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旧統一教会が「改革」を強調する裏で飛び出した韓鶴子総裁の「日本賠償」発言 内部からも疑問の声 本当に変われるのか?

47NEWS / 2023年7月26日 10時30分

旧統一教会の韓鶴子総裁(ゲッティ=共同)

 歴代最長政権を担った政界の大物が殺害された安倍晋三元首相銃撃事件は、政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の深い関係に目が向けられるきっかけになった。教団の高額献金問題などが噴出し、半世紀に及ぶ蜜月ぶりが明らかになった自民党は関係断絶を宣言。信者の親を持つ宗教2世は、自らの置かれてきた苦しい境遇について切実な声を上げ、悪質な寄付や勧誘を規制する新法が制定された。教団側は改革を進めていると強調するが、その裏で韓鶴子総裁が最近になって「日本は賠償しなければならない」と発言していたことが明らかに。教団は変わるのか。政治は本当に教団とのつながりを絶てるのだろうか。今後を展望すべく、この1年の動きを振り返った。(共同通信=帯向琢磨、濱田直毅、深江友樹)


旧統一教会の本部

 ▽逆風の統一選
 「統一教会!」。選挙区内を車で回って遊説していると、住宅の戸が開けられ、いきなり罵声を浴びせられた。今春の統一地方選で7選目を果たした自民党の三石文隆・高知県議(69)の話だ。教団が2017年に高知市で開いた「オープン礼拝」に参加したことなどが報じられ、前回より400票以上減らす苦戦を強いられたという。
 三石氏は「問題ある団体だという認識に乏しかった。自民党といえば支援組織がしっかりしているイメージを持たれがちだが、そうではない。呼ばれれば、どんな小さい会合でも顔を出していた」と打ち明ける。
 教団との接点を皮肉り、後援会の申し込み用はがきに「統一教会文隆」と書かれて送られてきたこともあった。逆風となった選挙戦について「接点があったことで評判を落とし、しんどかった」と振り返る。


旧統一教会の関連団体「天宙平和連合」のイベントに寄せられた、安倍元首相のビデオメッセージ(公式サイトより)

 ▽持ちつ持たれつ


 銃撃事件で逮捕・起訴された山上徹也被告(42)は、逮捕直後から母親による多額の寄付で家庭が崩壊したと教団への恨みを供述していた。こうした動機に基づく復讐の矛先を元首相に向けたとみられている。事件を機に、その元首相が教団の関連団体にビデオメッセージを送っていたことも広く知られることとなった。そうなると自民党議員と教団の接点も次々に取り沙汰されるように。接点が明らかになった議員は釈明や謝罪に追い込まれ、岸田文雄首相は教団との関係を断絶すると宣言するに至った。
 教団と自民党とのつながりは1968年にまでさかのぼる。安倍元首相の祖父・岸信介元首相が、対共産主義を掲げてつくられた教団の関連団体「国際勝共連合」に賛同したことが始まりとされる。保守政策へのコミットを目指す教団側と、数万ともいわれる教団票を求める政治家側。利害は一致し、持ちつ持たれつの関係となっていったとみられる。
 自民党は昨秋、所属国会議員180人が祝電の送付や会合の出席、選挙協力などのつながりがあったとする調査結果を公表した。また、共同通信が昨年11月に実施したアンケートでは、都道府県議、知事、政令指定都市市長334人が接点を認め、自民党が8割を超えた。中央政界にとどまらない教団の浸透具合が浮き彫りとなっていった。


旧統一教会の献金確認書と受領証

 ▽安倍氏を「敬愛し、信頼していた」
 「政治参加は国民の権利で、考え方が同じ政治家を応援するのは当然のこと。(自民議員が)関係を取り沙汰されて謝罪しているのはとても悲しいことだった」。教団の勅使河原秀行・教会改革推進本部長は事件から1年になるのを前に取材に応じ、こう話した。元首相のことは「共産主義に、はっきりノーと言った代表的な政治家。敬愛し、信頼していた」としのんだ。
 こうした両者の関係をかねて警戒していたのが、1987年に設立され、教団による被害に長年向き合ってきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)だった。「安倍元首相にも他の政治家にも、教団にエールを送るような行為はやめていただきたいと繰り返しお願いしてきた」。弁連の山口広弁護士は、銃撃事件の4日後に開いた記者会見でこう強調した。
 山口氏はその後の取材で「教団の問題がこんな形で噴出するのは不幸な出来事だった」と事件への無念を語った。今も新たな被害の掘り起こしに努めている。弁連が中心となってつくられた「全国統一教会被害対策弁護団」には全国各地から相談が寄せられている。今年2月以降、元信者や家族ら31都道府県の計109人分に関し、献金や物品購入などの財産的被害と慰謝料を合わせた約35億円の賠償を求め、教団側に集団交渉を申し入れている。


