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JR九州新観光列車、「いさぶろう・しんぺい」と組む〝第三の男〟が判明! 関係筋が明かした予想外の正体は…「鉄道なにコレ!?」【第47回】

47NEWS / 2023年7月20日 10時0分

JR九州の久大線の新観光列車に改造される「いさぶろう・しんぺい」=2019年3月24日、熊本県人吉市で筆者撮影

 JR九州が久大線を走る新たな観光列車を2024年春に導入することを発表し、同社の幅広い車両を手がけてきた水戸岡鋭治氏に代わるデザイン会社がどんな姿を生み出すのか注目を浴びている。観光列車「いさぶろう・しんぺい」の現有車両を改造して使うことが判明しているが、3両編成となる新観光列車には1両足りない。そこで人名に由来する「いさぶろう・しんぺい」とタッグを組む〝第三の男〟をJR九州の関係筋に当たったところ、筆者の予想外だった正体を突き止めた。(共同通信=大塚圭一郎)
 
 筆者が本稿に関連して今夏お薦めの鉄道旅行を音声で解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索いただくか、以下のリンクからお聞きください。


 https://omny.fm/shows/news-2/31-3

 【D&S列車】JR九州の観光列車の愛称で、「デザイン・アンド・ストーリー列車」を略した呼び方。「D」は特別な「デザイン(Design)」、「S」は沿線地域に伝わる歴史や伝説などの「ストーリー(Story)」を指しており、「デザインと物語のある列車」という意味を込めている。現在は11列車あり、日本国有鉄道(国鉄)時代に造られた非電化区間でも走れるディーゼル車両を改造した列車が大部分を占めている。1922年に製造された蒸気機関車(SL)の8620形を使った列車で、現在は鳥栖(佐賀県鳥栖市)―熊本間を走る「SL人吉」は2024年3月23日が最終運行日になると発表されている。


特急「ゆふいんの森」1世ことキハ71系=2019年3月26日、大分県日田市で筆者撮影

 ▽福岡・大分DCに合わせて導入
 JR九州は2023年5月10日、JRグループと自治体などが手がける大型観光企画「福岡・大分デスティネーションキャンペーン(DC)」の開催に合わせて久大線経由で博多(福岡市)―別府(大分県別府市)間を結ぶ新たな観光列車を2024年春から運行すると発表した。
 「D&S列車」と呼ばれるJR九州の観光列車の一つとなり、コンセプトは「ゆふ高原線(久大線の愛称)の風土を感じる列車」。木曜を除く週6日に片道ずつ運転し、月曜、水曜、土曜が博多発別府行き、日曜、火曜、金曜が別府発博多行きとなる。博多―別府間の所要時間は約5時間と、D&S列車の先駆けとなった特急「ゆふいんの森」が3時間半以内なのに比べて長い。
 車両のデザインを手がけるのは、高級民泊施設「萌蘖(ほうげつ)」(鹿児島市)を運営するデザイン会社「IFOO(イフー)」(鹿児島市)。D&S列車や豪華寝台列車「ななつ星in九州」を含めてJR九州の車両デザインを担ってきた水戸岡氏から世代交代し、どのような車両が生み出されるのかに関心が集まっている。


JR九州肥薩線の不通になっている区間にある、「日本三大車窓」の一つとされた「矢岳越え」からの霧島連山の眺望=2019年3月24日、宮崎県えびの市で筆者撮影

 ▽「いさぶろう・しんぺい」が選ばれた理由
 新観光列車は3両編成の全車両グリーン車となり、両端の車両に計60程度の座席を設ける。これらの車両は「いさぶろう・しんぺい」の国鉄時代に製造されたディーゼル車両キハ47形を改造する。これらの車両に白羽の矢が立ったのは、もともと走っていた肥薩線で運用できなくなったため出番が限られており「総合的に勘案して転用可能な列車だと判断した」(JR九州)という。
 「いさぶろう・しんぺい」は2004年3月から熊本―吉松(鹿児島県湧水町)間で走り、「日本三大車窓」の一つとされた通称「矢岳越え」(宮崎県えびの市)からの霧島連山の眺望を途中で楽しめるなど観光客に人気の列車だった。しかし、20年7月の豪雨による球磨川の氾濫で大きな被害を受けた肥薩線の八代(熊本県八代市)―吉松間が不通になり、運用できなくなった。
 最近は博多駅と「小倉工場鉄道ランド」(北九州市)を結ぶ団体専用列車などに使われてきたが「運転本数は年間25本程度で、D&S列車の中でも稼働が少なかった」(関係者)のが実情だった。JR九州は「いさぶろう・しんぺい」を「2023年秋ごろに運行を終了して改造工事を行う計画だ」と説明している。現在の木材を多く使った昔の客車の雰囲気を味わえる時間は少なく、興味のある方は乗り遅れのないようご乗車いただきたい。


