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「地下」から目指す頂点、反復の重なりが笑いに お笑いコンビ・ランジャタイ

47NEWS / 2023年9月6日 10時0分

インタビューに応じる「ランジャタイ」の国崎和也(左)と伊藤幸司=5月、東京都千代田区のKADOKAWA

 テレビ出演や芸能事務所のサポートと縁の薄い地下芸人出身のお笑いコンビ「ランジャタイ」。2021年のM―1グランプリ決勝進出をきっかけに浸透度が増し、カルトなファン層を形成。メンバーの伊藤幸司と国崎和也がそれぞれ初の著書を出版するなど活動の場を広げている。2人は何を目指すのか。(共同通信=中村彰、敬称略)

 ▽お笑い界で高評価

 M―1決勝進出で伊藤は手応えをつかんだ。決勝進出のアナウンスで「ふらっと気を失いかけた。これが夢がかなう瞬間かという感じ、最高の瞬間でした」。 10組で競った決勝では「すごく楽しくやれて受けも良かった」と振り返るが、結果は「驚きの最下位」。

 7人の審査員の中で立川志らくだけが96点と高く評価。ランジャタイの漫才を「イリュージョン」と評し、独演会のゲストに呼ぶなど親交が続いている。

 業界内でもランジャタイを称賛する声は少なくない。千鳥の大悟は「ランジャタイはわしの憧れじゃ」と公言する。

 伊藤は1985年、鳥取県生まれ。国崎は87年富山県生まれ。2人は吉本興業の養成所・吉本総合芸能学院(NSC)で出会い、2007年にコンビを組んだ。

 ランジャタイのネタの特徴の一つが同じことをしつこく、しつこく反復すること。たとえば、国崎がウッチャンナンチャンのお面を掲げ「ウッチャンナンチャン、ウッチャンナンチャン、ウッチャンナンチャーン」と延々と歌い踊る。最初は「なんだこれは?」と当惑するが、反復のしつこさが忍び笑いから爆笑に変わる。

 ダイアンの津田篤宏とのコラボでは津田の持ちネタ「ゴイゴイスー」をアレンジ、津田に「ゴイゴイ、スーススー」と長時間、歌い踊らせた。

 5月のネット配信番組では23分間にわたり国崎は同じ動きを繰り返した。MCのアルコ&ピース・平子祐希があきれ果てて「おい伊藤、なんとかしろ」と呼びかけたが、伊藤はわれ関せず。番組の枠を使い切った。

 「うんざりされるのが好き、『何なんだよ、こいつ』みたいなのが」と国崎。これがはまる人にはピタリとはまる。特に子どもたちからの人気が高く、子どもや赤ちゃんがまねをする動画が送られてきたり、電車の中で「ゴイゴイ、スーススー」と歌う母子を見かけたりしたという。

 このような芸風には好き嫌いが出てくる。国崎自身、「駄目な人は駄目だと思います。隣の家のおばちゃんは僕のことは大好きだけど『テレビのかっちゃんは大嫌い』と言ってました」と笑う。

 動きが激しいため、「一回やるとアウトです。ゼーゼーします」と言うくらい体力を消耗する。そのため持ちネタが約300あるにもかかわらず、何本もネタを披露する単独ライブ開催は難しいのだという。


執筆した本を手に笑顔で撮影に応じるランジャタイの2人=5月、東京都千代田区のKADOKAWA

 ▽大師匠への憧れ

 伊藤の著書「激ヤバ」(KADOKAWA)では志らくの師匠の立川談志や、ビートたけしの師匠だった深見千三郎らへの思いがつづられている。「あの世代の人たち、かっこいいですね。粋というか、怪物的なところに憧れます」。M―1決勝前には2人で深見の墓参りもした。

 「激ヤバ」とは、伊藤の母親が亡くなった際、ひつぎに入れるランジャタイのサイン色紙に国崎が書いた言葉。色紙は遺体の顔のそばに置かれた。最後のお別れをする家族や親戚の目に飛び込む「激ヤバ」の3文字。皆、笑いをこらえるのに必死だったという。

 この時、伊藤は思った。「国崎君はどんなときでも人を笑わせるために生まれてきたのだな」

 国崎の「へんなの」(太田出版)には子どものころのエピソードが多い。「昔は子どもをだます大人ばっかりだった。インチキがはびこる時代でした。どう子どもをだましてお金を取るかみたいな」。小学校の同級生との十数年ぶりの再会や、祖父とすしにまつわるちょっといい話も。

 地下芸人仲間との悲しくも、どこかおかしいエピソードも数多い。長い下積みの末、芸人を諦めることになる仲間たち、カレー店2階でのライブでは、芸にではなく外国人店員の少し変わった日本語に爆笑が起こる、お金がないため大雪の中、屋外で行った打ち上げ…。

 ▽言葉のキャッチボール

 出版の経緯を聞いていると、2人はこんなやりとりを始めた。 国崎「編集さん、ゴーストライターさんがこういう感じにしてくれたのかな」 伊藤「書いてくれた人がいるんですか」 国崎「いるかもしれないですよ、本当に」 伊藤「信じる方もいますから、やめてください」

 自然に生まれる言葉のキャッチボール。こんなことができるのが、コンビのコンビたるゆえんなのだろう。

 2人の本はともに版を重ねた。出版社には「芸風と異なり意外なほど泣ける」「芸人本の中でぶっちぎりで良かった」など読者からの声が届いているという。


M-1グランプリ準決勝の舞台で熱演するランジャタイの2人=2021年12月、東京都港区のホール

 M―1の参加資格は結成から15年以内。ランジャタイは年限を越えた。タイミング良く今年、芸歴16年以上を対象にした漫才の賞レース「THE SECOND」が始まった。しかしランジャタイは準優勝となったマシンガンズに敗れ、ベスト16に終わった。

 伊藤は言う。「(M―1と)スライドする形で出られる大会ができたのはめちゃくちゃありがたい。そこでチャンピオンになって、チャンピオンしか見えない景色を見てみたい」。「地下」から頂点を目指す。

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