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信した番組がきっかけでニューズピックスのアプリをダウンロードし、有料会員となる利用者が一定数いるためだ。最近では、所属する記者が注目のニュースについて解説する取り組みを始めた。活字を敬遠する層の開拓も目指し、知的好奇心を刺激するコンテンツを増やす。
取材に応じるカーライルの小倉淳平氏=3月、東京都千代田区
▽会員数は無理に追わず、価値を認め合うコミュニティーに
新聞社やテレビ局といった伝統的な報道機関の多くは、スマホの普及など激変する環境への対応に苦慮する。ニューズピックスは、情報を視覚的に表現する「インフォグラフィック」という手法の積極的な採用や、視聴者を引きつける動画の配信で新たな地平を切り開いてきた。気鋭メディアの挑戦は、転換期を迎える業界の今後を占う試金石ともなる。
カーライルは投資から4~5年で企業の魅力を高め、再上場させるなどして株式の売却益を得るのが一般的だ。非上場化によって市場からの圧力がなくなったこの期間に、利用者を集めて経済を盛り上げるという媒体の価値に磨きをかけられるかどうかが問われる。
小倉氏は「利用者と一緒に日本の経済を盛り上げるとか、経済を楽しむというわくわく感を持ちたい。いろいろな知見を持っている人がコメントするような、価値を認め合うコミュニティーが理想だ」と指摘する。有料会員数は無理に追わず、長く愛用してくれる顧客を着実に積み上げる構えだ。
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