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飯田線は秘境駅の宝庫

47NEWS / 2023年8月11日 11時10分

小和田駅を後にする岡谷行き普通列車

 【汐留鉄道倶楽部】JRと私鉄が並行して走っている区間では、私鉄の方が駅間の距離が短いことが圧倒的に多い。全国の鉄道網たる国鉄と、地域輸送に力点を置く私鉄との違いによるのだろう。品川―横浜間は、JR(京浜東北線)は途中に7駅しかないが、京急は23駅。関西に目を向けても、JRの大阪―三ノ宮間は13駅、阪神の大阪梅田―神戸三宮間は30駅だ。

 だがJRにも駅数が多い路線があり、その代表とも言えるのが豊橋(愛知県豊橋市)と辰野(長野県辰野町)を結ぶ飯田線。駅の数は92(両端を除く)。時刻表の巻頭にある地図を見ても、駅を示す○が数珠のようにつながっている。というのもこの飯田線、もともとは豊川鉄道、鳳来寺鉄道、三信鉄道、伊那電気鉄道という4社の路線が戦時中の1943年に国有化された「元私鉄」組なのだ。

 飯田線は、豊橋からいったん北西に進み、東海道線や名鉄に別れを告げると北東に向きを変え、愛知、静岡県境を越えてから天竜川沿いに北上するのだが、天竜川に出合った辺りでまっすぐ進んだらいいような約10キロを「コ」の字のように迂回(うかい)する。ご存じの方も多いと思うが、佐久間ダムの建設に伴い、55年に線路が大幅に付け替えられた痕跡だ。


これぞ秘境駅という小和田駅正面

 山々に囲まれた伊那谷を急峻(きゅうしゅん)な斜面に沿って、右へ左へと曲がりながらぐんぐん分け入っていき、一つ一つの駅に丁寧に止まっていくのだが、周囲に人家がほとんどない「秘境駅」も多い。私鉄らしくこまめに駅を置いたがゆえに、使われなくなってしまった駅も多いというわけだ。

 今回、その秘境駅の一つ、小和田(こわだ)駅を訪れた。愛知、静岡、長野の各県が接する辺りだが、所在地は「浜松市天竜区」。静岡県は静岡、浜松の両政令指定市が山間地まで市域を広げているので油断ならない。

 豊橋から約2時間半。トンネルとトンネルに挟まれた無人駅で降りたのは私を含め3人。あとの2人も同好の士のようだった。風情のある木造の小さな駅舎を出て坂を下りると「崩壊の恐れ 立ち入り禁止」と紙が張られた家屋も。天竜川のそばまで降りてみたが、人の気配はまったくない。到着から20分余り、豊橋行きの列車を待った。「ちゃんと来てくれよ」と祈る中、トンネルから3両編成の列車が出てくるのを見て、心底ほっとした。


上り特急伊那路2号(右)との行き違いを待つ下り列車=本長篠駅

 この飯田線、全線を乗り通すのには時間と忍耐が必要で、私自身も学生時代に一度あるだけだ。87年3月、東京から大垣行きの夜行を使い、豊橋5時45分発の岡谷行きに乗車。本長篠(愛知県新城市)から三河川合(同)までの間、朝もやに包まれた宇連(うれ)川は川底の岩盤が透けて見えて、まるで墨絵の世界だった。途中、何か食べようと飯田でいったん降りたのだが、適当な店が見つからず、諦めてまだ駅に止まったままの列車に戻り、さっきまで座っていた席に着いて旅を続けたという思い出も。終点の岡谷着は12時46分。7時間の旅は今も記憶に残っている。

 …などという旅程を分単位で書くことができるのは、JTB時刻表87年3月号の復刻版のおかげ。6年前に発売されたものだが、裏表紙は今はなき山一証券の広告で、この間の月日の長さを感じさせてくれます。

 ☆共同通信・八代 到

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