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ロシアのウクライナ侵攻、鈴木宗男氏が唱える「直ちに停戦」は的外れなのか? グローバルサウスは「交渉を」、ウクライナは勝てないとの見方も

47NEWS / 2023年8月19日 11時0分

都内でインタビューに答える鈴木宗男氏=8月4日

 ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、国内で日本維新の会の鈴木宗男参院議員の発言が波紋を呼んでいる。鈴木氏は昨年2月の侵攻以来、メディアなどを通じ侵攻はウクライナ側にも非があるとした上で即時停戦を訴える発言を繰り返し行っている。
 ロシア軍の完全かつ無条件の撤退を求める日本政府の立場と大きく異なっており、一部でロシア寄り過ぎるとの批判も出ている。隣国を侵略したロシア軍の撤退が第一で、停戦はその後の話だとして、鈴木氏の発言は的外れだとの声もあるが、同氏が訴える「停戦」を巡る世界の動きは現在、どうなっているのだろうか。検証した。(共同通信=太田清)

 ▽「一にも二にも停戦」

 北海道・沖縄開発庁長官、外務政務次官などを務めた鈴木氏は、北方領土問題解決をライフワークと位置づけ、長年、対ロ交渉に携わってきたことはよく知られている。8月4日、都内でインタビューに応じた鈴木氏は現在のウクライナ情勢について、ロシアとウクライナの国力の差は明らかで、「ウクライナは(欧米の支援なしに)自前で戦える状況ではない」として「これ以上の流血を避けるためにも、一にも二にも停戦が必要だ」と訴えた。


 鈴木氏は第2次大戦で、ポツダム宣言受諾など終戦の決断を遅らせたことで、広島、長崎への原爆投下などの悲劇を招いた日本を引き合いに、「戦争で最も被害を受ける子供や女性、老人の犠牲をこれ以上増やさないためにも、一刻も早く停戦を実現することが大切だ」と強調。
 先進7カ国(G7)議長国で、G7の中で唯一ウクライナに軍事支援を行っていない日本は、その立場を生かし、20カ国・地域(G20)議長国であるインドなどと連携し、ロシア・ウクライナ双方に停戦を働きかけるべきだと主張した。
 また、停戦時点では、両国の国境線を画定させる必要はなく「今後の話し合いで決めればよい。交渉では国連、日本、インド、中国なども仲介に加われる」と語った。


キーウの修道院近くの壁に貼られた死亡したウクライナ兵の写真=8月4日(ゲッティ=共同)

 ▽グローバルサウスの主張

 停戦を巡っては、侵攻直後から、ロシア、ウクライナ両国は隣国ベラルーシやトルコなどで交渉を重ね、侵攻開始前のエリアまでのロシア軍撤退、ウクライナの中立化などの和平原案がまとまったとされた。
 しかし、2022年4月に入りウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでのロシア軍による民間人虐殺(ロシア側は関与を否定)が明らかになり、ウクライナ側が態度を硬化させたほか、戦闘が激化したことから交渉は中断した。
 一方で、関係国、特に近年、存在感を増しているグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国からは、双方に「停戦」を求める呼びかけが相次いでいる。この意味では鈴木氏の停戦を求める発言は、ウクライナ東部紛争での停戦などを定めたミンスク合意不履行がロシアの侵攻を招いたなどとする戦争の端緒を巡る議論は別にしても、国際的な動きからかけ離れたものではない。


ロシア軍との戦闘で死亡した息子の墓を訪れて泣く女性=8月3日、ウクライナ・キーウ(AP=共同)

 中国は侵攻1年に合わせた2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する12項目の文書を公表。「主権尊重」「和平対話の開始」などを呼びかけた。5月には李輝(り・き)ユーラシア事務特別代表が和平仲介のためウクライナと欧州各国を歴訪した。
 ブラジルはアモリン大統領府首席補佐官をルラ大統領の特使として4月にロシア、5月にはウクライナに派遣。プーチン、ゼレンスキー両大統領と会談、停戦に向けた多国間の対話の枠組みづくりなどを提案した。ルラ氏は欧米によるウクライナへの武器供与が戦争長期化の一因と主張している。
 ウクライナ産穀物の輸出合意を仲介したトルコのエルドアン大統領は5月、プーチン大統領との電話会談で、ロシアとウクライナ両国に国連を加え、トルコ・イスタンブールで和平会談を開催することを呼びかけた。
 6月には、南アフリカのラマポーザ大統領らアフリカ7カ国の代表団がプーチン、ゼレンスキー大統領と相次いで会談。即時停戦と対話による紛争解決を柱とする和平案を提示した。
 8月5、6両日には、サウジアラビア西部ジッダで和平実現を目指す国際会合が開かれた。会合はウクライナが主導しロシアは招かれなかったものの、米国や欧州各国の他、中国、インド、韓国、トルコ、南アフリカなど約40の国・国際機関代表が参加、和平に向けた国際的な動きの高まりを印象づけた。
 しかし、クリミアを含む領土からのロシア軍完全撤退と戦後賠償、戦争犯罪訴追などを求めるウクライナと、クリミアに加え、併合したと主張するウクライナ東部4州の主権維持、西側の制裁解除を要求するロシアとの立場の差は大きい。特にウクライナ側では世論の8割以上が和平のために領土奪還で譲歩することに反対しており、停戦交渉開始の糸口は見えていない。


