「伝え方が変われば社会が変わる」国内初、政治家の演説をAIが診断 SNS普及で「バズる」コンテンツに。史上最年少の兵庫県芦屋市長も学んだスピーチ術
47NEWS / 2023年9月20日 10時30分
スピーチの研修を手がける東京のスタートアップ(新興企業)「カエカ」が、人工知能(AI)を使って政治家の「話す力」を数値化する国内初のサービスを始めた。これまで客観的な評価が難しかった演説を定量的に分析。強みと弱みを可視化した上で、個々の特徴を磨く狙いだ。「ネット選挙」を解禁する改正公職選挙法の成立から今年で10年。交流サイト(SNS)の普及で、政治家の演説も「バズる」時代を迎えている。話し方のトレーニングを受けたことで、技術の向上を実感するだけでなく、自身の経験を振り返る機会になった、という政治家もいるようだ。(共同通信=浦郷遼太郎)
人工知能(AI)を使って「話す力」を分析するサービスのイメージ=カエカ提供
▽話す相手はパソコン、AIが数値化
2023年6月に始まった演説力診断サービス「kaeka score politics」は1回2980円でパソコンがあれば誰でも、どこでも受けられる(注:サービスアップデートのため、24年8月時点で一般向け受験は受け付けていない)。パソコンのサイトで会員登録をして受験料を支払うと、診断がスタート。まず、こんな設問から始まる。
「選挙期間2日目に地元の人通りが多い場所で朝の演説を行っています」
「道行く人に自分の名前を覚えてもらうために、1分~1分30秒で演説してください」
街頭演説や応援演説、議会質問といった場面や、マイクの有無、話す時間帯といった具体的な条件が設定される。「受験生」となる政治家はパソコンに向かい、状況に応じて計6回の演説をこなすと、3日から2週間程度で結果が送られてくる。
分析では以下の4要素を100点満点で採点する。
(1)筋の通る話をする力(PLOT)
(2)事実を扱う力(FACT)
(3)ストーリーを伝える力(STORY)
(4)核心を伝える力(CORE)
希望者はカエカに所属するスピーチの専門家から1時間程度のフィードバックを受けることもできる。
現状、4要素は専門家による「人力」の診断で、AIは声の高さや間の取り方、話す速さを数値化する。項目別に「あなたの地声は平均的な高さで、幅広い声域を使い分けることができています」「日常会話よりも少し遅めで、人々の注目を集めるのに適切なスピードです」といった評価が示される。将来的には、AIが診断する領域を演説の内容そのものにも広げたい考え。
カエカ代表でスピーチライターの千葉佳織さんは、サービスの普及に期待する。「伝え方が変われば、社会も変わるのではないか。サービスを通じて政治家が自らを振り返ることができれば、国民が共感する話し方のできる人が増えるはず」
スピーチの研修を受ける兵庫県芦屋市の高島崚輔市長=カエカ提供
▽「選挙が楽しくなる」好影響も
ビジネスマン向けのスピーチトレーニングや原稿執筆などのサービスを提供してきたカエカでは、国会議員や地方議員をはじめ、160人以上の政治家にもスピーチの研修を実施してきた。
今年4月の統一地方選で、史上最年少の26歳で市長に当選した兵庫県芦屋市の高島崚輔氏もその1人。選挙が近づくと「駆け込み需要」が増える傾向にあるようだが、話し方にはそれぞれ癖があるため、効果が出るまでには2~3カ月は必要という。
昨年末から約3カ月間トレーニングを受けた東京都文京区議の高山泰三氏(46)は、話し方の技術向上に加え、今までの活動を振り返る機会になり、自信が持てるようになったと振り返る。20代で初当選し、現在6期目のベテラン議員だが、これまで演説について学んだことはなく、当選回数を重ねる一方で政治家としてのマンネリ化を感じていたという。
「当選回数を重ねると、昔から知っている人の支持を固めれば選挙はどうにかなる。だけどそれでは発展性がない。初当選した26歳当時の『元気で爽やかなお兄さん』のイメージから進化するべく、演説が武器の一つになればと思った」
トレーニングは対面とオンラインを併用して受講した。落ち着きなく見える話し方を矯正するため、体の重心の置き方について指導を受けたり、これまで短かった間の取り方は時間を計りながら練習したりした。他にも演説中に専門用語を使う際は意味の説明をする、といった内容に関するアドバイスも受けたという。
トレーニングの成果は、6度目の当選を果たした4月の統一地方選で実感することとなった。
「今までは街行く人のほとんどが話を聞いていないと思っていたし、実際もそうだったと思う。だけど、今回はリアクションをしてくれる人が明らかに増えたと感じた。何より大きかったのは、議員としての経験に自信がなかったが、自分がつまらないと思っていた話でも、聞く人からすればそれなりの実績ということが分かり、自信が付いたこと。選挙をやっていて楽しかった」
またこれまでも、少人数の会合や戸別訪問に比べて、有権者に話しかけられる機会が比較的少ない街頭演説に「逃げている」地方議員が多いと感じていたという。高山さんはこう話す。「選挙をやっていれば、どんな政治家にも自分の弱点やサボってきたところ、苦手な分野、人に言われたら嫌だな、ということがあるはず。少人数相手に話せば突っ込まれる部分も出てくるし、ちゃんと勉強しないといけない。やはり1対1で話すことがすごく大事です」
選挙プランナーの松田馨さん=株式会社ダイアログ提供
▽高まる演説の重要性
演説力診断サービスを監修した選挙プランナーの松田馨さんは、SNSの普及で演説の重要性が高まっていると指摘する。
日本国内では、ウェブサイト上での投票呼びかけや演説告知といった、ネットでの選挙運動を解禁する改正公職選挙法が2013年に成立した。若年層を中心に、政治への関心が薄い人たちにも直接アピールできるSNSは、今では政治家にとって必要不可欠なツールとなっている。街頭演説や国会質疑を数十秒にまとめた「ショート動画」が、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や「ユーチューブ」で拡散され、再生回数が数百万回に上ることも珍しくない。
松田さんは強調する。「演説自体が一つのコンテンツとして、目の前にいる聴衆の100倍、1000倍以上に見てもらえるようになった。ネット選挙との『掛け算』で、演説の重要性は高まっている」
自身の演説を見返したり、話し方のトレーニングを受けたりする政治家は少ないと感じてきた一方で、松田さんは今後に期待している。「演説を通して有権者に伝えるという意識は、日本の選挙では残念ながら高くなかった。だが、ネット選挙の時代になり、大きく変わってきている。演説が面白くなれば、政治への関心も高まる」
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