支援団体「スノードロップ」を設立した夏野ななさん=23年6月、東京都内

 ▽「苦しみに気づける社会を」
 事件後は、こうした直接の被害者だけでなく、山上被告と同じような境遇の宗教2世から苦しみを訴える声が相次いだ。「親の愛を受けられなかった」「借金で家庭が崩壊した」「誰にも相談できなかった」。こうした声に押され、政治や行政が動き出した。
 昨年11月、文化庁は解散命令請求を視野に、宗教法人法に基づく質問権を行使して教団への調査を開始。12月には不当寄付勧誘防止法が成立した。「霊感」で不安につけ込む寄付の勧誘などを禁じ、本人や家族からの寄付の取り消しを認める条件を盛り込んだ。厚生労働省も、宗教虐待に対応するQ&A形式の文書を全国に通知した。
 当事者同士の連携も進み、宗教2世の支援団体が相次いで設立された。4月に「スノードロップ」を設立した「エホバの証人」3世の夏野ななさんは6月、東京都内の集会で「宗教の家庭に生まれ、人知れず苦しんできた。誰かに助けを求めることなんか考えもしなかった。この苦しみに気づける社会をつくりたい」と語った。


旧統一教会現役2世の小嶌希晶さん=23年6月、東京都渋谷区

 ▽「被害者」との見方に反発も
 一方、今も信仰を続ける教団の現役2世の中には、「2世=被害者」との見方に反発し、批判や差別に心を痛めてきたという人もいる。小嶌希晶さん(27)は親が熱心な信者で小さい頃は寂しい思いをしたこともあったという。ただ「教会や親の被害者ではない。一度しかない人生を、どのように生きようかと必死に考えて自分の意思で信仰を持つことを選んだ」と力を込める。
 自身が立ち上げた任意団体「信者の人権を守る二世の会」には「親が仕事を失った」「学校でいじめを受けた」との声が寄せられ、「教団を批判する報道を見たのを苦にして娘が自殺した」という母親からの申告もあったという。
 相次ぐ2世からの被害の訴えには「自分の周りにはそういう人はいないのに、大半がそうであるかのような報道に違和感があった」と反論し「自分たちの思いも同じように聞いてほしい」と話している。


教団改革を説明する旧統一教会の勅使河原秀行・教会改革推進本部長=2023年6月、東京都渋谷区

 ▽「改革浸透」と主張
 教団の現状はどうか。勅使河原氏によると、改革の一環として、10万円以上の献金を受ける際には、その原資が借金でないことなどを示す「献金確認書」の提出を求めている。記録として残しトラブルを防ぐためで、5月のデータでは、確認書の取得率は9割、それに対する受領証の発行も6割を超えたとしている。
 また、信者約3千人に行ったアンケートでは、「借金による献金禁止」は97%が、「先祖の因縁などをことさらに結び付けた献金奨励をしない」は98%が、「しっかりまたはある程度実施されていると感じる」と回答したという。
 勅使河原氏は「数字の上ではかなり周知されている」として、教団が進める改革が浸透していると主張。解散命令請求には徹底抗戦する構えを示す。さらに、高額献金の一因になっているとみられる年間数百億円にも上るとされる韓国への送金について、教団関係者は取材に「今後もとりやめる」と説明。事件後、「中断している」としていた姿勢からさらに踏み込んだように見えた。


衆院予算委で、旧統一教会を巡る問題の質問に答える岸田首相=2022年10月

 ▽総裁発言は内部でも疑問視
 そうした折、6月下旬に韓総裁が教団内部の集会で「日本は第2次世界大戦の戦犯国家で、罪を犯した国だ。賠償をしないといけない」「日本の政治は滅ぶしかないだろう」「政治家たちと岸田に教育を受けさせなさい」などと発言したことが明らかになった。日本で教団への批判が相次ぎ、政治家との接点が問題視されたことについても反発をあらわにしていたという。
 これに関し、共同通信が韓国への経済的な見返りをトップが正当化した発言だと報道すると、教団側は「『韓国への送金の正当化』は強引な解釈。韓国だけでなく世界を助けるべきだという趣旨で、報道は切り取り、すり替えだ」だと反論。「日本の政治は滅ぶしかないだろう」との発言は、信教の自由が侵害されていると韓総裁が「心を痛めて」おり、「政治家たちと岸田に教育を受けさせなさい」との言葉は、「宗教と政治の在り方を正す必要があると伝えなければならない。それが日本を生かす道だ」と強調したかったからだとした。ただ、教団内部でも「もっと献金せよという意味にしか聞こえない」などと総裁の発言を疑問視する声が出ているという。


インタビューに応じる鈴木エイトさん=23年6月、東京都港区

 ▽自浄作用期待できない
 長年、教団の問題を取材してきたジャーナリストの鈴木エイトさんは「教団によるロビー活動はどういうものだったのか、なぜ政治家とつながり続けたのか。接点の有無だけでなく、その経緯と濃淡を本来なら国会が外部の専門家も招いて調べるべきだった」とこの1年の対応を振り返る。
 「政治家への追及や、不当寄付勧誘防止法の実効性の確保などは不十分で、まだ『何も始まっていない』気がする。本来はこれからが重要なのに、一段落ついてしまったような空気になっている」とも指摘し、「違法行為をしてきた団体が宗教法人として税金の優遇などを受けているのはおかしい。教団に自浄作用は期待できない。外部から規制をかけるしかない」と強調した。

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