芸能界はなぜセクハラやパワハラが横行するのか 変化を起こそうと活動する3人が語る「圧倒的な立場の差」 「ジャニーズ性加害問題」(3)
47NEWS / 2023年6月21日 10時0分
芸能界では、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長の問題以外でも、深刻な性加害や過酷な労働実態が次々と明らかになっている。チャンスが欲しいタレントや俳優、アイドルらは、権力を持つ加害者に比べて圧倒的に立場が弱い。このため、たとえ被害に遭っても、声を上げることは簡単ではない。「無法地帯」のようだった芸能界を変えようと取り組み始めた3人に現状を尋ねると、背景にある慣習や構造が浮かび上がってきた。(共同通信=安藤涼子、前山千尋)
※ジャニーズ性加害問題については、記者が音声でも解説しています。以下のリンクから共同通信Podcast「きくリポ」をお聞きください。https://omny.fm/shows/news-2/24-jr
インタビューに答えるインティマシーコーディネーターの浅田智穂さん=2022年8月、東京都渋谷区
▽「撮影現場のケミストリー」が招く危険性 インティマシーコーディネーターの浅田智穂さん
映画やドラマの現場で、性的描写があるシーンの撮影をサポートするインティマシーコーディネーターの浅田さん。セクハラや性被害がないよう、製作側と俳優を橋渡しする新たな役割として注目を集めている。
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ヌードや激しいキスなどのシーンを安心して安全に撮影できるよう調整する仕事です。アクションコーディネーターに近いと言えば分かりやすいでしょう。お芝居とはいえ、そうしたシーンをいきなり演じると俳優たちの心や体が傷つく可能性もある。
台本だけでは俳優が服を着ているか、脱いでいるか分からないこともあり、まずは監督にヒアリングします。その上で出演者と面談し、肌はどこまで露出するか、性描写はどこまで見せられるかなどを確認します。日本にまだ数人しかいない新しいポジションなので、最初は理解してもらうのが難しかった。現場の負担が増えてしまうことは否めず、邪魔者扱いもされました。最近ようやく、撮影現場でスタッフに「ご一緒できて助かりました」と言われることが増えてきました。
どんなシーンも全てはお芝居。役になりきって自然に見せることが役者の仕事であり、プライベートな部分まで全てさらけ出す必要はありません。事前に動きやせりふを決めず、現場でケミストリー(化学反応)を起こしたいという考え方はある程度理解できますが、アクションに置き換えればそれが俳優を危険にさらすことは分かるはず。安心して演技に集中できる環境をつくれば良い化学反応は起きるし、私たちが俳優の立場になって考えることで、撮影に立ち会うスタッフにも安心してもらえる。インティマシーコーディネーターをつけるかどうかは今は製作側に委ねられていますが、明確にルール化すべきだと考えています。
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あさだ・ちほ 東京都出身。米国の大学を卒業後、通訳として活動。2020年にインティマシーコーディネーターの養成プログラムを修了し、日本で映画やドラマの製作に参加。
インタビューに答える映画監督の舩橋淳さん
▽「性加害、原因は社会構造や環境に」 映画監督の舩橋淳さん
映画「ある職場」で、舩橋さんは実際に起きたセクハラ事件をフィクションとして再構成した。見えてきたのは被害を訴えにくくし、加害をあいまいにしがちな日本社会の構造だ。
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「ある職場」で描いたのはセクハラ事件の後日談。日本には被害を訴えた人を保護する対策がない。被害を繰り返し訴えたり、それに対する誹謗中傷を受けたりするうちに被害者は疲れ切ってしまう。一方米国の企業文化では、セクハラの告発者は内部告発者と同じ扱い。まずは被害者を保護し、第三者機関による調査が始まる。被害が裏付けられれば加害者に処分が下され、事実が公表される。それがシステムとして確立されています。
最近次々に表面化した日本映画界の性加害問題も、個人の資質というより環境や構造に大きな原因があると思います。僕はニューヨークで映画製作を学んだので、2007年に監督として日本に帰国した時は、撮影現場の「NO」と言いにくい雰囲気に戸惑いました。特有のタテ社会で権力を握っている監督やプロデューサーに逆らえない。みんなが我慢したせいで、その環境が温存されてきてしまった。
