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「死者の手」ロシアの核ミサイル自動発射システムは「今も機能している」 現地メディアの報道から読み解く「最高機密」の現状

47NEWS / 2023年7月3日 10時0分

2022年4月、ロシア北西部プレセツクから発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」(ロスコスモス提供、AP=共同)

 ウクライナ軍によるロシア軍への反転攻勢が始まったが、ロシアの核使用を巡る緊張は依然として高まっている。モスクワ中心のクレムリンへの無人機攻撃を受けロシア政府高官から戦術核使用をほのめかす発言が相次ぐ一方、ロシアとその同盟国ベラルーシがロシア戦術核のベラルーシへの配備で合意。年内にも配備が完了するとされ、ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)に対して核で対抗するロシアの立場が明確になった。ロシア民間軍事会社ワグネルの武装反乱により国内情勢の不透明さも増している。
 こうした中、米国との全面核戦争になった場合、ロシアを防衛する最後のとりでになるとされるのが「核ミサイル自動発射システム」。冷戦時代に始まり、ロシアで「ペリメトル」、欧米で「死者の手」「審判の日の兵器」と呼ばれる同システムの運用は現在どうなっているのだろうか。ロシアメディアの報道などから現状を探った。(共同通信=太田清)

 ▽効率的に機能

 今年1月、ロシアと国境を接するバルト3国の視聴者を対象としたロシアのニュースサイト「バルトニュース」が、ロシアの「核ミサイル自動発射システム」について、ロシア退役軍人で、ロシア科学アカデミー米国カナダ研究所副所長のパーベル・ゾロタリョフ氏のインタビュー記事を掲載した。同氏は1979年から85年にかけ、旧ソ連で戦略核戦力を担っていた戦略ミサイル部隊に所属、同システム開発に携わってきた。
 ゾロタリョフ氏はインタビューの中で、同システムについて「現在も運用されており、改良され続けている」と断言した。
 バルトニュースは、ロシアの主張を内外に向け発信するためプーチン大統領の大統領令により設立された国営メディアグループ「ロシアの今日」傘下にあり、その報道はロシア政府の立場を色濃く反映、ラトビアなどで事実上その活動が禁止されている。ちなみに「ロシアの今日」はロシアによるウクライナ侵攻に伴い、欧州連合(EU)、英国、カナダなどの制裁対象だ。


ロシア軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」と兵士ら=2022年2月25日、モスクワ近郊(タス=共同)

 同ニュースがこの時期に、あえて同システム開発者にインタビューし、その記事を掲載したことはそれなりの意図があったとみられるが、同システムが国家の最高機密で、その実態が謎に包まれていることから、その発言は注目された。
 また、これに先立ち戦略ミサイル部隊最高幹部の一人である参謀本部長を務めたビクトル・イェシン氏も2019年6月、ロシア通信に対し、敵の先制攻撃でロシアの報復能力が損なわれる恐れがあることに懸念を示しつつ、同システムは「改良され、今も効率的に機能することができる」と保証した。

 ▽地下から「指令ミサイル」打ち上げ

 そもそもロシアの「核ミサイル自動発射システム」とは何なのか。米国とソ連が大量の戦略核ミサイルを保持し、お互いに角を突き合わせた冷戦時代、ソ連にとっての最大の懸念の一つが米国の先制核攻撃により、ソ連の核制御システムが徹底的に破壊され、報復攻撃もかなわずに一方的に国家が崩壊することだった。
 同様の懸念を持つ米国は冷戦時代、「オペレーション・ルッキング・グラス(鏡作戦)」と称される作戦を立案。地上の核制御システムが破壊された場合に備え、同システムを備える複数の航空機を交代で24時間空中待機させるというもので、1961年から冷戦終結の90年まで作戦は続けられた。
 これに対し、ソ連は異なったアプローチを取った。軍参謀本部や、大統領(当時は共産党書記長)の傍らに常に置かれる「核のブリーフケース(通称チェゲト)」をはじめとする人の手を介した指令システムが破壊された場合、地下サイロに隠された「指令ミサイル」を打ち上げ指令電波を発信、残存する大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機搭載ミサイルなどの核発射システムを自動的に起動させるというものだ。実現すれば、史上初の核兵器自動制御システムとなる。


核兵器搭載可能なロシア軍の戦略爆撃機「ツポレフ95」(防衛省提供)

