あるイギリス人は言った「被爆者の話を聞いたら核廃絶運動をせざるを得ないね」被爆者と海外の架け橋目指す若者 「語り継ぐ―戦争を知らなくても」(2)
47NEWS / 2023年8月7日 10時0分
ウクライナに侵攻したロシアによる核の脅しや北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の核戦力増強、日本やポーランドなどで出ている「核共有」拡大論…。広島と長崎への原爆投下から78年がたち、核使用への懸念は米ソ冷戦時代以来、再び高まっている。核の悲惨さを最もよく知る被爆者の平均年齢は85歳を超え、記憶の風化が叫ばれて久しい。そうした中、戦争の歴史や被爆の実相を学び、非戦とや核兵器廃絶のメッセージを積極的に発信する若い世代もいる。平和の実現に向け何ができるのか―。被爆者と交流し、その思いと体験を海外にも伝えてきた女性に話を聞いた。(共同通信=野口英里子)
※この記事は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast #35【きくリポ】を各種ポッドキャストアプリで検索いただくか、以下のリンクからお聞きください
https://omny.fm/shows/news-2/8
▽「若者には社会を動かす力がある」高校生平和大使を務め、核廃絶の署名を集めた大内由紀子さん(19)
高校2年だった2021年7月から約1年間、核兵器廃絶を訴える署名を国連に届ける「高校生平和大使」を務めました。新型コロナウイルス禍のため国連を訪れることはできませんでしたが、毎月、学校などで署名を呼びかけました。平和大使の仲間と協力し、ロシアのウクライナ侵攻に反対する署名も約5千人分集め、日本の外務省に提出しました。
生まれ育ったのは原爆が投下された広島市から離れた広島県福山市ですが、小学生の頃から平和の問題に関心が強かったんです。きっかけは、小学4年生の時に初めて訪れた広島市の原爆資料館でした。放射線の影響で髪の毛が抜けた子どもの写真など悲惨な展示を見て「二度と同じことは起こってほしくない」と心に刻みました。
核廃絶を求める署名活動などに取り組む大内由紀子さん=2022年10月
高校生平和大使の存在を知ったのは中学2年の時。新聞記事を読み、国連を訪ねるというスケールの大きさに魅力を感じました。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんによる「学校ストライキ」を機に気候変動対策を求める運動が世界に広がったように、若者には社会を動かす力がある。その力を生かしたかったのです。
「念願の平和大使になれたのに、コロナのせいで海外にいけないまま任期が終わってしまうのかな」と諦めかけていた昨年6月、核兵器禁止条約第1回締約国会議の開催を控えたオーストリアのウィーンに行く機会を得ました。長崎のメンバー神浦はるさん(18)と2人で、会議に合わせて催されたいくつかの市民イベントに参加しました。あるイベントでは、約50人を前に英語で平和大使のモットー「微力だけど無力じゃない」を紹介し、一緒に行動しようと呼びかけました。
別のイベントでは、日本から渡航した被爆者との交流会がありました。参加した英国の男性が「被爆者の話を聞いたら核廃絶運動をせざるを得ないね」と語っていて、被爆者の声は人の心を動かす力があるのだと実感しました。
他方で、日本の反核運動の課題にも気付きました。ウィーンに集まった海外の活動家は若者ばかりで、年配者が多い日本の運動は「世界に遅れている」と感じました。
被爆国として核廃絶を訴えるのであれば、行動する若者を増やしたい。そう考え、今年4月、広島市立大への進学を機に、神浦さんら同年代の友人7人と「コネクト・ヒロシマ」という団体を結成しました。中高生に会いに行き、平和運動の魅力を伝えています。11~12月に米国で開催される核禁止条約の第2回締約国会議にも参加して、日本の若者の思いを届けたいです。
「今までのように、世界を回って証言活動するのは難しい」。ウィーン渡航前に面会した広島の被爆者、田中稔子さん(84)の言葉が心に残っています。彼女らに代わり、海外と被爆地との架け橋になることが私たちの役割です。
広島市内の塾で、高校生に講演する大内由紀子さん=7月、本人提供
約1年半前に父を病気で亡くし、命には終わりがあるのだと痛感しました。被爆者の願いを世界と次世代につなげ、被爆者が存命のうちに核廃絶が進んだ世界を実現させたい。そう考えています。
高校生平和大使 毎年、市民団体が全国の高校生から公募で20~30人を選び、核廃絶を求める署名を集めて国連に提出する。インドとパキスタンが核実験をした1998年、長崎の生徒2人が米国の国連本部を訪ねたのが始まり。任期は1年間。
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