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「14歳の娘の胸に銃口をあて、引き金を引いた」米国が衝撃を受けた銃乱射事件、17人も殺害した男は死刑を免れた 遺族が語るアメリカの死刑制度(後編)

47NEWS / 2023年7月25日 10時30分

ジーナさんの写真を見つめる父親のトニー・モンタルトさん=2022年11月、アメリカ・フロリダ州

 アメリカ・フロリダ州マイアミから北に約60キロ。パークランドは、マイアミの賑やかさとは打って変わって、落ち着いた雰囲気のある地域だ。
 この街に住むトニー・モンタルトさんは2018年2月14日のバレンタインデーの朝、娘ジーナさん=当時(14)=にカードとチョコレートを渡し、いつものように「愛している」と抱きしめてから学校に送り出した。娘との最後の会話になるとは、想像もしていなかった。
 その日、モンタルトさん宅から2キロ弱離れたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が発生。ジーナさんを含め17人が死亡した。(共同通信=今村未生)


事件があった高校の校舎から避難する生徒ら=2018年2月14日、米フロリダ州パークランド(ゲッティ=共同)


 ▽犯人は母校を退学した男
 事件が起きた時、モンタルトさんと妻は自宅にいた。学校で何かが起きたと聞いて妻は学校に様子を見に行き、モンタルトさんは子供たちが帰宅するかもしれないので、家で待機していた。
 そんな中、ジーナさんに似た子が病院に運ばれたとの一報が入る。モンタルトさんは病院へ向かい、ジーナさんが殺害されたことを知った。ショックで倒れそうになったが、なんとか家に帰りついた。ジーナさんの2つ下の弟に、姉の死を伝えなくてはならなかったためだ。
 「ジーナは最初の子で、私たち夫婦を親にしてくれた子だ。私たちはただただ毎日、娘を恋しく思っている」。ジーナさんは勉強熱心で、ガールスカウトなどの活動にも熱心に取り組む子だった。
 逮捕されたのはニコラス・クルーズ受刑者(24)。この高校を2017年に退学になっていた。
 クルーズ受刑者は2021年10月、州地裁の審理で起訴内容を認めた。つまり、自身が有罪であることを認めた。アメリカでは、有罪かどうかを決めた後に量刑について審理する。その量刑を決める公判が始まったのは2022年7月だった。


米南部フロリダ州パークランドで開かれた高校銃乱射事件の犠牲者追悼式に参加した市民ら=2018年2月15日(共同)

 ▽「矯正システムのブラックホールに消えてほしい」
 モンタルトさんは、公判を何度も傍聴した。
 「犯人と同じ部屋にいるのは苦しかった。だが、私たち夫婦は、ジーナのことを語れる唯一の存在であり、法廷にいるということがとても重要だと思った。学校に乗り込み、生徒を襲って殺すという国の未来を攻撃するような人物を許してはいけないと思う。法律が最大限に適用されることを望まないわけがない」
 公判で最も辛かったのは、ジーナさんが殺害された具体的な状況を聞かなければいけなかったことだ。
 「娘が何度も撃たれたことは知っていたが、銃口を娘の胸に当てて引き金を引いたのだと聞いて…。本当に残酷だ」
 公判では、クルーズ受刑者の人生についても知ることになり、笑顔の写真を見なければならないことも辛かった。
 「もう二度と彼に会いたくないし、彼のことについて聞きたくない。矯正システムのブラックホールに消えてほしい」。モンタルトさんは、「彼」や「犯人」などと呼び、名前で呼ぶのを避ける。私が「ニコラス」と言うことすら嫌がった。


トニー・モンタルトさん

 ▽受刑者が望んだのはカルトヒーローだった
 公判で弁護側は、クルーズ受刑者を妊娠中の母親が飲酒していたため、受刑者はもともとダメージを受けており、精神障害などで苦しんでいたと主張した。検察側は死刑を求めたが、2021年10月13日、フロリダ州地方裁判所の陪審は仮釈放のない終身刑の評決を下した。
 フロリダ州法では死刑を言い渡すためには陪審員全員の一致が必要だが、この時は12人の陪審員のうち3人が反対し、意見が一致しなかった。モンタルトさんは「非常に落胆した」。
 モンタルトさんによると、クルーズ受刑者にはカルト的なヒーローになる願望がある。1999年に起きたコロラド州コロンバイン高校の生徒2人が銃を乱射し、13人が死亡した事件では、犯人が今でもインターネット上でカルト的な支持を集めている。クルーズ受刑者も、いかに有名になりたいか、いかに多くの人を殺したいかと語っている動画があるという。「すべてのメディアに、彼が望むような名声を与えないように呼び掛けたい」