「いさぶろう・しんぺい」の車内=2020年8月9日、北九州市で筆者撮影

 ▽1両消えても3両編成の謎
 「いさぶろう・しんぺい」の列車名は、肥薩線の難工事が完成した時期の鉄道院総裁だった後藤新平(ごとう・しんぺい)と、肥薩線人吉―吉松間が建設された時期の逓信大臣だった山縣伊三郎(やまがた・いさぶろう)に由来する。
 これら2人の偉人の名前を取った列車を巡り、英国で1949年に公開されたミステリー映画「第三の男」さながらの謎が浮上した。新観光列車は3両編成になるものの、改造を受ける「いさぶろう・しんぺい」は現在2両しか残っていないという点だ。
 もともと3両あったうちの1両は離脱し、西九州新幹線が部分開業した2022年9月23日に武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎間で営業運転を始めた「ふたつ星4047」(3両編成)の中間車に組み込まれたのだ。「ふたつ星4047」の残る2両は、22年3月21日まで吉松―鹿児島中央間を走っていた「はやとの風」に用いられていた車両だ。


有明海沿いの小長井駅に停車する「ふたつ星4047」=2022年9月21日、長崎県諫早市

 ▽〝第三の男〟の正体は「真っ黄色の車両」
 すなわち新観光列車には「いさぶろう・しんぺい」とともに〝第三の男〟、つまり他の1両が加わるはずだ。関係筋に当たったところ、中間車となる2号車にキハ125―24を組み込み、乗車がくつろげるラウンジ車両に改造することが判明した。
 キハ125―24が属するキハ125形0番台は、旧新潟鉄工所(現在の新潟トランシスなど)が1993年に製造したディーゼル車両。1987年の国鉄分割民営化で発足したJR九州が、老朽化した国鉄時代に造られた旧型車両を置き換えるとともに、ワンマン運転を可能にして合理化も狙った。鋼鉄製の車体を真っ黄色に塗っており、側面に「YELLOW ONE MAN DIESEL CAR(イエロー・ワンマン・ディーゼルカー)」とローマ字で黒く記されている。車両の略称は「Y―DC125」だ。


JR九州の久大線の新観光列車に改造されることが判明したキハ125形0番台(写真は改造される車両とは異なります)=2019年2月3日、大分県日田市で筆者撮影

 ▽0番台はD&S列車初登場
 この〝第三の男〟の正体にたどり着く前の筆者の推理は見事に外れた。「いさぶろう・しんぺい」と外観が似ており、同じく国鉄時代に造られたキハ140形になると予想していたのだ。
 キハ140形はキハ40形をJR九州が改造し、ディーゼルエンジンを建設機械大手コマツが製造した「SA6D125―HD1」に置き換えた車両。連続定格出力360馬力のエンジンは力強く、九州山地を駆ける勾配区間がある久大線での運用に適していると考えていたのだ。
 キハ125形0番台に搭載している旧新潟鉄工所のディーゼルエンジン「DMF13HZ」は、連続定格出力が330馬力にとどまる。ただ、「車両運用の都合で新観光列車に改造することが決まった」(関係者)という。
 キハ125形0番台がD&S列車に改造されるのは初めてとなる。宮崎駅と日南線の南郷駅(宮崎県日南市)を結ぶ特急「海幸山幸」はキハ125形400番台と名付けられているものの、2008年に廃止された宮崎県の第三セクター、旧高千穂鉄道から買い取った車両を車籍編入した変わり種だ。
 なお、「いさぶろう・しんぺい」のうちキハ47―8159が新観光列車で別府寄りの1号車、キハ47―9082は博多寄りの3号車になることも分かった。


JR九州で運用されているキハ140形=2020年7月11日、福岡県筑紫野市で筆者撮影


JR九州の「或る列車」のコース料理をプロデュースしている成沢由浩氏=2019年2月4日、北九州市で筆者撮影

▽あのD&S列車の命運は?
 新観光列車が来年春に導入されると、久大線のD&S列車は「ゆふいんの森」、有名シェフの成沢由浩氏がプロデュースし、九州産食材を活用したコース料理を楽しめる「或る列車」(博多―由布院間)を含めた〝豪華3本立て〟となる。JR九州は現行の2列車について「提供するサービスや到達時間、ターゲット層などが異なるため運行を継続する予定だ」とし、運転区間も「変える予定はない」と話す。
 それでも筆者が懸念しているのは、2編成ある「ゆふいんの森」のうち「1世」(キハ71系)の命運だ。車体は1989年の登場時に新製されたものの、国鉄時代に造られたキハ65形とキハ58形から流用した足回りの台車などが老朽化しているからだ。
 JR九州に問い合わせたところ「キハ71について現時点で決まったことはない」との回答だった。客室の床を高くしたハイデッカー構造で、大きな窓から迫力のある車窓を楽しめるデザインは「乗ることそのものが、忘れられないイベントになる」とうたったD&S列車のコンセプトを体現している。〝第三の男〟の正体と同じように予想に反し、現場の綿密な保守点検に支えられて長く活躍できることを強く願っている。


JR九州の「或る列車」=2019年10月21日、長崎市で筆者撮影

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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