メジャーで「クレイジー!」と言われた昔気質のトレーニング方法、「大魔神」佐々木主浩さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(21)
47NEWS / 2023年6月16日 10時0分
プロ野球のレジェンドに現役時代や、その後の活動を語ってもらう連続インタビュー「名球会よもやま話」。第21回は佐々木主浩さん。フォークボールを自在に操り、日米通算381セーブを挙げた「大魔神」。昭和の特撮映画が由来といわれる愛称そのままに、その調整法も昔気質だったそうです。(共同通信=中西利夫)
▽目指していたのは甲子園でもプロでもなく
中学校の先生も親も東北高校で野球をするのに反対しました。おまえは根性ないからって。当時、土日に東北高へ行って練習に交ぜてもらって、それが楽しくて行きたいなと思いました。甲子園を狙う気持ちは全然なかったです。プロ野球選手になりたいというのもありません。高校野球の監督になりたかったので、大学に進みました。(1984年夏から3季連続の甲子園出場は)まさかという感じですよね。根性がないからやめろとみんなに言われると、くそっと思ってやり出すという感じ。あれがなかったら、高校の野球部の監督をやっていたかもしれません。
1985年3月の選抜高校大会で東北の佐々木主浩さんは堅田(滋賀)を完封して笑顔=甲子園
東北福祉大でプロを意識しだしたのは4年になってからです。3年の時にソウル五輪日本代表の合宿が、うちの大学でありました。僕は打撃投手でかり出されていて、古田敦也さん(当時はトヨタ自動車)らに投げました。「佐々木、全部抑えとけ」って言われて、全力で投げさせられました。500球ぐらい。すごく勉強になりました。全日本のそうそうたるメンバーがいる中で投げるので。
今の選手は自信満々ですごいなと思います。プロに入ってきたら、すぐに「新人王を狙います」とか。僕は大洋(現DeNA)の入団会見で、目標は何かと聞かれて「ファミスタに名前が載ることです」。それだってすごいことでしょう?
1989年12月、大洋の新入団選手発表で須藤豊監督督(中央)とがっちり握手するドラフト1位指名の佐々木主浩さん(左から3人目)ら新入団選手=東京・大手町
▽目のいい打者にフォークと見破られないために
入った当初は先発だろうがリリーフだろうが、仕事があるのが喜びでした。実績を積まないといけません。1、2年目は7イニング投げていました。抑えになっても1イニングはなく、最初は3イニングとか。九回を投げようとは全然思っていませんでした。1イニング1イニングを全力で投げるのが僕のスタイル。ただ単に仕事があり、たまたま抑えでスポットが当たりました。
昔は先発完投が当たり前で、100球で交代はあり得ません。(先発の)調子や切れが落ちたときに僕らが登板しました。かつては延長が十五回まであって体力的にきつかったです。八回から投げて延長十何回とかがありましたから。今の方が先発、中継ぎ、抑えがはっきりと確立されて良かったのではないですか。ホールドという(最優秀中継ぎの)タイトルができて、中継ぎの選手の給料も上がりましたしね。
1997年8月の中日戦で14試合連続セーブのプロ野球記録(当時)に並んだ佐々木主浩さん=ナゴヤドーム
僕には真っすぐとフォークボールの2種類しかありませんでした。たまたま大学3年の練習で投げたフォークがよく落ち、試合で投げて三振が取れました。千賀滉大のフォークはあまり回転がついていません。杉下茂さん(元中日)も回転をつけず、ナックルみたいに揺れます。打ちづらいですが、打者は目がいいから、来た瞬間にフォークと分かると振らなくなります。僕は見破られないように、縫い目に指をかけて回転をつけていました。ワンバウンドでも振ってくるのは、回転がついて真っすぐと勘違いするからではないでしょうか。
フォークと分かって見逃せるのだったら、回転をつけたらどうだろうと、アメリカでも同じようにやりました。指のかけようでシュート回転やスライダー回転で打者の外角へ落ちるように。僕自身もどれだけ落ちるかは計算できません。フォークはいいかげんな球、適当な球。割り切って投げないと。落とし方もストライクからストライク、ストライクからボールとか何種類かないと。フォークだと思って見逃されるから、わざと回転数を少なくするとか、いろいろ考えました。三振を取るのって球数を使います。いかに球数を少なくして抑えるかです。
