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ステマ?それとも広告?SNSにあふれるインフルエンサー「案件」 報酬は1件数百万円も!企業が重宝する理由とは

47NEWS / 2023年7月1日 11時0分

化粧品を紹介するインスタグラムの投稿

 多数のフォロワーを抱える「インフルエンサー」が発信する企業広告がインスタグラムやTikTok(ティックトック)などの交流サイト(SNS)であふれている。投稿のどこまでが広告なのかの境目はあいまいで、実は企業が隠れて宣伝するステルスマーケティング(ステマ)なのではないかと、もやもやした感覚を持つ人も多いのではないだろうか。

 インフルエンサー広告は「案件」の隠語で呼ばれ、1件当たり数百万円の報酬が飛び交うこともある。ステマが問題視されたことで国も規制の強化に乗り出すが、インフルエンサー広告市場は今後も拡大が見込まれている。インフルエンサーを起用している企業や仲介する会社、インフルエンサー本人らに取材し、SNSの裏側で展開されている実態に迫った。(共同通信=久保田智洋)

 ▽知ってほしい人にピンポイントで伝わる
 「お値段もお手頃なのでおすすめだよ」。化粧したインフルエンサーの女性と化粧品の写真がインスタグラムに投稿され、投稿には280件を超える「いいね」が付いていた。女性のフォロワー数は約10万人。この投稿はコーセーのブランド「FASIO(ファシオ)」の広告だ。

 投稿には、化粧品の効果的な使い方や特徴が詳しく記されている。最近はティックトックなどの動画配信も使われている。こうした広告は企業が隠れて宣伝をするステマだとして批判され「炎上」することがある。コーセーの依頼を受けた投稿は「PR」や公式を示す「official(オフィシャル)」などのタグを必ず付け、広告であることを明示するようにしている。

 「コーセー全体だと年に延べ千人はインフルエンサーを広告に使っています」と宣伝部の平木優花さんは話す。使い始めたのは4~5年前からで「知ってほしい人にピンポイントで伝わる」のが実感できるため、年々活用が増えている。


インフルエンサー広告について話すコーセーの平木優花さん=5月10日、東京都中央区

 広告を依頼するインフルエンサーは、フォロワーが多く影響力が大きいほど費用が高くなる傾向にある。ただ、単にSNSで有名なだけではなく、ブランドの伝えたいイメージに合致したインフルエンサーを選ぶのが大事だ。その結果、少額の広告費用でも大きな効果を出したことも多かったという。

 最近はSNSで「案件」という隠語が使われ、企業の広告が多いという認識も利用者に広がっている。平木さんは「以前に比べると、想定した効果が出ないことも起きている」と話す。ただ「これからも活用し続けていくのは間違いない」PR戦略の柱の一つと位置づけているようだ。


コーセーの平木優花さんと化粧品の広告=5月10日、東京都中央区

 ▽宣伝だけでなく販売も。溶けるネットとリアルの境界
 コーセーにインフルエンサーを紹介しているのは、システム開発や広告事業を展開する「AnyMind Group(エニーマインドグループ)」だ。外国人を含めて57万人のインフルエンサー登録があり、企業の要望にあった人を紹介する。2023年3月には東京証券取引所のグロース市場に上場した。


「AnyMind Group」の十河宏輔CEO=5月18日、東京都港区

 十河宏輔最高経営責任者(CEO)は2016年にシンガポールで創業し、日本では2019年にインフルエンサー広告に参入した。「当時はどんなインフルエンサーがいるのかというデータがなかった。プラットフォームをつくって企業とマッチさせればうまくいくと思った」と話す。

 SNSを巡っては、実際には影響力が低いのに、フォロワーを買って大きく見せる行為も散見されている。エニーマインドは登録しているインフルエンサーのフォロワーが急に増えるといった怪しい動きがないかをチェックし、実際に影響力のある人を紹介できるのが強みだという。

 インフルエンサーの収入について聞くと、案件次第だが、広告1件で数十万円から数百万円になることもあるという。使用しているSNSは今はインスタグラムが多いが、若い世代にはティックトックの影響力が格段に大きい。ツイッターやユーチューブは比較的年齢が高く裕福な層にも届くようだ。