自宅に飾られた家族写真

 ▽「空っぽの寝室を通るたびに娘を思い出す」
 事件はモンタルトさんの生活を大きく変えた。モンタルトさんは、米大手航空会社のパイロットで、世界中を飛び回り、日本にもよく行ったという。だが事件後は以前のように働くことが困難になり、勤務時間を減らし、今は国内線の機長を務める。
 「毎日、空っぽの寝室を通るたび、食事のたび、娘を思い出す。陽気な子で、とても頼りになった。休日は特に、彼女の存在が恋しくなる」
 困難をなんとか乗り越えようと、モンタルトさん一家は、ジーナさんの名前を冠した基金を設立。優秀なガールスカウトに奨学金を支給している。
 「活動を通じて、私たちの心の中だけではなく、ほかの人たちの中にも娘が存在し続けることになる。娘の優しさや思いやりが広がってほしいと願っている」
 さらに、事件の被害者遺族らと共に「スタンド・ウィズ・パークランド」という組織も設立し、代表も務める。学校を安全な場所にすることを目指す会で、超党派でさまざまな活動をしている。


米フロリダ州の高校乱射事件の17人の犠牲者を追悼するため授業をボイコットし、集会を開いた高校生ら=2018年3月14日、ニューヨーク(共同)

 ▽「全員一致でなくても死刑が可能に」
 死刑制度についてどう思うか、モンタルトさんに尋ねた。
 「とても難しい質問だ。すべての事件で適用すべきではないだろう。公正な裁判が行われ、事実に基づいて凶悪な犯罪であると証明されていることが非常に重要だ」
 今回の裁判でクルーズ受刑者が死刑を免れたことは、米国社会に大きな衝撃を与えた。地元の雰囲気について、裁判を取材した現地メディアの記者がこんなエピソードを話してくれた。「非常にリベラルで、死刑制度に反対している友人ですら、クルーズ受刑者には死刑が適用されても仕方ないという雰囲気だった。17人もの命が奪われたのだから」


米ホワイトハウスで、フロリダ州の高校銃乱射事件に巻き込まれた生徒らと面会するトランプ大統領(右)=2018年2月21日(ロイター=共同)

 米調査団体「死刑情報センター」によると、この裁判の影響を受け、フロリダ州知事の呼び掛けにより、陪審員が全員一致の評決を下すことができない場合でも死刑判決を下すことを認める法案が、同州の上下両院に提出された。今年4月、陪審員12人のうち少なくとも8人が同意すれば、裁判官が死刑を宣告できる法案を州議会が可決した。この法案は今後、州裁判所や連邦裁判所で争われることになりそうだ。現在、陪審員が全員一致でない場合に死刑を認めているのはアラバマ州のみで、この州でも少なくとも12人中10人の陪審員の同意が必要だ。
 モンタルトさんはフロリダ州で進む法案に賛成の意向を示した。「私自身は普通の多数決で十分だと思っている。そうでなければ、3分の2以上の陪審員の意見が一致すればよいのではないか。法律は犯罪の抑止の役割を果たす必要もあるだろう。私たちは、生徒や先生を守る必要があるのだ」


トニー・モンタルトさん

 【取材後記】
 私は日本で数年間、死刑制度に関連する取材を続けていたが、核心に迫れないもどかしさをずっと抱えていた。私にとっての「核心」とは、死刑囚や、執行に携わったことのある刑務官、遺族らの声を聞くこと。アメリカは日本と比べると、こうした人々へのアクセスが比較的容易で、しかも実名でインタビューに応じてくれるケースが多いと聞いていた。一定の時間をかけて、死刑制度に関する証言を集めてみたいと考え、2022年夏から23年5月まで、フルブライト奨学金でカリフォルニア州立大学フラトン校に留学し、死刑制度を研究した。

 【前編はこちらから】https://www.47news.jp/9624581.html
「それでも犯人の死刑は望まない」銃乱射事件で最愛の家族を奪われ、生活が一変した女性の苦悩 遺族が語るアメリカの死刑制度(前編)

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