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「少年たちの証言が嘘とは言いがたい」ジャニー喜多川氏が、性加害について20年前の法廷で語っていたこと ジャニーズ事務所の「知らなかった」は、もはや通じない

47NEWS / 2023年7月31日 10時30分

2019年7月、ジャニー喜多川氏の死去を伝えた街頭テレビ=東京・有楽町

 ジャニーズ事務所元所属タレントからの告発が相次いだ、ジャニー喜多川前社長による性加害。事務所の藤島ジュリー景子社長は謝罪しつつも、喜多川氏が既に死去していることから「当事者であるジャニー喜多川に確認できない」と事実認定を避けている。ただ、所属タレントたちへのセクハラは、約20年前の民事裁判ではっきり認定されている。その法廷にはジャニー喜多川氏も立っていた。スターの原石を発掘し、男性アイドルの歴史を築いた男は何を語っていたのか。約20年前の裁判を資料や証言で振り返る。(共同通信=加藤駿、前山千尋、森原龍介)

【※この問題は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索いただくか、以下のリンクからお聞きください。「ジャニーズ性加害問題、メディアはどう報じてきたか」】https://omny.fm/shows/news-2/33


 ▽「これで勝ったと思った」
 週刊文春は1999年10月から、「芸能界のモンスター」というセンセーショナルな見出しで、ジャニー喜多川氏による事務所所属の少年らへのセクハラを報じた。ジャニーズ事務所側は「記事は名誉毀損(きそん)に当たる」として、発行元の文芸春秋を提訴した。
 訴訟では2001年7月、証人尋問が非公開で実施されている。
 まず、被害を訴えた少年2人が弁護士の質問に答える形で証言した。
 「初めてセクハラを受けたのは中学3年の冬ごろ」
 「中学2年の秋ごろからレッスンを受け(喜多川氏の)自宅で何回かセクハラを受けた」
 喜多川氏はこの証言を、法廷内に設置されたついたて越しに聞いた。
 続いて尋問された喜多川氏は、ジャニーズJr.の少年を「合宿所」と呼ばれた自宅マンションに宿泊させたり、マッサージしたりすることはあったと話した。
一方で、わいせつ行為は「一切ございません」。
 ここで、文芸春秋側代理人の喜田村洋一弁護士はこう言って何度もただした。
 「2人がうそをついているのですか」
 これに対し、喜多川氏は反論や非難を積極的にはせず、やがてこう吐露した。
 「彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」
 後に喜田村弁護士はこの場面を「これで勝ったと思った」と振り返った。


死去したジャニー喜多川氏のお別れの会に参列するため、東京ドームを訪れた大勢のファン=2019年9月4日、東京都文京区

 ▽逆転勝訴の鍵になったのは…
 それでも、2002年の一審東京地裁判決は「少年らの証言の信用性を認め難い」と判断し、文芸春秋側に賠償を命令。ジャニーズ事務所が勝った。この判決について喜田村弁護士は「木を見て森を見ずではなく、葉っぱを見て森を見ない判決だった」と語る。
 ところが、2003年の二審東京高裁判決は判断を一転させた。鍵になったのはジャニー喜多川氏が吐露した言葉だ。高裁はその上で、「(少年が)虚構の事実を述べたものとすれば到底考えられない」と指摘。少年らの証言内容がおおむね一致しており、具体的で信用できると判断した。
 2004年の最高裁決定も、この高裁の判断を是認。こうして、喜多川氏のセクハラを告発した記事の真実性が認定された判決が確定した。ただ、当時は世間の関心を呼ぶことなく、表面上は静かに時が過ぎていった。


東京都港区のジャニーズ事務所

 ▽「厳重注意」にとどめたジャニーズ事務所
 確定判決によって、ジャニー喜多川氏による少年たちへの性加害は認定された。常識的に考えれば、企業である事務所側はこの段階で喜多川氏の辞任など、相応の処置を取るはずだ。しかし、その後も喜多川氏は2019年に死去するまで社長を務める。
 ジャニーズ事務所はその理由について、判決確定後も喜多川氏がセクハラを否定したため「誤解されるようなことはしないように」と厳重注意をするにとどめたと説明している。
 元ジャニーズJr.の自営業中村一也さん(36)は、この事務所の対応を疑問視する。「なぜ(喜多川氏が)完全に野放し状態だったのか」
 中村さんも2002年10月のコンサート出演後、喜多川氏の自宅に宿泊し、被害を受けたと証言している。裁判の継続中に被害を受けたことになる。
 今年、記者会見して被害を公表した歌手のカウアン・オカモトさん(27)は10~15回ほど被害を受けたと証言。時期は2012~16年だ。


