J2で天皇杯制覇、甲府のベテラン3人が語る下克上 先制点の三平、PK止めた河田、最後のキッカー山本
47NEWS / 2023年7月9日 9時0分
昨年のサッカー天皇杯全日本選手権はJ2甲府が初優勝し、J2勢で11大会ぶりに頂点に立った。当時リーグ戦で下位に低迷し、J2で平均的な経営規模の地方クラブの下克上は、広島との決勝の劇的な展開と相まって大きな反響を呼んだ。優勝の立役者となったDF山本英臣(43)、FW三平和司(35)、GK河田晃兵(35)のベテラン3人が快進撃を振り返り、12日に行われる鹿島との今大会3回戦へ意気込みを語った。(共同=大島優迪)
▽敗退覚悟の鹿島戦
―昨年は3回戦の札幌から鳥栖、福岡、鹿島とJ1勢を次々に破りました。
山本「J1のチームからすればJ2のチームと当たるのはラッキー。『ラッキー』と思った隙は、どの試合でも感じた」
三平「J2で戦っていてもボール保持率では圧倒していたので自信はあった。福岡戦までは勝てるのでは、という感じがあった。準決勝の鹿島は守備に隙があると思っていたけど、攻撃陣は鈴木優磨やカイキがすごかった。いい勝負ができても、勝てないだろうと感じていた」
河田「鹿島戦は全然違った。ここで敗退するだろうと、みんな思っていた。『思い切りぶつかって一矢報いれば』という感じで臨めた」
山本「カシマスタジアムの鹿島の強さを知っているので勝機は少ないと思っていた。でも若い選手は気負っている感じがなかった。先制点の後は失点しない戦い方にシフトした。こういうサッカーもできるんだと成長させてくれた試合だった」
三平「(クラブ初の)準決勝進出で大健闘と思っていた。鹿島に勝った時は『勝っちゃった』という感じ。あの試合が一番鳥肌が立った」
▽決勝進出も浮足立たず
―決勝進出で、さらに注目されました。浮足立つことはありませんでしたか。
山本「J2で勝っていなかったので浮足立てないような状況だったけど、いろいろな人が連日取材を受けていた。僕も(在籍21年で)長く甲府にいるけど、そんなことはなかった。だんだん自分たちがやってきたことのすごさに気づいた」
河田「リーグ戦で勝てていなかったのでサポーターに申し訳ない思いだった。天皇杯で一つでも勝ち進んで、喜んでもらいたい気持ちがあった」
―決勝が行われた日産スタジアムに多くの甲府サポーターが来場しました。
山本「正直、広島のサポーターしかいなかったら、どうしようと思ったけど、あれだけ入って後押しをもらった。クラブの底力をすごく感じた」
河田「ウオーミングアップ前にあいさつに行く時に、このお客さんの前でプレーすると思うとサッカー選手になれて一番幸せな瞬間だと思った」
ボールを手に撮影に応じるJ2甲府の三平和司=2023年6月26日、甲府市
▽劇的な決勝戦
―決勝は前半26分に入念に準備されたCKから三平選手が先制点を奪いました。
三平「鹿島戦の得点もそうだけど、スタッフが分析してくれたままって感じ。先制する前から相手が苦戦していて、手応えがあった。思うように試合を進めているところでの先制点になった」
―猛攻を受けて後半39分の失点で追い付かれました。
河田「試合前から1失点は仕方ないという感じはあった。あれだけ守っていたら攻撃にパワーを使うのは難しい」
山本「前半は思い通りで、あと45分守ればタイトルを取れる。誰もが経験したことのない状況だった。後半は相手の圧力や、疲労で間延びした。隙を突いて点を取るか、PK戦しか勝機はないと思っていた」
―山本選手は延長後半に途中出場の直後にハンドでPKを与えてしまいました。
山本「みんなが疲れていたのをカバーしたいと慌てていて、自分らしくないプレーだった。最年長の自分が一番、浮足立っていたんじゃないかな」
ボールを手に撮影に応じるJ2甲府の河田晃兵=2023年6月26日、甲府市
―河田選手がこのPKを止めて窮地を脱しました。
河田「あの時間のPKで入れられたら終わりという感覚だったけれど、キッカーの(満田の)プレースタイルを試合中に見て真ん中には蹴らないと思った。左右どちらかに思い切り跳んで当たればラッキーという感じで跳んで当たった。データは全くなく、勘だった」
山本「あのPKは相当いいコースにいっていた。感謝しかない」
―PK戦に臨む前のチームは笑顔でした。
三平「PK戦はどっちに転ぶか分からないし、負けてダメージが大きいのは広島。それなら気持ち良く楽しくやろうと思って、監督がPKキッカーの順番を言うたびに『ウエーイ』と」
