スラムダンク井上雄彦さん、沖縄W杯で「驚かせて」 NBA渡辺雄太選手と語る日本バスケの現在地
47NEWS / 2023年7月30日 10時0分
バスケットボール男子のワールドカップ(W杯)が8月25日から日本、フィリピン、インドネシアの3カ国で共催される。日本では沖縄アリーナが会場となる大会を前に、人気バスケットボール漫画「スラムダンク」の作者、井上雄彦さんと、日本代表の中心選手として期待される渡辺雄太選手(28)=サンズ=が対談。渡辺選手が経験してきた世界最高峰リーグNBAでの厳しい競争や、新時代を迎えた日本バスケ、そしてスラムダンクについて語り合った。(共同通信運動部)
対談する井上雄彦さん(右)と渡辺雄太選手=7月14日
―渡辺選手は昨季ネッツでレギュラーシーズン58試合に出場。1試合平均16・0分出場、5・6得点、3点シュート成功率44・4%はいずれも5季目で自己最高でした。3点シュートや守備で力を発揮し、同僚だったケビン・デュラントやカイリー・アービングといったスーパースターの信頼も得ました。
渡辺 間違いなく僕にとって分岐点になるシーズンでした。シーズン前はなかなか契約がもらえなくて、(NBA下部の)Gリーグから、また一から始めようと思っていたぐらいでした。ネッツから無保証でまずキャンプに来てほしいと言われ、「これが本当に最後だ」という気持ちでシーズンに臨みました。そこで本当にうまくいきだしました。
大事な場面で試合に出られる時間は今までのシーズンはなかった。昨シーズンに初めて1点、2点を争う試合終盤に僕がコートに出て行って、実際に僕のシュートで勝った試合もありました。初めて戦力としてチームに認められたと感じました。
井上 今までも日本人がやっていないことをどんどん成し遂げてきましたが、今回のシーズンはすごかった。本当に力をもらいました。もうワクワクし通しだった。デュラントらスーパースターの信頼を勝ち取っているのも見ていて分かった。それもすごいことです。
一方で、シーズン途中にデュラントやアービングが他チームに移籍して、完全に違うチームになり、その後はベンチにいる時間が長くなった。あの時期はどうメンタルを保っていたのかを聞いてみたい。
渡辺 今回のシーズンは自分がやれているという感覚がすごくあったので、僕は意外と冷静にいられました。あれだけしっかり活躍もできて、結果も残せていた。トレードでメンバーが変わり、チームの方針上、出番が減るのは仕方がないという風に、完全に僕の中では割り切れていました。
井上 自分が駄目なわけではない、と。
渡辺 ラプターズに所属していた4季目も、ちょっとずつ試合に絡めるようになっていたのに、コロナにかかってパフォーマンスが落ちて、ベンチを温める時間が増えた。この時は本当にきつくて、自信もなくなりましたし「もうNBAじゃなくてもいいんじゃないか」と思ったりもしました。でも、昨シーズンは、またコートに出してもらえれば活躍できるという自信が正直ありました。
井上 苦しい時に、誰かに相談したりはしますか。
渡辺 あんまり僕は弱音をはかないんですけど、唯一それを言う相手が香川・尽誠学園高時代の同級生で、今は宮崎・延岡学園高で指導者をしている大親友です。
井上雄彦さんと対談する渡辺雄太選手=7月14日
―NBAの厳しい競争の中で生き残るには何が必要でしょうか。
渡辺 5年間、いろんな選手を見てきて、結局たどりつくのは一番単純なところで、努力しているか、していないか。毎年ドラフトで多くの選手が入ってくる中で、とんでもない能力を持つ選手も今までたくさん見てきましたが、たとえば「自分はコーチに好かれていない」とか「このチームが合ってない」とか言い訳ばかりを探している選手は1、2年でNBAを去って行く。やっぱり長く生き残れる選手ほど、言い訳をせず、その環境の中で、自分が何をできるのか、と答えを探している。
僕もあの世界では特に能力があるわけではない分、そういうところを突き詰めていかないといけない。だからこそ5年やれたと思うし、もうあと2年の契約をもらえた。ただ、そのスタンスは絶対に変えられない。もっとそこにフォーカスしないといけないと思っています。
井上 日本一の高校生だったのに、そこに甘んじなかったのはなぜですか。
渡辺 日本で一番だったことは、正直米国に行くと何のステータスにもならないので、そこに対する変なプライドはなかったです。僕は高校に入る時もいわゆる強豪校からのオファーはもらえませんでした。ずっとトップを走ってきたわけではなかったんです。
