ゲンから感じた悔しさ、歌手の加藤登紀子さん「戦争の記憶を受け継ぎ語っていく」 歴史を確かめなければ同じ道を歩む【思いをつなぐ戦後78年】
47NEWS / 2023年8月27日 11時0分
歌手の加藤登紀子さんは、「百万本のバラ」や「知床旅情」など、数々のヒット曲を出してきた。1991年に広島市で開かれた広島平和音楽祭で発表した「Hiroshima」は、「繰り返すなヒロシマ 忘れないでヒロシマ 泣き叫ぶヒロシマ」と歌った。被爆地に関わり続け、米国内での核実験による放射能汚染の影響を記録し、今年各地で上映されている映画「サイレント・フォールアウト~乳歯が語る大陸汚染~」のナレーションを務める。加藤さんに、原爆投下から78年の思いを聞いた。(共同通信=下道佳織)
▽原爆投下を止めることができたのでは
漫画「はだしのゲン」
2014年に、漫画「はだしのゲン」の作者の中沢啓治さんが書いた詩に山本加津彦さんが曲を付けた「広島 愛の川」をリリースしました。2012年に、はだしのゲンが小中学校で閲覧制限となり、逆にみんなで読もうという流れになったことがきっかけです。レコーディングでは、中沢さんが「はだしのゲン」の冒頭に記した、原爆投下までの経緯がつづられた文章の朗読も収録しました。文章からは「原爆投下を止めることができたのではないか」との悔しさが感じ取れ、広く伝えたいと考えたからです。
多くの人は8月6日と9日という日付で原爆投下を受け止めますが、実際はそれまでに前段があります。米国は1945年7月16日に史上初めて核実験に成功し、7月26日に米英中3カ国首脳の連名で無条件降伏を求めるポツダム宣言を発表しました。日本は受け入れず、8月6日と9日に原爆が投下されました。はだしのゲンの1巻には、原爆が投下されることを知らないまま生活を送る家族の姿とともに、その背後では米国が着々と準備を進めていった軌跡が描かれています。「もっと早く日本がポツダム宣言を受諾していれば…」。中沢さんがどれだけ悔しかったのかが文章の一行一行に込められており、私自身も悔しさを具体的に感じたのはこの時でした。
終戦がさらに早ければ、核実験にも至らず、その後の核兵器時代の到来を防げていた可能性もあります。戦争が長引くほど戦後が大きく変わることを示しています。今年5月に開催されたG7広島サミットは、長期化するロシアとウクライナの戦争を止めるのではなく、促進する場になってしまいました。どちらにつくのか、世界地図を色分けするためのサミットのようでした。広島で開催した意味は何だったのか。非常に残念な思いでいっぱいです。
▽原爆の恐ろしさを実感できていない
私は1歳7カ月で終戦を迎え、戦時中の記憶はありません。当時の状況を親から聞くことができた世代ですが、体験したわけではありません。「あなたは見ていないのにどうして語ることができるのか」という人もいますが、体験者から話を聞けない時代が来たとしても、私たちは記憶を受け継いで語っていかなければいけないと思います。
戦争を体験した人が何人もいると同時に、何年もたってから分かったこともありますよね。長い時間をかけて、いくつもの証言を一つの歴史として構築する必要があります。それは、広島でもまだまだされていないと思います。
十数年前、米国で広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」の展示を見ました。広島に原爆を運んだとの説明はありましたが、投下によって十数万人の人が亡くなったということは一切書いてありませんでした。居合わせた若者に「10万人以上の人が亡くなったのよ」と伝えたら、びっくりして、青ざめた人もいました。「僕たちは何も知らないのですね」と。世界の人たちはいまだに原爆の恐ろしさを実感できていないのではないかと不安に思っています。
インタビューに答える歌手の加藤登紀子さん
▽自分で知る気持ちを持ってほしい
中学生の頃から歴史が好きでした。なぜ当時の人はこうしたのか、という点に興味があったからです。歴史はとてつもない既成事実として私たちの前に立ちはだかっていますが、全て人間が動かしてきたことなんですよね。歴史を丁寧に確かめなければ、人類は同じステップを踏むことになると思います。知ることは大事。自分で知ろうとする気持ちをぜひ持ってほしいです。
× ×
かとう・ときこ 1943年中国・ハルビン生まれ。1965年に第2回日本アマチュアシャンソンコンクールで優勝し、歌手デビュー。現在も国内外で活発にコンサート活動を続ける。
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