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「採用を強化したいが担当者がいない…」悩める中小企業を救う「地域の人事部」

47NEWS / 2023年7月20日 11時0分

NPO法人MEGURUが企画した人材への投資を重視する経営を学ぶセミナー=6月5日、長野県塩尻市

 採用難や早期離職による人手不足は多くの企業にとって重たい課題だ。中でも、専任の人事担当者がいない地方の中小企業の悩みは深い。経済産業省の調査によると、専任の担当者がいないケースは約4割に上り、経営者がその仕事を担わざるを得ないが、時間的な余裕やノウハウが乏しい。そんな悩める企業の救世主として注目されるのが、地域の中小企業の人事機能をまとめて代行する取り組み。名付けて「地域の人事部」だ。


 モデル地域となっている長野県塩尻市ではNPO法人のMEGURUが中心となり、採用支援から企業向け研修まで幅広く手がける。特定の技能を生かして複数の仕事を掛け持ちする「複業」人材を地元企業につなぐ活動では、これまでに約60社に110人をマッチングさせた。MEGURUの横山暁一代表(31)は「活躍できる企業があり、いきいきと働くことができる地域にしたい」と意気込んでいる。(共同通信=功刀弘己)

 ▽地元の求人情報をまとめて発信
 静岡県沼津市出身の横山さんは、名古屋市で人材サービス会社に勤務していた際、塩尻市がビジネスを通じた地域課題の解決に力を入れていることを知って興味を持った。妻が長野県出身だったこともあり、複業として2019年4月から塩尻商工会議所で「地域おこし協力隊」の活動を始めた。

 まず取り組んだのが地元の中小企業約30社に対するヒアリング調査。人事部がない企業が多く、経営者の約8割が人事に課題があると回答した。このうち実際に求人を出しているのは2~3割にとどまる結果だった。

 横山さんは「人事採用に向けた広報を強化しようにも、新たに広報担当の正社員やアルバイトを雇うわけにはいかない。民間に頼めば高額の請求がある。結局、社長が1人で抱え込んで、動けないことが多かったのではないか」と話す。

 そこで、複業人材と地元企業のマッチングに取り組んだ。企業から課題を聞き取って整理し、インターネットサイトに求人情報を掲載。首都圏のフリーランスや特定の技能を持つ人材に発信した。申し込みがあれば、オンラインでの交流や採用面談なども支援した。


NPO法人MEGURUの横山暁一代表=6月5日、長野県塩尻市

 ▽業務管理が「古文書」からアプリに進化
 約15人の職人がエレキギターの塗装を手がける三泰には地元のコンサルタントを紹介した。三泰は1920年創業で漆器製造から始まった老舗企業。4代目の古畑裕也社長(42)は「古文書のような手書きの紙で業務を管理しており、(表計算ソフトの)エクセルを使えるようになれたら」とデジタル化を検討していた。


三泰が手がけるエレキギター=2022年9月29日、長野県塩尻市

 商工会で知り合った横山さんの薦めで、隣の松本市に住むコンサルタントの石村雅宏さんとのマッチングが成立した。2022年6月から、システムエンジニアの経験もある石村さんから月2、3回指導を受けた。まずはエクセルの使い方を教わり、業務管理は紙からアプリへ進化。価格情報の比較などがしやすくなり、作業は明らかに減った。

 古畑さんは、横山さんについて「複業人材の確保をインターネットの中の話題ではなく、現実にしてくれた。今も困ったことがあれば相談しており、うちの人事を買って出てくれている」と話す。


三泰の古畑裕也社長=2022年9月29日、長野県塩尻市

 ▽活動継続のためNPO法人設立
 成果が出る一方で課題も見えてきた。支援活動をいかに持続可能にするかという点だ。複業人材のマッチングでは行政の補助金を活用しており、横山さんは「行政の予算がなくなったり、私がいなくなったりしても活動を続けられるかどうかを考えた」と振り返る。