井上 (NBAで日本人選手が活躍する時代が到来し)非常に感慨があります。もう想像以上で、感情がついていかないです。日本バスケは想像のはるか上を行っている。渡辺選手、八村塁選手(レーカーズ)が同時にNBAの試合に出て、活躍している。それ以上何を言うのか、と。ひたすら応援する感じです。
―自国開催のW杯の開幕が迫っています。バスケ熱を高める機会になりそうです。
渡辺 日本は国際大会がファンと一体となってすごく盛り上がりますよね。ラグビーもそうですが、日本でスポーツが盛り上がるかどうかは国際大会で勝つかどうかが一番重要。バスケはいまいち、まだ熱がないのは、僕らが勝ててないのが一番の原因だと思っています。
今回は日本開催ということで、チャンスはめちゃくちゃある。ここで一気にバスケに火が付くのか、それともまたちょっと停滞してしまうのか。僕としてはそういう面での責任もあると思っています。
渡辺雄太選手と対談する井上雄彦さん=7月14日
―日本は世界ランキング36位。1次リーグで当たるのは11位のドイツ、24位のフィンランド、3位のオーストラリアといずれも格上です。
渡辺 高さとか強さでは絶対に勝てない。とにかく展開を速くして、3点シュートを高確率で決められるかどうかに懸かってくる。そこが高確率で決められれば、最後まで競った試合ができると思います。
井上 トム・ホーバス監督からW杯での具体的な目標は言われていますか。
渡辺 監督はアジア1位になって、パリ五輪出場権を獲得することを掲げています。
井上 それをかなえてほしいですね。(見る人を)驚かせてほしい。ホーバス監督のバスケットボールはすごく面白いし、ファンも増えるんじゃないかと。切り替えが速いし、3点シュートがバンバン入るのは見ていて気持ちがいい。選手のサイズにもあんまりこだわっていらっしゃらないようで、それが多くの日本人の共感を呼ぶ気もします。小さいチームが大きいチームを倒すというのは、子どもたちも共感しやすいんじゃないでしょうか。
―国内のバスケットボールを取り巻く環境の変化についてはどう感じていますか。
井上 Jリーグができてサッカーが変わったように、Bリーグができて、いろんな施策を適切に打っている。クラブに基準を満たしたアリーナの使用を義務付けるといった方針もすごく正しいと思います。バスケットボール界全体で考えた時に、渡辺選手や八村選手といったトップオブトップだけが突出していても、それは「特別な人たちだった」だけで終わってしまう可能性がある。Bリーグももちろん日本のトップ。それに憧れる子どもたちがどんどん増え、裾野が広くなれば、また頂上も高くなっていく。その両方がうまく動いている。そういう状況に今、バスケはあるなと思います。
渡辺 帰国してBリーグの千葉ジェッツの試合を見に行きましたが、めちゃくちゃ盛り上がっていますし、選手のレベルもすごく上がっていると思います。毎年成長し、魅力のあるリーグとして確立していっていると感じます。
―スラムダンクへの思いを。
渡辺 僕はもう大ファンで、昔は全選手、全セリフを覚えているぐらいに本当に何回も何回も読んだ。(昨年12月に公開された)映画もめちゃくちゃ面白かったです。細部にもすごくこだわっていて、本当にバスケットの試合を見ているみたいな感じでした。
井上 それはうれしいです。スポーツに打ち込んでいる人が見て、これは違うんじゃないか、つくりものだから、という風に見られるのではちょっと悔しい。バスケットをやっている人に、前のめりになって見てもらえるようなものを描きたかったので、NBA選手にそう言われて、ちょっとほっとしました。
―原作漫画についてはどんな思い出がありますか。
渡辺 最初は、まだ字がそんなに読めなかった時に、(セリフが少ない最終巻の)31巻から読み始めたんです。完全にその世界に入り込んでしまったという記憶はすごくありました。
井上 ありがたいです。描く側としては、試合が終盤に行くに連れて、読む人を引き込みたいという気持ちがあり、能動的に漫画の中に入ってほしかったんですよね。
渡辺 文字をもっと読めるようになってからも同じことで。文字がほとんどない中で止まって、じっと見て、と。字はないですけど、観客の声も含めて、この試合の音が聞こえるじゃないですか。本当に引き込まれる感じです。
井上 (連載から)30年たって、実を結んだ感じがしますね。
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