―山本選手は5番手でしたね。
山本「何度かPK戦をやったけど、1番手でしか蹴ったことがなかった。1番手に指名されず(PKを与えた)ショックから気を使ってくれたと思った。そうしたら5番手で一番プレッシャーをかけられた」
―河田選手はPK戦で4人目の川村選手を止めました。
河田「手に当てたけど、入ったと思った。球がギリギリ、クロスバーを越えて運があると感じた。データがなかったので試合中のプレースタイルを見て、直感で跳んだ」
―山本選手が最後のキッカーを務めましたね。
山本「蹴るコースは直前まで考えた。GKが『こう動く』と何となく分かったけど、それに頼って中途半端なキックになるのが嫌だった。相手にリズムを取らせないようにして最後は好きなところに蹴ろうと思った」
―いつ優勝を実感しましたか。
山本「メンバー外の選手が泣いたり喜んだりしているのを見た時に本当に良かったと思った」
三平「メダルをもらった時も本当に優勝したのかなと思った。1カ月くらいは実感が湧かなかった。(ユニホームにタイトル獲得を意味する)星がついたのを見てから」
河田「公園で子どもと遊んでいるお母さんやサッカーを見ていないだろう人から声をかけられることが増え、優勝がすごいことだと改めて思った」
ボールを手にするJ2甲府の山本英臣=2023年6月26日、甲府市
▽必死の守備が「ジャイキリ」に
―ジャイアントキリング(大番狂わせ)のコツは。
山本「甲府は若手も含めて仲がいい。どうしてリーグで勝てないんだという声もあると思うけど、何かを起こすのは一つになる力を出せるチーム。ミスがあってもミスを気にさせない、気遣いができる選手がいた。普段の練習から、みんなが向上心を持っていた」
河田「去年の天皇杯は体を張って必死に守ったことがジャイアントキリングのきっかけになった。先に点を取られると、逆転は厳しい。ひたむきに守り、隙を突いた」
―今年の天皇杯初戦では、6月7日の2回戦でJ2長崎に1―0で勝ちました。
三平「優勝チームが初戦で負けたら、やばいという声が周りから聞こえ、変な重圧があった」
山本「タイトルを取れたことでサポーターも、またその景色を見たい思いが強い。小さいクラブでも優勝に手が届くと証明したので、いろいろな意味で周りの目は厳しくなっている」
―3回戦の鹿島戦と、天皇杯優勝で出場権を獲得したアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)への意気込みを。
三平「鹿島のリベンジ(マッチ)になるけど、今回も勝てれば。ACLは去年の天皇杯と同じような感じで、不完全燃焼の戦いをしないように全てをぶつければ、いい結果がついてくる」
山本「去年の鹿島と違って完成度が高い。難しいと思うけど、しっかり戦いたい。ACLは大会に参加できることを楽しみながら、楽しみだけで終わらないような雰囲気にしたい」
河田「鹿島は『もう負けられない』プレッシャーもある。そういう隙を突いて次のステージに進むことが大事。(本拠地が大会基準を満たさないため)ACLを山梨で開催できないのは残念だが、ホームとして(東京の)国立競技場でやれる。初戦に全力を注ぎながら新たなファンを獲得できればラッキー。国立でやるメリットを出せるように頑張りたい」
笑顔でインタビューに答えるJ2甲府の(手前から)三平和司、山本英臣、河田晃兵=2023年6月26日、甲府市
―天皇杯の魅力は何ですか。
河田「勝敗がつき、リーグ戦と違った戦い方になる。格上相手にどれぐらい通用するかを試せる、楽しみな大会。相手が強ければ守って一発を狙う格下の戦い方をしなければいけない。いろいろな見方ができるところが一番面白い」
三平「J1のチームと戦ういい機会だけど、上は目指せない大会と思っていた。だけど奇跡的に優勝できたので、味をしめたように『また優勝しようぜ』と言っている。ユニホームに星も1個つけられて最高の大会」
山本「僕たちの年齢になると、天皇杯はすごい大会というのが最初にある。J2のチームが優勝するのは相当難しい。最近は若手の力を試す場になっているところもあったけど。競争が厳しいサッカーの世界で小さなクラブが大きなタイトルを取れたことにすごく価値がある」
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