不滅の大記録を破ったNBAのレブロン・ジェームズ、「選手以上の存在」としてコート外でも活躍
47NEWS / 2023年7月27日 16時30分
米プロバスケットボールNBAの2022~23年シーズンは、不滅の大記録が破られた、歴史の節目として記憶されるかもしれない。レーカーズの大スター、レブロン・ジェームズが38歳でカリーム・アブドゥルジャバーの持っていた通算3万8387点の最多得点を更新。「これを目標にしていなかったから夢みたい。不思議な感覚」と率直に口にした。18歳でのドラフト全体1位指名から20年。輝かしい記録だけでなく、「MORE THAN AN ATHLETE(選手以上の存在)」としてコートの外でも強い存在感を放ってきた。(共同通信=木村督士)
▽ジョーダンに憧れて付けた「23番」
ジェームズはオハイオ州アクロン出身。後にライバルとなるウォリアーズのステフィン・カリーと同じ病院で生まれたが、元NBA選手を父に持つカリーに対し、シングルマザーの母グロリアさんに育てられるなど、境遇は対照的だった。
自身が共著者に名を連ねた著作「シューティング・スターズ」では、地元のアメリカンフットボールチームのコーチだったフランクさんとパムさんのウォーカー夫妻がジェームズ親子の苦境を見かね、一時的に世話を引き受けた経緯が描かれている。ジェームズを9歳ごろ、バスケットボールに誘ったのもフランクさん。初めて最優秀選手(MVP)に輝いた2009年の授賞式で、ウォーカー家に「あなたたちがいなければ、今の自分はいない」と感謝したのは大げさではない。
キャバリアーズからNBAドラフトの全体1位指名を受けたジェームズ(右)=2003年6月26日、ニューヨーク(NBAE・ゲッティ=共同)
2002年に17歳で「選ばれし者」として米誌「スポーツ・イラストレーテッド」の表紙を飾った。高校時代からマイケル・ジョーダンに憧れて「神様」と同じ23番をつけ、プロ入り後も6番を選んだ時期を除き自身の番号とした。
2003年に地元アクロンと同じオハイオ州のクリーブランドが本拠地のキャバリアーズに入団。高校卒業後に直接プロ入りした選手としては破格の注目を浴び、AP通信はデビュー戦の活躍を「かつて10代がこのレベルで披露したことのない技術で魅了」と評した。
▽「裏切り」から一転英雄に
初優勝までは長かった。最初に所属したキャバリアーズでは2007年にNBA決勝まで進んだが頂点には立てなかった。2010年オフには「ディシジョン」と題したテレビ番組でヒート移籍を発表。優勝できずに球団を去ることに加え、ドウェイン・ウェード、クリス・ボッシュとスター選手主導で「スーパーチーム」を形成する先例となったことも批判を呼んだ。
しかし2012年にヒートで悲願の初優勝を果たすと、2013年に2連覇達成。キャバリアーズに復帰した2016年はライバルのカリーがけん引するウォリアーズを相手に史上初めて1勝3敗からの逆転勝ちを収めた。球団史上初、クリーブランドにとっても米主要プロスポーツで52年ぶりとなる優勝を届け「クリーブランド、この優勝はあなたたちのものだ」と叫んで喝采を浴びた。かつてチームを離れた際に球団オーナーから「臆病な裏切り行為」と非難されたが、一転して英雄となった。2018年に加入したレーカーズでは新型コロナウイルス禍でバブル開催となった2020年の決勝を制した。これまでに在籍した球団を全て優勝に導いている。
NBA決勝のサンダー戦で攻め込むヒートのジェームズ=2012年6月21日、マイアミ(NBAE・ゲッティ=共同)
▽歓喜の瞬間
飽くなき向上心を原動力に成長し、結果につなげてきた。2008年2月に23歳の史上最年少で通算1万点に到達。2万点の節目も2013年1月に最年少の28歳で突破した。3万点を超えたのは33歳だった2018年1月で、やはり最年少記録だった。
歴代では2019年3月にジョーダンを抜いて4位、2020年1月にはコービー・ブライアントを抜き3位に。「アンタッチャブル」とも称されたカリーム・アブドゥルジャバーの記録を上回ることが、現実味を帯びてきた。
通算最多得点記録の保持者となったレーカーズのジェームズ(左)を祝福するアブドゥルジャバーさん=2月7日、ロサンゼルス(NBAE・ゲッティ=共同)
