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「下請けいじめは許さない」大手企業に対峙する「Gメン」どんな仕事?

47NEWS / 2023年6月26日 11時0分

「下請けGメン」に訓示する萩生田経産相(当時)=2022年4月、経済産業省

 中小企業は原材料費や燃料費の高騰で経営が圧迫され、いつ廃業に追い込まれてもおかしくない状況が続いている。追い打ちをかけるのが、取引先の大手企業からのやまない理不尽な要求だ。中小企業の経営者からは「取引価格の見直し交渉に応じてもらえない」「値上げを求めたら相見積もりを取られて逆に値下げされた」といった悲鳴が上がる。それでも多くは取引を打ち切られる怖さから、泣き寝入りせざるを得ないのが実態だ。

 大手企業の営業職を60歳の定年まで勤めた男性が第二の人生に選んだのは、経済産業省中小企業庁の取引調査員だった。下請けいじめを許さず、大手企業に対峙する通称「下請けGメン」だ。中小企業の頼れる味方として2017年に導入された仕事の内情を追った。(共同通信=高田香菜子)

 ▽対等に扱ってもらえる中小企業は独自技術を持つ一握り
 山田幸雄さん(仮名)は下請けGメンになって2023年で5年目になる。もともとは大手企業の営業マン。当時はトヨタ自動車やホンダといった大手自動車メーカーが得意先だった。

 山田さんが営業で外回りをする中でよく目にしたのは、大手企業との取引で苦労している中小企業の姿だった。大手企業の担当者に対等に扱ってもらえる中小企業は独自の技術を持つ一握りしかない。取引の価格は通常、大手企業が指定する「指し値」だ。中小企業は価格に不満があっても、原価を詳細に計算して交渉するほどの余裕がないのが現実。しかも取引価格が一度決まると、5年たっても10年たっても変わらないことが当たり前だったという。

 山田さんは定年が近くなり、再雇用で同じ会社にとどまるか、それとも新しい仕事に就こうかと悩んだ。そんなときに人材サービス会社から下請けGメンの仕事を紹介され「自分の経験が生かせるのではないか」と思いきって転身した。

 ▽聞き取り調査にこぎ着けられるのは10社のうち2、3社


 下請けGメンの仕事の中心は中小企業への聞き取り調査だ。まず電話をかけて訪問の約束を取り付ける。いたずらや営業の電話と勘違いされることもしばしば。10社に電話しても話に応じてもらえるのは半分ほどだ。そこから訪問までこぎ着けられるのは2、3社くらいという。

 経営者に会えても初対面で本音を引き出すのは難しい。ここで生きてくるのが営業マンの経験だと感じている。相手の業界が抱える問題や商習慣を事前に頭にたたき込んで臨み、調査の意図や目的をしっかり伝える。山田さんは「年齢が近いということも相手の警戒感を和らげてくれている」と話す。Gメンの認知度が上がってきているのも一助になっている。

 ただ、Gメン発足から6年たっても、中小企業の経営者から聞かされる話は変わらず厳しい。取引価格の交渉を巡っては、大手企業の威圧的な姿勢が目立つ。中小企業の経営者からは「3年先まで納品してほしいと言われたのに1年で終了され、抗議したら他にも取引先はあると言われた」といった訴えを聞く。大手企業は原材料費や燃料費を理由にした値上げには比較的寛容になってきたが、人件費を理由にした値上げは受け入れないという風潮が根強く、山田さんは問題視している。

 ▽Gメンの一言で価格交渉がとんとん拍子に
 中小企業が置かれている環境が以前より改善していると感じることもある。ある金属加工会社が納入先の親会社に値上げを申し入れたところ、満額回答をもらえた。

 交渉の突破口となったのは、政府が2020年に始めた「パートナーシップ構築宣言」。下請けいじめをなくし、取引を適正化するための官民の取り組みだ。親会社が宣言に賛同していたことを、山田さんが金属加工会社の社長に伝えたところ、とんとん拍子で交渉が進んだという。大手企業にとって痛い所を突くアドバイスで、下請けGメンの面目躍如だ。

 これまで話を聞いた経営者は数百人に上るという山田さん。「人と話すのは苦にならないし、地味な仕事だが、やりがいがある」と目を輝かせる。

 ▽Gメンは300人、さまざまなキャリアの持ち主
 下請けGメンは2017年の発足時には100人に満たなかったが、現在は約300人まで増えた。地域ごとに配置されており、山田さんが所属する東京エリアには約100人いる。年齢は50代後半~60代が中心だ。メーカーの営業や調達担当、金融機関の融資担当といったさまざまなキャリアの持ち主がいる。ほとんどが男性だが、中には女性もいるという。

 大企業と中小企業の価格交渉を巡り、中小企業庁は毎年3月と9月を促進月間に定め、終了後に中小企業へのアンケートやGメンによる聞き取り調査の結果を公表している。


公正取引委員会が入るビル=東京都千代田区

 経済産業省は業種ごとの価格転嫁の状況を分析し、2023年2月には価格交渉に後ろ向きな大企業の実名を初めて公表した。4段階評価で最低となって名指しされた日本郵便はただちに社内点検を実施。今後は年に1回、下請け企業と協議するよう改めた。

 ▽公正取引委員会とタッグ、不適切な企業を締め出し
 価格転嫁を巡って中小企業庁は、公正取引委員会ともタッグを組む。公正取引委員会といえば、かつてはカルテルや談合などが摘発の中心だったが、近年は下請けいじめの撲滅にも力を入れている。

 公正取引委員会は2022年12月、下請け企業との交渉に適切に対応していないとして、佐川急便やデンソーといった13の企業や団体の実名を公表した。2023年も大規模な調査を実施する予定だ。下請けいじめをする大手企業を排除するための包囲網は確実に狭まっている。

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