岸田首相が解散を見送った理由は「東京で異変」があったから? 「政権与党離れ」の兆候 データで読み解く政治(2)
47NEWS / 2023年7月12日 10時0分
東京で今年行われた地方選挙で「異変」が相次いでいる。23区議選のうち、4月の統一地方選とそれ以降に計22区議選が実施された結果、日本維新の会や参政党が伸長した。特に維新は合計50人が当選し、前回の11人から4倍以上に躍進。一方で、政権与党である自民、公明両党は前回2019年より議席や得票を大きく減らしたのだ。岸田文雄首相はこの間、衆院解散・総選挙を“におわせる”物言いを続けてきたが、6月21日の通常国会会期末の直前になって解散見送りを宣言。首都・東京で起きた「政権与党離れ」の兆候が、首相の描いた解散戦略に影響を与えたのだろうか。(共同通信社=中田良太)
東京22区議選の選挙結果
▽自民、公明両党は今回得票を16万票減らした
まず、22区議選を振り返ってみる。4月23日の統一地方選で葛飾区、足立区を除く21区議選が実施され、続いて5月21日に足立区議選が挙行された。
各区選挙管理委員会が公表した開票結果を見ると、苦戦を強いられたのは自民、公明両党だ。自民党は候補者計316人のうち80人が落選し、当選者は236人にとどまった。前回は338人のうち272人が当選しており、獲得議席は36議席減。渋谷、杉並、足立ではそれぞれ7人が敗北している。
一方、公明党は練馬で4人が落選するなど8人が涙をのんだ。当選者は157人。前回選挙では目標通り全員当選しており、8人も落選したのは公明党が現在の形となった1998年以降で最多だった。
自民、公明両党への「逆風」は、獲得議席だけではない。得票数にも表れている。
自民党は台東区議選以外の21区議選で前回より得票を減らし、22区の合計では11万票以上のマイナスとなった。公明党は22区議選全てで前回選を下回り、合計5万票弱が減少した。政権与党の自民、公明両党で総計16万票以上を減らした計算になる。
「責任を痛感している。生まれ変わった決意で党勢拡大の先頭に立ち、強靱な党の構築へ全身全霊、戦い抜く」。公明党の山口那津男代表が、5月15日の全国県代表協議会で陳謝したのもうなずける、深刻な事態だった。
東京22区議選における合計得票
▽躍進した維新の得票は前回選の5倍超に急増した
退潮傾向を示した自民党、公明党とは対照的に、躍進を印象付けたのが日本維新の会だ。22区議選の当選者は前回11人から4倍超の50人。立候補者52人のうち落選したのはわずか2人だ。得票数は、前回候補者がいなかった文京や台東などを含めて全区議選で増加した。22区議選の合計得票は約23万9000票で、前回選の約4万6000票から5倍超まで積み増した。
参政党も22区議選で14人が当選し、計約5万2000票を獲得。2022年に国政政党になったばかりの「新興勢力」ながら、地位を確固たるものとした。
注目すべきは、前回と今回で投票率に大きな違いがない点だ。21区議選の平均投票率は、前回は42・63%、今回は44・51%。足立区議選は前回42・89%、今回42・79%だった。
記者会見する公明党の山口那津男代表=4月24日、東京・新宿区の党本部
それなのに、日本維新の会や参政党などの新興政党に多くの票が入っている。前回選では自民、公明両党に入っていた票が少なからず、こうした新興政党に流れたとみるのが自然だ。これまでの東京の選挙における主要な既存政党の構図に、地殻変動が起こっている恐れがある。
公明党の山口氏は、4月24日の記者会見でこうした分析を明かしている。「維新系候補が多く得票し当選している。全体として投票率はそれほど上がっているわけではない。そこが増えた分、既存勢力が割りを食った面があった」
大田区都議補選で自民党候補への支持を呼びかける自民の高木衆院議員(右から2人目)=5月30日、東京都大田区
▽維新は大田都議補選で落選も大きな手応えを得る
6月4日投開票の大田区の都議補欠選挙でも、当選こそしなかったものの、維新候補は存在感を示した。比例東京選出の自民党の高木啓衆院議員は5月30日の自民党候補の応援演説で、こう訴えている。「自民党にとって順風ではない選挙が続いている」。同じくマイクを握った東京選挙区選出の朝日健太郎参院議員も、足立区議選を「大変厳しい結果だった」と振り返り、支持を呼びかけた。最終的に自民党候補は約4万票を獲得し、定数2のうち2位で当選、次点は維新の候補だった。
大田区都議補選で日本維新の会候補への支持を呼びかける維新の馬場代表(右)=5月30日、東京都大田区
この都議補選での日本維新の会候補の得票は、25・33%という低投票率の中で約3万票を獲得し、得票率は約20%。一般的に投票率が低い選挙は組織票を持つ政党が有利だ。無党派層への依存度が低い選挙は維新に不利な戦いになった。ただ、その厳しさの中で一定の成果を挙げた格好とは言える。日本維新の会の馬場伸幸代表は6月6日の党会合で「そこそこの成績をいただいたのではないか」と自信をにじませた。
大田区都議選補選の結果
▽自民党は公明党の支援を得られずに次期衆院選を戦う?