 活動継続のためには一定の対価を得る必要があるが、行政や商工会側の立場では報酬を得にくい。外部に組織をつくる必要があると考え、2020年11月にNPO法人のMEGURUを設立した。

 MEGURUは地元企業と個人の両面に向けて活動する。企業には人材への投資を重視する経営について学ぶ勉強会などを開き、個人に対しては企業が求める人材に育てるワークショップなどを開催している。

 ▽行政、地銀、大学と連携
 行政、金融機関、教育の各分野との連携を強化するため、MEGURUは2022年7月に協議会を立ち上げた。塩尻市や商工会、振興公社、八十二銀行、長野銀行、松本信用金庫、長野県信用組合、信州大、松本大が参加する。

 横山さんは「地域に魅力的な企業がなければ学生は出て行くし、この地域で暮らしたいと思うようにならなければ人は離れる。行政、企業、大学が全部そろわないと、どこかだけが頑張ってもだめ。それぞれの領域で連携し、みんなで地域の人事部をつくっていこうと進めている」と話す。


塩尻市役所=長野県塩尻市

 塩尻市産業振興事業部の古畑久哉部長(54)は「協議会で中小企業の課題を把握し、解決に向けてそれぞれの役割を分担するのか、一緒にやるのかを行政としてコーディネートしていきたい」と意気込む。協議会設立後、大学のインターンシップ事業に参加する企業集めに金融機関が協力するなど連携が生まれ始めている。

 進学を契機に首都圏や中京圏に出る若者が多い塩尻市。産業振興事業部長の古畑さんは「塩尻に戻りたいと思ってもらい、選ばれる地域になりたい。そのためには経営者や社員が成長し、元気な企業が増える必要がある。MEGURUにはそのきっかけづくりを期待している」と話す。

 ▽大阪・八尾は「こうばの人事部」設立
 「地域の人事部」の取り組みは全国各地に広がっており、経産省は2022年度に20の団体を支援し、23年度は支援先をさらに12増やした。

 小規模のものづくり企業が多い大阪府八尾市では、製造業に特化した「こうばの人事部」という活動が進む。人手不足に悩む企業が多く、そのうちの1社で金属加工のタカヨシジャパンが2022年から運営する。仲間意識がある地元企業のつながりを生かし、学生向けの合同事業説明会や交流イベントを開くほか、インターンシップを希望する学生を企業に紹介している。

 タカヨシジャパンの高島小百合社長(47)は「ここで働く仲間が増え、八尾をものづくりの町としてブランド化できるよう盛り上げていけたら」と話している。


「こうばの人事部」が開いたワークショップで、学生に技術を説明する大阪府八尾市の企業=4月27日、大阪府東大阪市

 ▽企業の枠を超えて「同期」をつくる
 宮城県石巻市と東松島市、女川町で活動するのが「石巻人事部」だ。東日本大震災を契機に、震災復興の町づくりに取り組んできた斉藤誠太郎代表(38)が2019年に設立した。地元企業に就職したものの離職する若者が多かったため、高校生らへのキャリア教育に力を入れる。新卒で就職しても年齢が近い社員がいないことが多く、各社から25歳以下を集めて地域の中で同期をつくる研修を開く。参加者のコミュニケーション能力や仕事への意欲が高まり、企業側からも好評という。

 今後は採用支援にも活動を広げる計画だ。斉藤さんは「企業都合のための活動にならないようにしており、若者の成長や幸せにコミットしていきたい」と話す。

 こうした全国各地の団体同士をつなぐ取り組みも始まっている。2022年設立の地域人事部アライアンスネットワークには12の団体が加盟し、互いの活動内容を共有したり、勉強会を開いたりしている。発起人の山本一輝さん(36)は「地方創生に取り組む民間企業や自治体からの問い合わせが増えており、地域の人事部の活動はさらに広がっていく」と話す。

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