歓喜の瞬間は今年2月7日、本拠地ロサンゼルスでのサンダー戦で訪れた。第3クオーター残り約11秒、後方にジャンプしながら放つシュートを鮮やかに決めて記録を更新。両手を上げて大歓声を浴びた。試合を中断してコート上で行われたセレモニーでは1984年以来、記録保持者であり続けたアブドゥルジャバーさんも姿を見せ、花を添えた。ジェームズは「伝説のカリームの前で身の引き締まる思い」と目頭を押さえた。バイデン米大統領も「神聖なる記録を抜いた」と称賛する大偉業を成し遂げた。
▽三者三様のプレースタイル
アブドゥルジャバー、ジョーダン、そしてジェームズ。いずれも史上屈指の名手だが、プレースタイルは三者三様だ。
NBA決勝のピストンズ戦でスカイフックを放つレーカーズのアブドゥルジャバー=1989年6月11日、イングルウッド(NBAE・ゲッティ=共同)
アブドゥルジャバーは1969年にデビュー。リングに対して体を横に向け、遠い側の腕でボールを放るフックシュートが最大の武器だった。しかも218センチの長身。リングとほぼ同じ高さから放たれるそのシュートは「スカイフック」と称され、一時代を築いた。
ジョーダンは抜群の運動能力を誇る。1986~87年シーズンに1試合平均37・1点を記録し、得点王に史上最多の10度輝くなど驚異的ペースで点を重ねた。NBA決勝6度出場で全て優勝と、勝負強さも神格化されている。
ジェームズは高い身体能力に頼りがちだったデビュー当初から、課題を克服しながら時代の変化にも適応。ここ数シーズンは3点シュートを多投するようになっている。
1試合平均でこれまで最も低かったのは1季目の20・9得点で、2季目以降は1度も25点を下回ったことがない。38歳となった20シーズン目の昨季も28・9点。アブドゥルジャバーの現役最終年だった20季目が10・1点だったのとは対照的だ。
NBA決勝のジャズ戦でシュートを放つブルズのジョーダン(右)=1998年6月14日、ソルトレークシティー(NBAE・ゲッティ=共同)
▽史上最高の選手は誰か
ただ、誰がNBA史上最高の選手か、という論争は決着しそうにない。ジェームズ自身も「ずっと続くだろう」と断った上で「自分は自分より誰かを上に選ぶことはしない」と自負を口にする。
ジェームズとの比較について、ジョーダンさんは「プレーした時代が違う。それぞれの時代を比べたくなるのも分かる」と理解を示しつつ「比較する人がいても、そういうものだなと思うだけ。自分は話半分に受け止める」と2020年に語った。
▽「黙ってドリブルしない」
NBA決勝でウォリアーズを破って優勝し、喜ぶキャバリアーズのジェームズ=2016年6月19日、オークランド(NBAE・ゲッティ=共同)
活躍がコート内にとどまらないという点で、ジェームズとアブドゥルジャバーさんには共通点がある。NBAは社会正義に貢献した選手を表彰する賞にアブドゥルジャバーさんの名前を冠する。17歳でマーチン・ルーサー・キング牧師に会って影響を受け、ボクシングの名王者ムハマド・アリのベトナム戦争への徴兵拒否を支持するなど、公民権運動の時代から社会問題に声を上げてきた。
ジェームズも地元アクロンに、道から外れる可能性がある子どもたちを対象とした学校を創設するなど、コート外の活動に熱心に取り組む。2018年にはトランプ大統領(当時)批判で保守系のニュースキャスターから「黙ってドリブルしてろ」と言われたことを受け「黙ってドリブルなんかしない」と返した。黒人差別に反対する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」で存在感を示した女子テニスの大坂なおみが、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で引用するなど、大きな影響を与えた。
▽新シーズンへ
自らの信条「MORE THAN AN ATHLETE(選手以上の存在)」を体現してきたジェームズの昨季は、西カンファレンス決勝でナゲッツに屈して終わった。有望株と期待される長男ブロニーの南カリフォルニア大進学が決まり、NBAでの共演も視界に入ってきた。
新シーズンの去就に「考えることが多くある」と多くを語らなかったことから米メディアは引退も検討と報じたが、7月12日にスポーツ専門局ESPN主催の表彰式で「コートに全てを注げなくなった日が引退する日。皆さんにとって幸運なことに、それは今日じゃない」とスピーチして拍手を浴びた。史上初の4万点も視界に入る中、第一人者が新たな一歩を踏み出す。
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