「周囲の非平和を希望に変えよう」広島原点に核廃絶に取り組む平和学研究者のロニー・アレキサンダーさん 来日から46年でたどり着いた「平和への過程」【思いをつなぐ戦後78年】
47NEWS / 2023年8月12日 9時0分
米国で生まれた神戸大名誉教授のロニー・アレキサンダーさん(67)は、大学卒業後に来日し、5年間を広島で暮らした。ライフワークは「平和研究、平和運動、平和教育」。原点は、被爆者と日常的に交流し原爆について学んだ広島での経験だ。
「研究室で平和はつくれない」と東日本大震災の被災地や、海外の紛争地域も巡る。来日から46年間の歩みを振り返り、たどり着いた「平和を手にするまでの過程」について話を聞いた。(共同通信=小作真世)
▽派遣先が広島に決まり涙
カリフォルニアで生まれ、大学卒業後の1977年に日本に渡りました。「広島YMCA」で働くことになったものの、日本語は全然分からず、何より広島は米国が原爆を投下した街。派遣が決まったときは、「そんなところで友達はできない」と泣きました。
いざ赴任してみると、心配は杞憂でした。すぐに友達もでき、必死に勉強して日本語も身に付きました。通訳や外国人を案内する仕事は楽しく、2年の任期はあっという間に過ぎ、気付けば5年がたっていました。
広島に来た頃は、原爆のことをほとんど知りませんでした。教科書にきのこ雲は載っていましたが、その下で起きたことへの言及は全くなく、「戦争を終わらせた」とだけ。どうして日本人より米国人の命の方が大事なのか、疑問を持っていました。原爆資料館を何度も訪れ、被爆者の話を聞き、核兵器について学びました。
▽米国の核実験を知りショック
当時の広島は戦争の記憶が強く、周囲には被爆者の知人もたくさんいました。街で知らない人から原爆への怒りをぶつけられたことも覚えています。親しくなった被爆者の沼田鈴子さんは「ずっと米国が嫌いだったけど、恨みや憎しみは自分をむしばむ。その感情を捨てないと前に進めない」と話してくれました。
被爆者の沼田鈴子さん=2005年8月、広島市
米国がミクロネシアで行った核実験について知ったのもその頃です。勝手に人の土地を奪って被ばくさせ、許されないことばかり。大学まで出て、これっぽっちも教わらなかったこともショックでした。非核化の研究をするため東京の大学院に進み、神戸大に就職しました。
1995年に阪神大震災が起きました。ガスも電気もない真っ暗の中、習い始めたばかりのギターで「禁じられた遊び」を泣きながら弾き、恐怖に耐えました。慣れ親しんだ場所が一瞬にして失われる恐ろしさは忘れられません。一瞬でがれきと化し、昨日までと決定的に変わった街を見て「被爆者の話を聞いて分かったつもりだったけど、ちっとも分かっていなかった」と思い知りました。
▽被爆体験を現在の社会につなげ議論を
日本に来た頃は、若い人も年老いた人も「憲法を守り戦争をしない」と確信を持ち、平和を訴えていました。だけど今は軍拡が進められ、核兵器が必要と言う人すらいます。この世を去った被爆者たちは「あんなに頑張ったのにどうして」と悲しむでしょう。私たちは被爆体験を現在の社会につなげ、核廃絶に向けた議論を進めていかなければなりません。
日本では、広島と長崎に原爆が投下され、終戦を迎えた8月にだけ平和や戦争について考えればいいとされているように感じ、違和感があります。ですが、戦後78年がたつ中、限られた時だけでも考えるきっかけをつくらなければ、戦争体験は風化してしまいます。いかに関心を持ってもらうかが重要です。
ロシアとウクライナの戦争が続く中、5月には広島で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれました。反戦を訴える広島に集まりながら、G7は戦争の継続を後押しし、和平への手段を探ろうともしませんでした。パフォーマンスに終始したサミットに対し、市民もメディアももっと批判的な見方をするべきです。
▽平和を手にするには社会の一員が動くしかない
平和活動の一つとして、被災地や紛争地域での「希望づくり」に力を入れています。宮城県や岩手県、パレスチナなど国内外で、ワークショップを開いてきました。飼い猫「ポーポキ」を手がかりに、猫の視点で平和を考え、想像力を豊かにする取り組みです。
ワークショップでは、大きな布を広げ自由にそれぞれが考える「平和」や「安心」を表現してもらいます。一つ一つの絵や文字には物語があり、対話も生まれます。この「ポーポキ友情物語」は、東日本大震災の被災地を始め、世界各地で続いています。
戦争や災害から立ち上がり、安心や平和を手にするには、その社会の一員が動くしかありません。ですが、当事者でなくても、想像力を広げ連帯することはできます。私たちの周りにある「非平和」を一つ一つ変えて希望をつくることが、平和への過程かもしれません。
× ×
1956年米国生まれ。神戸大名誉教授。2006年に「ポーポキ・ピース・プロジェクト」を立ち上げた。
外部リンク
- 「広島を訪れ実相を見つめて」若い世代の当事者意識が核廃絶への道につながる 平和教育を受けた国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん【被爆78年の願い】
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