 ちなみにコーセーは2021年から2022年にかけて、エニーマインドへのインフルエンサー広告の出稿金額が1・6倍に増えた。

 十河氏は「ネットとリアルの境界はなくなっていく」と話す。現在は宣伝をすることが中心だが、今後はインフルエンサーが商品自体を販売し、販売額に応じた手数料を受け取る形が増えていくと分析。「まだまだ伸びていく余地は大きい」と強調した。


「AnyMind Group」の十河宏輔CEO=5月18日、東京都港区

 ▽勧めた商品が買われ、フォロワーにも喜ばれるのが原動力
 実際に活動するインフルエンサーはどんな人なのだろうか。ツイッターで「タフ子ちゃん」の名前で活動し、8万人を超えるフォロワーを持つ女性(24)に話を聞いた。ツイッターでは「顔出し」をしていないが、写真撮影も「大丈夫です」とあっさり了承を得た。

 美容系のインフルエンサーで「私が勧めた商品をフォロワーさんに『まねして買って良かった』と言われるのがうれしい」と笑顔で話したのが印象的だった。都内在住の彼女は大学時代に知り合いが経営するベンチャー企業で、インスタグラムの美容アカウントを運用する仕事をした。拡散する情報発信の「肌感覚が分かった」ことで2021年11月ごろからツイッターで活動を始めたという。


インフルエンサーの「タフ子ちゃん」=6月5日、東京都港区

 今まで企業から受けた広告案件は約80件。化粧品のブランド担当者から直接、商品のコンセプトを聞いて発信に生かしたこともある。インフルエンサーによっては仕事を選ばない人もいるが、タフ子ちゃんは自身のフォロワー層を「クリアで真面目な人」と想定し、接待を伴う夜の飲食店の仕事を紹介するといった案件は断っている。

 現在はインフルエンサーとしての活動で生計を立てている。気になる収入は「同世代の5倍くらいかも」だが、独立してやっていけると思えるようになってまだ1年くらい。お金よりも「美容に興味をもってもらえること」が原動力だ。インフルエンサー同士の競争が激しくなったとも感じるが「これからもずっと続けて、活動の幅も広げていきたい」と言う。


インフルエンサーの「タフ子ちゃん」=6月5日、東京都港区

 ▽個人も参入しやすく、ステマ防止ルールが守られないと危惧
 サイバー・バズとデジタルインファクト(東京)の共同調査によると、SNSを使ったインフルエンサーマーケティングの国内市場規模は2023年に741億円を見込む。3年前の2020年比で2倍超の成長で、2027年には1302億円にまでさらに拡大する見通しだ。これまでは化粧品や食品メーカーが多かったが、最近は金融機関なども活用を始めているという。


 影響の拡大を受け、国も規制に乗り出した。消費者庁は広告であることを明示せず一般の口コミを装うステマを、景品表示法が禁じる不当表示の類型に新たに指定した。2023年10月から施行されるため、インフルエンサー広告を扱う事業者は対応を迫られることになる。

 サイバー・バズの三木佑太取締役は「業界の健全化が進んでほしい」と訴える。三木さんが入社したのは2010年で、当時インフルエンサー広告に取り組む事業者は5社程度だったが「今は千くらいあるんじゃないか」と指摘。「個人でも参入しやすく、ステマを防止するルールが守られていないことも多い。イメージが悪くなる」と危惧している。

 インフルエンサー広告を含めたネット広告は拡大の一途だ。電通の調査ではテレビ、新聞、ラジオ、雑誌を合計した「メディア4媒体」の広告費の合計を、ネット広告単体が2021年に上回った。2022年もネットは伸び、メディア4媒体は減少したため、その差は拡大している。

 かつて広告はメディアを使って幅広い人に情報を伝えることが主流だった。SNS上で展開するインフルエンサー広告は、認知を広げるだけでなく、興味を持った人が商品やサービスを比較する段階や購入を実際に検討する時期を狙って使い分けることが可能とされる。企業による活用が広がる理由だ。

 エニーマインドの十河氏は「マスメディアの提供するコンテンツは今も質が高い。ただ収益化については今後、工夫する必要があるのではないか」と指摘した。

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