 1970年代に開発が始まり、85年に実戦配備されたとされるこのシステムはロシア語で「ペリメトル」と呼ばれる。ペリメトルとは周長(多角形や円の始点から終点までの長さ)の意味だが、軍事用語では防御線と、防御線に囲まれ安全が確保された領域を指す。
 ソ連崩壊後、同システムは91年の米ソ間の第1次戦略兵器削減条約(START1)調印に伴い、95年に実戦配備から外されたとの一部報道もあったが、ロシアに引き継がれ配備が継続しているとの見方が強い。
 一方、米国による先制攻撃を警戒して、そのシステムは最高機密とされ、公式に裏付けられたデータはほとんどない。西側にその存在が知られるようになったのは、93年に米紙ニューヨーク・タイムズが報じたのがきっかけで、その後、システムの開発に携わった戦略ミサイル部隊元幹部のワレリー・ヤルイニッチ氏が米カリフォルニア州立大学教授に就任、システムの存在を明らかにした。同氏の情報公開は、ロシアとなってもシステムが健在であることを米国に知らしめるため、ロシア政府の承認の元で行われたとの説もある。
 日本では一部メディアが、軍の最高司令官であるプーチン大統領が不慮の死を遂げた場合、システムが起動、日本の米軍基地も攻撃対象となる可能性があると伝えたが、起動の条件や攻撃対象を含め、そのような事実が確認されたことはない。


国際経済フォーラムの会合で演説するロシアのプーチン大統領。同会合でプーチン氏はロシアの戦術核兵器の第1陣が既にベラルーシ領内に搬入されたと述べた=6月16日、サンクトペテルブルク(Pavel Bednyakov/RIA Novosti提供、ロイター=共同)

 ▽ウクライナ企業が開発

 一方、ロシアの軍事関連メディアや軍事専門家は、これまでにシステムの概要をいくつか伝えている。
 システムは一時、ウラル地方のコビンスキー・カメニ山の地下250~300メートルに配置されているとされていたが、「指令ミサイル」を開発・製造したウクライナ東部ドニプロの同国国営軍事企業「ユジマシ」(正式名称・マカロフ記念南機械製造工場)による情報流出を恐れたロシア軍が場所を変更、ないしは別の場所に補完システムを設置したとの見方もあり、正確な配置場所は不明だ。
 システムは常時、①軍の緊急回線を使った会話の頻度②早期警戒システムからの情報③大気中の放射線濃度④地表の地震波―などをモニターしており、異常を検知した場合、参謀本部にシグナルを送る。応答がない場合、さらに上層部、つまり核のブリーフケースにシグナルを送り、これにも応答がない場合、システムを起動させる。(システム起動前に最終的に、地下塹壕内の司令部にいる軍担当者の判断を仰ぐとの説もある)


モスクワの赤の広場を進むロシアの核ミサイル=2020年6月(ゲッティ=共同)

 システム起動後には、地下のバンカーから通信指令専用の大陸間弾道ミサイル「トーポリ」が発射され、あらかじめ決められた暗号コードを発信、ロシアが保持する作戦配備中の戦略核弾頭約1600発のうち、その時点で利用可能な核弾頭を敵国に向け発射する。
 システムは暴発防止のため、非常時以外は「冬眠」状態にあり、大統領が国家が核攻撃を受ける危機的状況にあると判断した場合、スイッチが入れられ、スタンバイする。
 敵の核攻撃に対する報復を確実にする以外に、ヤルイニッチ氏は米メディアに対し、システムが稼働していることでロシアの国家指導者は自分が死んでも報復攻撃が確実に行われると確信。時間をかけ情勢を分析、性急な判断で誤った核攻撃を決断することを防ぐ役割もあると強調している。
 また、ゾロタリョフ氏はシステムの詳細の説明は避けながらも、その稼働の条件として①敵の核攻撃が実際に行われたこと②軍・政府指導部との連絡が取れないこと③連絡が取れない状態が一定期間続くこと―を挙げ、暴発防止策が担保されていることを強調した。

 ▽米国も自動システム検討

 ロシアのシステムについては米国も当然認知しており、ロシアの最新ミサイル開発と合わせて、米国も対応策を検討すべきだとの声もある。
 ともに核抑止戦略が専門のアダム・ラウザー・ルイジアナ工科大学調査教育部長とカーティス・マクギフィン米空軍工科大学戦略研究学部副学部長は、軍事外交問題投稿サイト「ウォー・オン・ザ・ロック」に発表した論文で、イェシン氏の発言などから、ロシアのシステムは現在も運用されているとみられるとした。


2018年7月18日に行われた極超音速弾頭「アバンガルド」を搭載したミサイルの発射実験(ロシア国防省提供、タス=共同)

 その上で、ロシアが「アバンガルド」など超音速核ミサイルや、「カリブル」などレーダー探知の難しい巡航核ミサイルの開発を進めていると指摘。
 ロシアの核攻撃を探知してから米国が報復攻撃を決断するまでの猶予が著しく短くなっているとして、米指導部に対し人工知能(AI)を基礎とした自動報復システムの開発を検討するよう助言した。

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