ハラスメント対策のほか労働環境やジェンダー平等など改革すべき点は多いです。現場レベルで大切なのは「線引き」。最近、米国ではオフィスラブ禁止の企業が増えているとか。映画界も撮影現場は恋愛禁止にするしかないのではないでしょうか。性暴力は被害だと認識するまで時間がかかることもあるからです。
ラブシーンをなるべくリアルに撮りたいと言う監督もいるかもしれませんが、果たしてプロフェッショナルと言えるのか疑問です。プライベートで親しくならなくても、良い演技はできる。日本映画界のセクハラ対策はまだ黎明期です。
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ふなはし・あつし 1974年大阪府生まれ。代表作に東京電力福島第1原発事故を追ったドキュメンタリー映画「フタバから遠く離れて」。
記者会見する「日本芸能従事者協会」の森崎めぐみ代表=2022年6月、文科省
▽「被害の背景にある、労働契約を結ばない慣習」 俳優で日本芸能従事者協会代表理事の森崎めぐみさん
森崎さんは芸能界の労働災害やハラスメントなどの実態を調べ、環境の改善を訴えてきた。「芸能界では、ハラスメントを含めた一般的なコンプライアンスが守られているとは言い難い」と芸能界の風潮を指摘する。
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芸能界は長年「無法地帯」でした。俳優やスタッフら芸能従事者の多くはフリーランスで、セクハラやパワハラ、労災に当たるようなことが起きても何の法律にも守られてきませんでした。
告発があったジャニーズ事務所を巡る性被害が本当であれば、ジェンダーを巡る社会構造や、ハラスメントのない快適で安全な職場にするための適切な安全衛生対策が欠けているとの問題もはらんでいると思います。実態を明らかにし、根本的な解決につなげてほしいです。
性被害だけでなく、ハラスメントを訴えることは難しいです。また現場でけがをしたり、命を落としたりすることがあっても補償されるとは限りませんでした。背景の一つに労働契約を結ばず仕事を依頼する慣習があります。交通費などの経費がうやむやにされ、新型コロナウイルス禍で仕事がキャンセルされても補償の請求すらできませんでした。
おかしいと思い声を上げ、少しずつ変化も見えてきました。2021年4月から労災保険の特別加入制度の対象が広がり、補償が受けられるようになりました。俳優を含むフリーランスのための新たな法律も今国会で決まりました。書面での業務や報酬の明確化のほか、ハラスメントの問題にも触れ、委託事業者に適切な体制整備を求めています。こうした取り組みは環境改善へのスタートラインです。俳優もスタッフも自分の権利を勉強する機会がなく、ガイドラインを通じて権利を自覚し主張するきっかけになってほしいです。
海外のように芸術家の生活を保障する法律を作ってほしいと思っています。俳優は肉体労働ですが、頭脳も使い、極度の緊張にもさらされる特殊な仕事です。生活を守りながら学び続けられるセーフティーネットのような政策が必要です。担い手がいなければ文化は成立しません。持続可能な環境を整えていくべきです。
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もりさき・めぐみ 東京都生まれ。俳優。日本芸能従事者協会代表理事。全国芸能従事者労災保険センター理事長。映画「そして父になる」などに出演。
日本版CNCについて記者会見した(左から)内山拓也監督、岨手由貴子監督、諏訪敦彦監督、是枝裕和監督、舩橋淳監督、西川美和監督、深田晃司監督=2022年6月、東京都千代田区
【ジャニーズ性加害問題(1)】
鍵がかかっているはずのドアから、ジャニー喜多川氏が入ってきた…13歳で性被害「忘れようとした」過去を告白し、乗り越えるまで
https://www.47news.jp/9475535.html
【ジャニーズ性加害問題(2)】
「ジャニーさんに食われるぞ」13歳の自分には忠告の意味すら分からなかった アイドルへの道は暗転、うつに悩み自殺願望も
https://www.47news.jp/9480607.html
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