「多重下請けの底辺」しわ寄せ及ぶ軽トラ運送業者、深夜も電話に追われていた義父の遺志継ぎ起業 マッチング・プラットフォームで挑む「2024年問題」
47NEWS / 2023年9月11日 10時0分
インターネット通販の市場拡大が続く中、配達のラストワンマイルを支えているのが軽トラックで運送業を営む自営業者だ。物流業界では、来年春から残業規制が強化され運転手が不足する「2024年問題」への懸念が高まっている。大手運送業者が荷物をさばききれなくなれば、多重下請け構造の底辺に当たる軽トラックの運送業者にしわ寄せがいき、過重労働に陥ったり交通事故が増えたりする恐れがある。
こうした課題の解決につながると期待されるのが、ITを活用して荷主と軽トラックの運送業者を直接つなぐ「ピックゴー」だ。このプラットフォームの運営を手がけるCBクラウド(東京)の松本隆一最高経営責任者(CEO)=(35)=は元航空管制官で、急死した義父の遺志を継いで起業した異色のベンチャー経営者。そもそも仕事を選ぶ余地が少なく、労働生産性も低いとされる軽トラック運送業者の社会的価値をどう上げるのか。物流変革への挑戦が続いている。(共同通信=松尾聡志)
【※この記事は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索してください→足音迫る日本の「届かない」未来 「2024年問題」の解決策は】
▽独学で習得したプログラミング技術を生かす
CBクラウドの松本隆一CEO=7月、東京都千代田区
CBクラウドが運営するピックゴーは、2013年9月に他界した松本さんの義父の事業が源流になっている。松本さんによると、義父は横浜市で自動車の販売店と整備工場を経営。その傍ら「テイヘン」という会社も手がけ、軽トラックの冷蔵・冷凍車を販売した約30の自営業者に運送の仕事をあっせんする事業をしていた。社名は多重下請け構造の「底辺」から付けられていた。
当時の運送業界の慣習として、仕事の受発注は電話が中心。荷主からの電話を取り損ねたら、その仕事は他の業者に回されてしまう。このため、義父は深夜も電話に追われる生活を送っていたという。
松本さんは航空管制官として羽田空港で勤務しながら、休日は高校時代に独学で習得したプログラミング技術を生かして義父を手伝っていた。義父といっても、当時はまだ交際相手の父親という立場だったが、「娘と結婚しなくても事業は一緒にやってほしい」という言葉に心を動かされ、松本さんは2013年8月に航空管制官を辞めた。
▽遺品整理で見つかった事業企画書
ところが働き過ぎがたたったのか、松本さんが一緒に仕事を始めた直後に義父が死去。54歳だった。松本さんが遺品を整理していた際に書斎から見つかったのが、手書きの事業企画書だ。事業の名称は「軽town」。運送の受発注ができるオンラインのシステムを構築し、荷主と空車状態の運転手をマッチングさせるといったアイデアが記載されていた。
松本さんは「このアイデアを実現できるのは自分だけだ」と、すぐにCBクラウドを設立。2016年6月に「軽town」として事業を始め、1年後に現名称のピックゴーに変更した。
松本さんによると、ピックゴーは「元請けのような存在」だ。プラットフォーム上で、荷主が発注した仕事の情報が登録する全ての運転手に通知され、運転手が受注を申し出る仕組み。電話の場合、荷主側は引き受けてくれる運転手が見つかるまで順番にかけ続ける必要があるため時間がかかるが、ピックゴーでは最短56秒でマッチングが成立し、配車率は99・2%に上る。運転手側もさまざまな発注から仕事を選べる利点がある。
運転手の登録数は2023年4月時点で5万人を突破した。国内の軽トラック運転手の4人に1人が利用する事業基盤になった計算だ。
遺品整理で見つかった義父の事業企画書の写し
▽効率的な配送ルートや荷物の積み込みを提案
CBクラウドは宅配業務をスマート化する取り組みも進めている。配達先の時間指定や在宅率の予測を反映したルートを自動的に作成し、スマートフォンやタブレット端末で運転手に提案。車内のどこに荷物を積み込めばいいかも指示し、熟練の運転手でなくても目的地に着いてから効率的に荷物を取り出せるようにしている。
国土交通省の実態調査では、軽トラック運送業者から「駐車違反をしないために利用した時間貸し駐車場の代金を荷主側が負担してくれない」といった声も出ており、松本さんは「物流業界はまだまだ課題が山積している」と指摘する。
▽会社に縛られたくない若者の参入増加
国交省によると、軽トラックの運送業者は国内に約21万あり、大半が自営業者とされる。ネット通販の需要拡大を背景に、車1台から事業を始められるため、会社に縛られない生き方として新規参入する若者らが増えている。
ただ運送業界は多重下請け構造で、商売はそんなに甘くない。国交省などが2023年4月に公表した調査結果によると、運送業者の74%が下請け業者を利用し、受託金額の90%以上で委託している。言い換えると数%の手数料を差し引いて仕事を回す形だ。下請けを利用する理由では「自社のドライバー不足」や「突発的な運送依頼」との回答が多かった。
他の運送業者から依頼を受けるケースが「ある」と回答した業者は78%を占め、このうち49%は別の業者に再委託していた。自営業者のような中小零細ほど3次下請けや4次下請けになる割合が大きく、その分だけ収入が少なくなる構造だ。
松本CEOが航空管制官だったことにちなんでオフィス内の通路は空港の滑走路をモチーフにデザインされている=7月、東京都千代田区
▽「送料無料」消費者が考え直す時期に
労働環境も厳しい。国交省は2023年3月から約1カ月間、軽トラック運送を手がける自営業者の実態調査をインターネットで実施。首都圏と近畿圏の772の業者から回答を得た。
その調査結果によると、1日の平均労働時間は8時間以下が計41%だった。一方で9~10時間が18%、11~12時間は21%、13時間以上も計21%あり、総じて長時間労働の傾向がうかがえた。1日の運送量では、通常期は100個未満が53%で、200個以上は11%だったが、繁忙期は200個以上が26%に増えた。
安全面の課題も浮き彫りになった。酒気帯びの確認のための点呼といった運行管理を「実施していない」との回答が25%を占め、法令が定める拘束時間や休憩期間を「順守していない」との回答は39%に上った。
荷主から法令違反を引き起こすような「違反原因行為」を受けた経験が「ある」との回答が54%を占めた。具体的な行為を複数回答で選んでもらうと「相当量の荷物を依頼され、法で定める拘束時間を超えて配達しないと間に合わなかった」が40%と最多。「最大積載量を超えた運送を強要された」も18%あった。
消費者の多くは「送料無料」を当たり前に感じていて、荷主側も物流にかかる費用を利益圧迫の要因として削減しようとしてきた。2024年問題に直面し、そうした状況を社会全体で考え直す時期が来ている。
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