大田区の都議補選では自民党はもう一つ、頭の痛い問題と向き合う結果になった。東京における公明党との選挙協力の解消だ。
理由は、衆院小選挙区定数「10増10減」で新設される東京28区の公明党候補の擁立で折り合えなかったこと。公明党は5月25日に自民党にこう伝達している。
「東京都内の衆院小選挙区では自民党候補を全員推薦しない」
東京28区を自民党が譲らなかったことに対する「意趣返し」となった。
このあおりを受け、都議補選でも自民党候補は公明党から推薦を得られなかった。結果的に当選こそできたものの、立憲民主党や共産党の支援を受けて約4万8000票を獲得した無所属候補の後塵を拝した。
「自民党候補が2位当選だったのは、公明党の推薦が得られなかったことが原因だ」と自民党関係者はぼやく。
日本維新の会の躍進と相まって「次期衆院選では、東京はかなり厳しい戦いになるかもしれない」。自民党候補には、公明党票頼みの衆院議員が多いからだ。
次期衆院選で東京都内の小選挙区は、5小選挙区増えて30小選挙区になる。日本維新の会が6月20日時点で擁立を決めているのはこのうち9小選挙区にとどまっている。ただ、馬場伸幸代表は野党第1党を奪取するため、全289小選挙区への候補者擁立を目標に掲げる。特に東京は「絶対に擁立だ」と幹部は断言する。
そんな中、自民党の梶山弘志幹事長代行は6月20日の記者会見で、公明党が東京29区に立てる岡本三成衆院議員を推薦する方向で検討していると明かした。関係修復に向けて秋波を送った格好だ。それでも、公明党が翻意するかどうかは見通せない。
中央大の佐々木信夫名誉教授(地方自治論)
▽政権党離れが無党派層の多い東京から起こっている
専門家は、東京の有権者の投票動向をどう分析しているのか。
中央大の佐々木信夫名誉教授(地方自治論)はこう指摘する。「現状への不満や、将来への危機感から、有権者が自公政権の政治に『ノー』を突きつけた。無党派層が多い東京で政権党離れが起こっている」。結果として「改革してくれそうな保守政党が期待を集め、新興政党が伸長した」と分析した。特に維新は、本拠地である大阪での「成果」を引き合いに税金の無駄遣い解消をアピールする戦略が奏功したと評する。
ただ、数十人が当選できる大選挙区制の区議選や、数人が当選できる中選挙区制の都議補選と、小選挙区制の衆院選とは事情が違う。一つの選挙区から1人しか当選しない選挙制度だからだ。加えて、有権者の判断基準も自治体選挙と国政選挙では全く異なる環境もある。
佐々木氏は、大田区の都議補選での維新を「善戦」と評価はするものの「次期衆院選の小選挙区で維新の候補が当選するほど、得票できるかどうかはまだ分からない」と慎重な見方を崩さない。
6月の報道各社による世論調査結果
▽東京の選挙は次期衆院選のリトマス試験紙となるか
今から14年前、2009年7月の東京都議選では民主党が大勝し、自民党が44年ぶりに第1党の座を失った。その直後の衆院選で民主党は政権交代を実現。現在の日本維新の会は、当時の民主党の勢いにはまだ及んでいない。それでも、東京の22区議選や大田区都議補選が、次期衆院選の「リトマス試験紙」になる可能性は、決して小さくない。
報道各社が6月に行った世論調査では、岸田内閣の支持率が軒並み下落した。前回調査より3~15ポイント低下。毎日新聞では、「支持」は33%で、前回より12ポイント急落した。共同通信では「支持」が40・8%で6・2ポイント減り、「不支持」は5・7ポイント増の41・6%、衆院東京ブロックでの「支持」は37・0%と全国平均よりも低かった。朝日新聞の「支持」は前回より4ポイント下がって42%。主因はマイナンバーカードを巡るトラブルや、首相の秘書官を務めていた長男に関する報道とみられている。
岸田首相は来年9月の自民党総裁選の再選をにらみ、内閣改造・自民党役員人事の時期を探りつつ、今秋以降の解散戦略を練り直しているとされる。
だが、有権者の問題意識に応える政策を打ち出せなければ、内閣支持率が上向かず、東京の選挙のように政権与党離れが加速するのは間違いない。衆院解散も与党が有利な時期を選べず、追い込まれた形での見切り発車となりかねない。
※データで読み解く政治(1)「旧統一教会と『接点あり』の議員、90%超が当選」はこちらから
https://www.47news.jp/9398949.html
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