「若者の街」渋谷を鮮やかに彩り続ける「HARUMI GALS」 イラストレーター山口はるみさんの作品による広告、渋谷パルコに久々登場 「渋谷半世紀」~若者の聖地の今~
47NEWS / 2023年6月30日 11時0分
6月14日にちょうど50周年を迎えた渋谷パルコ。その誕生日を祝うように、この夏、渋谷パルコの風物詩であるバーゲンセール「グランバザール」には、山口はるみさんのイラストレーションによる広告が登場する。1970~80年代、アートディレクターの石岡瑛子(いしおか・えいこ)さんやコピーライターの小池一子(こいけ・かずこ)さんと共に手がけたパルコの広告シリーズで、エネルギッシュでセクシー、色あせない魅力を放つ女性たち、「HARUMI GALS」を描き続けてきた。現在も日本を代表するトップアーティスト山口さんに、パルコ誕生から半世紀を機に、当時の広告制作のエピソードや創造の秘訣(ひけつ)、そして新たな「HARUMI GALS」について話を聞いた。(共同通信=内田朋子)
▽制服ではアイデア浮かばない
島根県の松江市に生まれ、高校時代までを故郷で過ごした。東京芸術大油画科を卒業後、西武百貨店宣伝部に入社する。
西武入社後の1969年、池袋にパルコ1号店がオープンすると、イラストレーターとして広告制作に参加する。「パルコの創業に関わった増田通二(ますだ・つうじ)さんは本当に自由な精神の持ち主で、一人一人の持ち味を引き出してくれました。個性の違う小池さん、石岡さんとの出会いも奇跡のようでした」と話す。
美術家の横尾忠則(よこお・ただのり)さん、イラストレーターの和田誠(わだ・まこと)さんら時代を代表するクリエーターたちにも囲まれた。「ずばぬけた才能と行動力を持った男女の仲間に恵まれ、一緒に仕事をすることで自分の力を伸ばすことができたのだと思う」と振り返る。
パルコの広告「グラスと夏と女」(1979年)(C)Harumi Yamaguchi
忘年会では、パルコの幹部たちや西武百貨店社長の堤清二(つつみ・せいじ)さんの前で、シャンソンをフランス語で歌ったりもした。「いま考えるととんでもない女の子」と笑う。そんな自然体の山口さんの魅力が、いつのまにか周囲の人々を巻き込み、渋谷のカルチャーを花開かせていった様子が目に浮かぶ。
「ラッキーなことに、幼稚園から大学時代、社会人になっても男女の差別に遭ったことがない」。西武百貨店に入社の際も、社員は制服着用と決まっていたが、「制服の片袖を通すとアイデアが飛んでしまうと上司に言ったら、着ないことを受け入れてくれました」。
山口さんには「HARUMI GALS」のほか、62人の著名な女性を88年から約十年間描いたパルコのポスター「のように」シリーズという代表作がある。作家フランソワーズ・サガンや歌手の美空ひばりら国内外のさまざまな分野の女性たちが登場して話題を呼んだ。広告にするため本人や関係者の許諾を得なくてはならない仕事だった。「ミュージシャンのジャニス・ジョプリンからも許諾がとれていたけれど実現できなかった」と残念がる。大女優キャサリン・ヘプバーンには最初断られたが、「発表作を見せると了解を得られ、あり得ないような作品が実現した」という。
次々に湧き出るアイデアの原点には、人やものに対する好奇心、世の中の動きを捉える感覚に加え、少女時代の故郷での体験があったようだ。
自身の作品について説明するイラストレーターの山口はるみさん=5月31日午前、東京都渋谷区
▽人を楽しませる末っ子
エアブラシを用い、70年代当時の最新技法で描かれた色鮮やかな女性像「HARUMI GALS」。そのシリーズには、ボクシングや野球などのスポーツをする女性を描いた傑作も多い。軽やかで力強い躍動感が魅力だ。
山口さんは6人きょうだいの末っ子として松江で育った。スポーツが大好きで高校時代はソフトボール部の投手を務め、チームを県大会優勝まで導いた。
創造力を培ってくれた家庭環境も大きい。一番上の兄の琢磨(たくま)さんは東京大の院生時代、母校の応援歌「ただ一つ」を作曲した才人。山口さんが中学生時代、琢磨さんはバッハの曲を選び、山口さんに歌わせ遊んでいたという。「今から考えるとずいぶんクリエーティブな遊びだったと思う。和田(誠)さんに話したら『そんな遊びをする家庭は日本でお宅だけだよ』と言われ、兄が創造的なことを一緒にしてくれていたことに気が付いた」と語る。「どんな場所でも男女は常に平等であるという感覚、男女の差を感じずに仕事をできるようになったのも、兄やきょうだいたちとの関係の中で自然に身についていったのだと思う」
インタビューに答えるイラストレーターの山口はるみさん。左は1970~80年代の山口さんの作品を再構築したパルコ「グランバザール」の広告=5月31日午後、東京都渋谷区
「HARUMI GALS」は〝媚びない女性像〟を創り出したと言われ、今も世界的な評価を受けているが、山口さんの意図は別のところにあった。
「超真面目なだけでいくのはつまらないなと思う性格。末っ子なので笑いを家庭にもたらす役割を自然に担っていた。ちょっと面白くする、人をぷっと吹き出させる、時には『ウッソー』と言わせる。仕事をする中でもいつもそんな気持ちが潜んでいたと思う」「こうせねばならないという考えはなく、こっちの方が面白いよという感覚の方が強い」
パルコの広告制作でも、初めは雑誌などの資料を参考に女性のポーズを描いていたが、増田(通二)さんが「モデルを撮影して創作したいのでは?」と気付いてくれた。「モデルさんにまず高く飛んでもらって落ちる様子までをカメラマンに撮影してもらった。そうしてできた面白い写真のおかげで、自分のちっぽけな考えを超え、イメージがふくらんでいった」
▽ちょっと逆らうことも大切
自然体の山口さんだが、未来を担う若い人たちには「仕事でもなんでも素直に受け入れるだけでなく、少しずつ自分のやりたい方に引っ張った方がいい。時には、ちょっと逆らってもいいのでは」と提案する。「末っ子みたいに、別の角度から『これどう?』とアイデアを出して周りを巻き込んでいってほしい」
自身の作品の前に立つイラストレーターの山口はるみさん=5月31日午前、東京都渋谷区
7月1日からスタートの渋谷パルコ「グランバザール」のための広告は、世界中で活動するグラフィックアーティストのYOSHIROTTEN(ヨシロットン)さんと70~80年代の作品を再構築してみせた。83年生まれのYOSHIROTTENさんとの世代を超えたコラボレーション。「初めて一緒に仕事をしたときもいろんなアイデアを出してくれたので、今回も『なんでも自由にしていいよ』とお任せした。最高に信頼している」とほほ笑む。鮮やかなピンクの水と伸びやかな女性がまぶしい。〝出会い〟に恵まれた「HARUMI GALS」が装い新たに今夏の渋谷を彩る。
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