▽みんなにクレージーだと言われた鍛錬法
僕はそんなに気が強い方ではありません。強いと思われていますけど、弱い部分を持っています。精神的なところで、自分の弱い部分を知っていればいいのでは? 考え方が注意深くもなります。「打たれたらどうしよう」はマウンドに行くまでです。マウンドに上がってしまえば、そういう気持ちはありません。ブルペンで準備している時が一番動揺するところ。それを知っていればいいのです。あとは同じ失敗をしないこと。失敗を繰り返さないために、どうすればいいかを考え、打たれた時のビデオをよく見ました。そればっかりでも鬱積してくるので、抑えた時のビデオも見てイメージしました。
2003年5月のツインズ戦で力投するマリナーズの佐々木主浩さん=セーフコ・フィールド
マリナーズで一緒だったイチローは努力の天才です。彼は一つ一つの生活が全て野球につながります。練習にしてもトレーニングにしても考えていました。努力家の天才には誰もかなわない。もともと日本の時から話していました。お茶目ですが、野球に対しての考え方は本当にすごい。彼は球団に言い聞かせて、自分のウエートトレーニング器具を持ち込みました。あんなの普通はしません。「おまえの家はでかいんだから、家でやれ」ってね。あれも彼のルーティンなんでしょうね。球場に来てストレッチして、あの器具をやってバッティング練習。ルーティンをそのまま持ち込みました。
僕は考え方が古いので、トレーニングの仕方は昔の人と同じかもしれません。投げる筋肉は投げればつく。器具じゃつかないというタイプ。キャンプでは1日に100~150球投げました。それを3日間とか続けます。それはやらせてくれって僕は言いました。アメリカに行った時、みんなにクレイジーだって言われました。リリーフで1イニングしか投げないのに、投げても2イニングしか投げないのに、何でそんなに投げるんだと。でも、それは続けました。外国人と日本人は体が違うので、つくり方も違うし、投げ方も全然違う。彼らと同じ練習をやってできるかといえば、できないというのが僕の考えでした。
▽引き際を自ら決められるのは幸せなこと
手術する前は80キロあった握力が手術するたびに落ちていき、最後は65キロになりました。右肘を痛めたのはフォークのせいです。間違いありません。手術すると仮病と言われたのは僕ぐらい。右肘は4回手術しました。仮病じゃ(患部を)切りません。新聞記者は何を考えているのかなと思いました。僕は手術にもけがにも強い。切って3カ月で復帰しました。普通じゃあり得ないから仮病と言われたんです。腰は計3回、膝は1回。手術には強い。大好きなんです。
2005年8月、故郷の仙台で最後の登板を終えて降板する佐々木主浩さん(左)は涙ぐむ清原和博さんに送られる=フルキャストスタジアム宮城
引退前はもうボールが行かず、自分の投球ができませんでした。幸せなことなんですけど、球団から辞めろと言えない立場だと思いましたから、自分で辞めなきゃいけません。僕が打たれることによってチームに迷惑をかけるので、自分で身を引かないといけないと思いました。
おふくろは体に障害があり、関東に来られませんでした。(2005年8月の最終登板は)たまたま宮城で巨人戦がありました。横浜の牛島和彦監督にわがままを言ってやってもらったんですけど、親の前で投げたいじゃないですか。高校時代の同級生でライバルだった清原和博君と対戦できたし、それですぱっと辞められました。
インタビューに答える佐々木主浩さん=2022年3月、東京都港区
× × ×
佐々木 主浩氏(ささき・かづひろ)宮城・東北高―東北福祉大からドラフト1位で1990年に大洋(後の横浜、現DeNA)入団。フォークボールを武器に最優秀救援投手5度。98年は45セーブで横浜の日本一に貢献。米大リーグのマリナーズでは4年間で129セーブ。名球会入り条件の日米通算250セーブは2000年7月に到達。04年に横浜へ戻り、05年引退。日米通算381セーブ。68年2月22日生まれの55歳。宮城県出身。
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