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もしもザポロジエ原発が爆発したら…最悪で「死者数万人、2百万人避難」 爆発物設置?高まる緊張

47NEWS / 2023年7月29日 10時0分

ロシア軍から攻撃を受けるウクライナ南部のザポロジエ原発=2022年3月(ウクライナ政府当局のフェイスブックより)

 欧州最大の原発で、ロシアが占拠するウクライナ南部のザポロジエ原発を巡る緊張が再び高まっている。ウクライナのゼレンスキー大統領が7月4日、複数の原子炉建屋の屋上に爆発物が置かれたとの情報があると表明。国際原子力機関(IAEA)も24日の声明で、原発周辺に対人地雷があるのを確認したと発表した。IAEAは建屋屋上の立ち入り調査を求めているがロシア当局は一部しか許可していない。一方、ロシア側は、ウクライナ軍が同原発奪還に向けた作戦を開始する準備を進めているとして、原発事故に備えた救助拠点を同州に設けることを明らかにした。原発があるザポロジエ州はウクライナの反転攻勢の主戦場となるだけに、今後は不測の事態も予想される。


 6基の原子炉を持ち、一時はウクライナの総電力の約2割を担う巨大原発で、実際に過酷事故や爆発が起きれば、どのような被害が想定されるのか。同国政府機関の報告や専門家の分析などから検証した。(共同通信=太田清)

 ▽チェルノブイリ事故の10倍

 ロシアとウクライナ両軍の戦闘が激化し、原発敷地内や周辺での着弾や攻撃などの報告が相次いだ2022年8月、ウクライナ北部チェルノブイリ原発事故後の立ち入り禁止区域設定や、その管理を担う同国政府機関「立ち入り禁止区域管理庁」が、ザポロジエ原発事故が起きた場合の被害想定を発表したが、内容は衝撃的なものだった。
 立ち入り禁止が予想される区域面積は、チェルノブイリ原発の約10倍となる3万平方キロ、放射能汚染地域は200万平方キロに上り、これはウクライナ全土の面積の3倍以上に上る。これに伴い避難を余儀なくされる人は200万人以上で、被ばくによる死者は数万人となる可能性がある。住民の避難や救助、事故対応に当たる要員は延べ100万人以上必要と想定される。


 ロシア、ベラルーシ、ウクライナを通り黒海に注ぐ大河、ドニエプル川は長期にわたって汚染され、事故時の風向きによって、ウクライナのほか、ロシア、ベラルーシ、欧州各国へ被害が及ぶ恐れがある。
 同管理庁を傘下に置くウクライナ環境保護・天然資源省顧問で、被害想定を発表したララ・タラパキナ氏は「被害予想は概算だが、規模はこのようなものになる」と強調した。
 同管理庁は、被害想定はチェルノブイリ原発事故被害を基に算定したとしている。具体的にはザポロジエ原発の6基の原子炉と使用済み核燃料貯蔵施設にある核燃料集合体の総数が、1986年に爆発・炎上したチェルノブイリ原発4号機の集合体数の9~10倍に当たることから、被害規模も10倍になると予想、報告を策定したようだ。
 ザポロジエ原発の原子炉6基と貯蔵施設全てで一斉にチェルノブイリ原発並みの事故、爆発が起きることは想定しづらいが、最悪のケースとして被害はここまで拡大することになるとみられる。


ザポロジエ原発=2019年7月(ゲッティ=共同)

 ▽40カ国、10億人に影響予想も

 一方、ザポロジエ原発を含むウクライナ全土の原発を運営する国営企業「エネルゴアトム」は22年8月28日、原子力規制検査庁の専門家の分析として、29日に予想される気象条件を基にしたザポロジエ原発事故時の放射能汚染地域を公表。
 汚染はザポロジエ州などウクライナ南部のみならず、ロシアの占領地である東部ドンバス地域、クリミア半島、ロシアの南西部まで達すると予測した。


ザポロジエ原発事故時の放射能汚染予想地域(エネルゴアトム提供)

 また、同庁のグリゴリー・プラチコフ元長官はウクライナ民放テレビ「1+1」に対し、最悪の場合、事故の影響は世界40カ国、10億人の住民に及ぶと言明。
 同テレビによると、ウクライナ気象庁が22年9月初めの気象条件を基に行った試算によると、事故後に発生する「放射能の雲」はウクライナ南部からクリミア半島、黒海を経て、トルコ、ギリシャ、ブルガリア、モルドバ、ルーマニアなど近隣諸国に達し、広範囲の地域を汚染する可能性がある。
 こうした予測は、欧州有数の穀倉地帯を有するウクライナや、多くの国が隣接する黒海が汚染されることによる被害には触れていないが、事故による経済的な損失も巨大なものとなることが予想される。


ザポロジエ原発周辺で戦闘により破壊された車両=2022年9月(ゲッティ=共同)

 ▽ロシア軍の破壊工作

 米ハーバード大ケネディ・スクール教授で、核エネルギー・核安全保障が専門のマシュー・バン氏は、「終末時計」計測で有名な米誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」(電子版、7月6日)に寄稿した。
 ザポロジエ原発で事故が起きた場合の被害の程度について、事故の発生様態や雨や風などの気象条件によって左右され、「誰も正確には予想できない」とする一方、同原発原子炉が強固なコンクリート製建屋で囲われ、大半の炉が冷温状態にあり、東京電力福島第1原発事故を教訓に事故防止のための複数の設備が導入されたことを考慮すると、砲弾が偶然着弾するなど、意図しない攻撃で原発が深刻な被害を受ける可能性は低いと指摘。


ザポロジエ原発事故を想定しウクライナ南部ザポロジエ州で6月29日に行われた避難訓練(ゲッティ=共同)

 しかし、もし同原発を占拠しているロシア軍が放射能汚染を起こすことを意図して、爆発物を使った破壊工作を行うなら、広大な領域が汚染されうると語った。
 原子力利用に関する調査、政策提言を行っている日本のNPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は事故想定について「使用済み燃料プールで火災などが発生すれば、大量の放射性物質が外部に拡散し、ルーマニアやモルドバ、トルコなど周辺国に汚染が広がる可能性はある」とする。


チェルノブイリ原発事故で破壊された原子炉=1986年5月(ゲッティ=共同)

 事故が起きればロシアも大きな被害を受けることから、故意に原発を破壊することは考えにくいとしながら、意図しない攻撃がエスカレートし、大きな事故につながる危険性は否定できないと語った。

    ×    ×    ×

 【ザポロジエ原発】ウクライナ南部ザポロジエ州エネルゴダールに位置する原発。IAEAなどによると加圧水型軽水炉が計6基あり、うち5基は旧ソ連時代の1984~89年に、残る1基はソ連崩壊後の95年に運転を開始した。出力はいずれも100万キロワット。
 ロシア軍は2022年3月4日に同原発を攻撃し占拠。同年9月には事故の危険から営業運転を停止した。IAEAによると今年7月7日現在、6基のうち5基は冷温停止しているが、1基は施設内の電力供給などのため極低出力で運転している。現在は、IAEAの専門家が常駐している。

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