ジャニー喜多川氏のセクハラ行為を認定した裁判を振り返る喜田村洋一弁護士=6月14日、東京都千代田区の日本記者クラブ

 ▽「いくら何でも心を入れ替えたと思っていた」
 訴訟で文芸春秋側の代理人を務めた喜田村弁護士は、確定判決後も被害が長期に及んでいたことを元少年からの相次ぐ告発で知った。今年6月、日本記者クラブで記者会見した際には、驚いた様子でこう語った。「(喜多川氏は)いくら何でも心を入れ替えたと思っていた。被害はその後も平然と続いていたわけです。2019年7月にジャニーさんは亡くなったが、実際に(加害行為が)いつまでだったかは分からない」
 会見の中で喜田村弁護士が問題視したのは、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長の対応だ。
 これまで藤島社長は、おじである喜多川氏の性加害について「知りませんでした」と説明している。ただ、藤島社長は確定判決当時、既に取締役だった。喜田村弁護士は、取締役会を構成する者とし、代表取締役だった喜多川氏がしたことを認定し、繰り返さないようにしておくべきで、再発防止策を怠ったことが被害を拡大させたと考えている。
 「あるべきことと、いかに外れたことが起こったか。被害者救済など、会社としてやるべきことがある」
 私たちは、ジャニーズ事務所の顧問弁護士を務める矢田次男弁護士にも取材し、話を聞いた。
 矢田氏は、確定判決を「不当」と考えてきた。ジャニー喜多川氏についてはこう評する「本当に優しく、子どもを『うそつき』として人格的に非難したくない人」。喜多川氏の法廷での発言(少年たちはうその証言をしたと言い難い)も、優しさから出たと捉えている。
 それだけに、告発が相次ぐ現状について、矢田氏は「何でこうなったのか。なぜなのかと…」と戸惑いを隠さなかった。「一般論」と断った上でこうも語った。「(性加害の)事実があれば、傷ついた人をどう助けるか。考えないといけない」


インタビューに応じる元ジャニーズJr.の平本淳也さん

 ▽「長い間、孤独に闘い続け、やっと世界が動いた」と元ジャニーズJr.
 ジャニー喜多川氏による性加害は、実は1960年代から何度も指摘されてきた。
 最初は1965~67年、一部週刊誌が「初代ジャニーズ」メンバーも所属した芸能学校での、ジャニー喜多川氏から少年へのわいせつ行為を報道している。
 1988年には、フォーリーブスのメンバーだった北公次さんが、著書で喜多川氏からの性行為強要に言及。1996年には、平本淳也さんが著書「ジャニーズのすべて」で喜多川氏による性加害を告発した。
 平本さんは、ジャニーズ事務所が今も、性加害を「知らなかった」としていることに憤る。「知らないと言えばそれで済んできた。とがめることなく受け入れてきたのが日本社会だ」
 ジャニーズJr.になったのは1980年代。タレントらが寝起きする「合宿所」に出入りした。著書には、喜多川氏に体をまさぐられ、それ以上の接触から逃げ回った自身の体験や、目の当たりにした仲間の被害も盛り込んでいる。
 執筆したのはこんな思いからだ。「なりふり構わず書かないと、誰も興味を示してくれない。事務所が『知らない』と言えないものを書こう」
 ただ、出版当時はおどろおどろしさの漂う「暴露本」と呼ばれることもあった。1999年になって週刊文春のキャンペーン報道が始まっても、国内の大手メディアは続かず、「黙殺」されたまま時だけが過ぎた。
 ところが今年、英BBC放送が喜多川氏による性加害を告発する番組を放送したところ、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん(27)ら若い世代が相次いで告発した。
 性被害を巡る日本社会の認識は一変し、男性の被害も深刻に受け止められるようになってきたと感じる。
 「長い間、孤独に闘い続けてきた」という平本さんはしみじみと語った。「時間はかかったが、やっと世界が動いた。『暴露本』がいつの間にか『告発本』になった」


児童虐待防止法改正を求める署名を与野党に提出後、取材に応じた元ジャニーズJr.の(左から)カウアン・オカモトさん、橋田康さん、二本樹顕理さん=6月5日、国会

 ▽2001年7月に行われた尋問でのジャニー喜多川氏の主な発言は、次の通り。
 【わいせつ行為】
 そういうのは一切ございません。(間違われる行為も)ないと自分では確信を持っています。年下の者に、嫌がるようなことは、一切やった覚えはありません。
 【少年がセクハラを証言する理由】
 (事務所所属当時の)自分の友達が世に出てきて、すごい寂しい思いをしている。自分に注目を浴びるための何かだった気がする。
 【証言はうそか】
 彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです。彼たちは本当に誠心誠意、僕のことを考えていろいろ今まできている。僕も彼たちのことをずっと考えてきてます。
 【少年との関係】
 お父さん、お母さんが持っている愛情のつもりでいます。セックス的な愛情はあり得ない。ただ、悲しいことに血族関係はない。血のつながりのないというほどわびしいものはない。寂しかったのは僕自身だったかも分かりません。

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