7月28日、ロシア・サンクトペテルブルクで、ウクライナ危機に関するアフリカ諸国首脳との会談に臨んだプーチン大統領(中央)とラブロフ外相(左)(タス=共同)

 ▽耐えがたい損失

 そもそも戦争ではウクライナは勝てないとする見方もある。
 ロシアのリベラル派経済学者アンドレイ・イラリオノフ氏は今年6月、訪問先のワルシャワでロシア語のニュース専門サイト「ボット・ターク」のインタビューに答え、ロシアとウクライナの国力の差を考えると、ウクライナはロシア軍を敗退させることはできず、戦争は永遠に続く可能性があると指摘した。
 2000年のプーチン氏の大統領就任から5年間、同氏の経済顧問や主要8カ国(G8)首脳会議でのシェルパ(個人代表)を務めた同氏は、石油大手ユコス国営化など国家による経済統制強化を批判し辞任。その後、米国やウクライナのシンクタンクなどでプーチン体制批判を続けている。


2005年9月にモスクワで講演するイラリオノフ大統領顧問(ゲッティ=共同)

 同氏はロシア侵攻後、「ロシアは強くなりウクライナは弱体化した」と述べた。両国の国内総生産(GDP)=ドル換算=の差は、侵攻前は9対1でロシア有利だったが、戦争によるウクライナ経済の崩壊などで22年末段階では15対1に拡大。
 軍事予算についても、両国とも昨年、著しく増加させたものの、絶対的なロシアの増加額の方がはるかに大きく、欧米からの支援を考慮したとしても、両国の差は拡大している。
 米国の対ウクライナ軍事支援についても、アフガニスタン戦争時の米国の軍事支出や、第2次大戦時の対英国・ソ連へのレンドリース法(武器貸与法)を通じた武器・財政支援額(いずれも現在の物価に換算)と比べるとはるかに少なく、戦局を決定的に変えるには至らないという。
 その上で、同氏は米国で制定されたウクライナ版レンドリース法をさらに活用すべきだと提唱している。
 このほか、両国の人口、予備役の数や兵器の生産能力を見てもロシアがウクライナを大きく上回っているのは明らかで、ウクライナは他国への住民避難による人口減、重要インフラの破壊でさらに国力をそがれている。
 米紙ウォールストリート・ジャーナルは2月、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相がパリでゼレンスキー大統領と会談した際に、ロシアとの和平協議について検討するよう求めたと伝えた。表向きはウクライナ支援をうたう両国や英国は、ウクライナがクリミアを奪還する可能性はなく、ロシアとの戦闘はいずれウクライナにとって耐えがたい損失を生む恐れがあると考えているという。

 ▽血なまぐさい戦争は続く

 戦争長期化は避けられず、選択肢の一つとして交渉による政治的解決を考慮すべきとの考えは、ウクライナを軍事支援する米軍も有しているとみられる。
 米ニュースサイトのポリティコによると、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)は昨年11月、ニューヨークでの会合で、ウクライナの勝利を軍事的に達成するのは難しいかもしれず、この冬の期間はロシアとの交渉を始める良い機会と発言。ホワイトハウスは、ロシア軍を自国領土から完全撤退させることを目標とするウクライナ側との溝が深まることを恐れ、火消しに走ったという。


6月15日、北大西洋条約機構(NATO)本部で会見するマーク・ミリー米統合参謀本部議長(ゲッティ=共同)

 ミリー氏は、今年2月に行われた会見でも「ウクライナの軍事的勝利の可能性、つまりロシア軍を、クリミアを含む全てのウクライナ領土から今すぐ、追い出す可能性は軍事的に高くない」との見方を繰り返し、ウクライナが優勢にある機会を利用し政治的決着に持ち込むことは可能と主張。
 同氏は5月25日の会見では、6月初めのウクライナ軍反転攻勢が始まっていないにもかかわらず、ロシア軍の前線での兵力を考慮するとウクライナの領土奪還は「近い将来に起こることはない」と再度強調。
 今後も続く戦闘は「長く困難で、血なまぐさいものになる」として、ある時点で軍事的決着と並んで「双方の交渉が落としどころを見つける」決着の可能性を否定しなかった。

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