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電源喪失は〝命のカウントダウン〟医療的ケア児と地域で災害に備える 7割の家族が「不安」、対策に自治体間で格差も #災害に備える

47NEWS / 2023年9月1日 10時30分

災害を想定した訓練で市役所に到着した医療的ケア児=2023年5月(佐賀県武雄市提供)

 1923年9月1日に起きた関東大震災では、火災や建物倒壊、土砂崩れ、津波などで道路や電線が寸断され、約10万5千人が犠牲となった。100年を経て、防災対策が進んだ現在でも、ひとたび災害で電気や水道などのライフラインが止まれば、復旧には長い時間がかかる。特に人工呼吸器といった医療機器を使いながら暮らす「医療的ケア児」にとっては、電源を失う停電は命の危機に直結する一大事だ。厚生労働省の調査では、家族の7割が災害対応への不安を感じていた。国は対策整備を促すが、自治体間で格差も生まれている。(共同通信=沢田和樹)


猛烈な雨で冠水した佐賀県武雄市の市街地=2019年8月28日(共同通信社ヘリから)

 ▽豪雨による浸水で医療機器が水没し、酸素不足に


 医療的ケア児は全国に約2万人いると推計されている。新生児集中治療室(NICU)などの発達により、昔は救えなかった命を日々の医療的ケアを伴いながら救えるようになり、その数は増加傾向にある。
 人工呼吸器などの医療機器を動かすには、電源が必要だ。災害避難の際は他にも、移動に車いすが必要だったり、薬剤やバッテリーなど大量の荷物を運ばなければならなかったりといったハードルがある。簡単には避難することができず、厚生労働省の昨年の調査では、医療的ケア児の家族の70・9%が「容体急変や災害対応が不安」と答えていた。
 国会議員や官僚、民間団体の関係者らが医療的ケア児への支援を話し合う「永田町子ども未来会議」では5月、災害対策をテーマとして取り上げた。佐賀県武雄市の小松政市長や「北海道医療的ケア児等支援センター」の土畠智幸センター長らが、過去の災害で得た教訓や、その後の対応について講演した。
 佐賀県武雄市では2019年8月、約1500世帯が浸水する豪雨があり、医療的ケア児がいる家庭も被災した。医療機器は水没し、道路状況の悪さから避難所に行くまで5時間以上もかかった。電源を確保できず、たんの吸引ができなかったことで、医療的ケア児は血液中の酸素不足が原因で皮膚が青っぽく変色するチアノーゼのような状態になったという。
 その後、対応を振り返る検討会では、人工呼吸器を使う別の医療的ケア児の親から「停電は命のカウントダウンだ」という訴えがあった。これらを受け、武雄市での医療的ケア児に対する災害対策が本格的に始まったという。


訓練で避難先に着いた医療的ケア児と大量の荷物=2022年10月(佐賀県武雄市提供)

 ▽オーダーメードの避難計画を作り、毎年訓練
 小松市長は「私たちの対応のポイントは、まず本人のお宅で会議をすること。それぞれ環境が違うので、オーダーメードで避難計画を作るには本人宅で会議をするのが一番です。関係者全員が集まります」と説明した。
 武雄市では豪雨の後、電源が必要な医療的ケア児3人の自宅に消防職員や看護師らと集まり、室内を確かめながら対応を検討。どうやって避難するかをまとめた個別避難計画を2020年に作った。それぞれに応じた避難訓練も毎年実施している。
 小松市長は「訓練の結果、入院先には医療機器用の変換プラグがあるけど避難先にはないなど、いろんな気付きがあった。人事異動で担当者が代わるので、とにかく定期的に関係者で避難手順を確認することが大事だ」と語った。


避難訓練で武雄市に連絡する医療的ケア児の朝永海羽さんの母=2022年10月(佐賀県武雄市提供)

 武雄市に住む朝永渉さん(41)もオンラインで参加した。朝永さんの長女海羽さん(12)は、医療的ケア児だ。「家族の状況も行政の担当者も変わるので、関係者の方に毎年状況を知ってもらうことが大きな安心につながっている」と話した。
 災害対策基本法が2021年に改正され、自力で避難することが難しい高齢者や障害者、医療的ケア児らについては、個別避難計画を作ることが自治体の努力義務となった。ただ、内閣府と消防庁の調査では、2023年1月時点で個別避難計画を全対象者について策定済みなのは9・1%、一部策定済みは65・7%だった。避難計画に基づく訓練を実施しているのは13・6%にとどまる。
 朝永さんは「自治体の間で格差が出てきている。義務化をお願いしたい」と求めた。


停電で看板などの照明が消えた札幌市中心部の繁華街ススキノ=2018年9月6日(下)。上は同年3月撮影のススキノ

 ▽北海道地震でブラックアウトを経験、教訓は「地域での支援」
 2018年9月の北海道地震では、全域が停電する「ブラックアウト」を経験した。北海道医療的ケア児等支援センターの土畠センター長は「一時避難所に避難したいと言ったら『医療職がおらず非常電源もないので対応できない』と断られた例があった」と振り返る。
 土畠センター長は、電源を確保するためだけに人工呼吸器を使う患者を病院に入院させるのは現実的ではなく「非常用電源を患者の自宅や近くの訪問看護ステーションなどに配置し、災害時に活用できるようにすべきだ」と訴えてきた。
 実際、厚生労働省は2018年度、医療機関が非常電源を購入する費用を補助し、災害時に人工呼吸器を使う患者に貸し出せるようにした。札幌市では2019年から医療的ケア児らの非常電源購入費用を補助する制度ができた。
 土畠センター長が特に重要視するのは、地域で医療的ケア児を支えていく体制づくりだ。「最近はキャンプが趣味で非常電源を持っていたり、ソーラーパネルが付いていたりする家庭もある。目の前の人が『うちは電気が復旧しているからおいでよ』と言えば済む話なのに、常に医療職が手を伸ばさなければならないというのではあまり意味がない。助けが必要な子どもがいることを知らないと誰も手を伸ばせない。平時から、地域での支援を中心とするモデルに移行していくべきだ」


北海道医療的ケア児支援センターの土畠智幸センター長=2023年5月、東京都千代田区

 ▽「災害時対応ガイドブック」を作成する自治体も
 他にも、国土交通省と川崎市が昨年、電動車から医療的ケア児の使う医療機器に給電する訓練をするなど、各地で災害対応は広がり始めている。
 こども家庭庁は、災害時の留意点をまとめた避難マニュアル策定に乗り出す。医療機器の使用に欠かせない電源の確保や、医療従事者との連携など平時からの備えを促し、行政や保育現場での避難計画作りに役立ててもらう狙いだ。2023年末の策定を目指す。
 また、2021年施行の医療的ケア児支援法は付則で、災害対応について「必要な措置を講じる」と規定している。こども家庭庁は2023年中に、全市区町村とケア児を受け入れている保育施設を対象とした調査を実施。人員確保などの事業継続計画(BCP)や避難マニュアルを作っているかどうかや、作成時の課題は何かなどを尋ねる方針だ。
 茨城県つくば市はケア児らのための「災害時対応ガイドブック」を作成。(1)平時から近所の人に協力を依頼する(2)主治医や訪問看護ステーションなどの緊急時の連絡先を確認する(3)複数の予備バッテリーを準備しておく―などを呼びかけている。
 他にも千葉県市川市や岐阜県、広島市などで同様のガイドブックを作っている。こども家庭庁ではこうした好事例を分析した上で避難マニュアルを作り、自治体や保育施設の避難計画作りを促したい考えだ。


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