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スマホ普及で衰退のカメラ、注目の「Vlog」は復権の鍵になるか Z世代に広がる日常の撮影に期待し「スマホ仕様」の新機種開発

47NEWS / 2023年9月16日 10時0分

キヤノンが初めて発売したVlogカメラ「PowerShotV10」と開発に携わった大辻聡史さん=6月14日、東京都

 デジタルカメラの市場規模はこの10年間で約10分の1に縮小した。高性能のカメラ機能を搭載したスマートフォンの普及が要因だ。カメラ愛好家の高齢化も進む中、キヤノンは物心ついた時からスマホが身近にある「Z世代」に注目する。フィルムカメラ発売から87年を迎えた老舗が、デジタルネーティブの若者たちに向き合い始めた。

 その鍵として注目したのが「Vlog(ブイログ)」。趣味や身の回りの出来事を撮影した動画だ。ユーチューブやインスタグラムで共有される。キヤノンは今年6月にVlog用のデジタルカメラを発売した。カメラの持ち方の「常識」を覆す縦型のボディーで、スマホのように片手で操作できる。衰退の一途に見えたカメラの復権はあるのか、模索が続いている。(共同通信=遠藤麻人)

 ▽Vlogの目的は「自分のため」
 Vlogは、動画を表す「Video(ビデオ)」と、インターネット上の日記「Blog(ブログ)」を組み合わせた言葉。毎日の習慣を撮影したルーティン動画や、海外旅行の様子を紹介する動画などが人気だ。交流サイト(SNS)で共有され、一つの動画が百万回以上再生されることもある。Vlog事情について、動画クリエーターの大川優介さん(26)に聞いた。

 大川さんが撮影を始めたのは7~8年ほど前。大学在学中だった。当時Vlogという言葉はなく、趣味のサーフィンに熱中する様子をSNSなどに投稿した。動画にした理由は「表情の変化や音といった情報量が多くなる。写真より見ている人の感情を動かせる」から。Vlogは海外で先行して人気となり、ここ数年で日本でも広がった。

 大川さんによると、Vlogはあくまで自分のために撮影するものだという。いわば、人生の記録だ。不特定多数を楽しませる目的は不要で、これが動画投稿で広告収入を得る「ユーチューバー」との違いだと説明する。

 主な担い手は30代までの若者だ。特に10代から20代前半のZ世代には、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の影響が大きい。アプリ内でリズムに乗って踊ったり、おどけたりする様子を友人と共有する。大川さんは「自分のことを発信するのって日本人にはちょっと恥ずかしい。でも、Z世代は動画で自己表現してきた人たち」と話す。


オンライン取材に応じる動画クリエーターの大川優介さん=7月18日

 ▽スマホと無線でつながり、SNSに手軽に投稿
 キヤノンは6月、Vlog用カメラとしてスマホサイズの新商品「PowerShot(パワーショット)V10」を発売した。縦長のボディーにレンズとボタンが付いている。スマホと無線でつながり、SNSへの投稿もお手軽だ。

 キヤノンの大辻聡史氏は開発に当たって「スマホでつくられた価値観」を意識したと明かす。カメラ初心者にも親しみやすい製品を目指した。起動から撮影までの手間を省き、三脚を使わなくても内蔵スタンドで自立できる。多くの人を一度に収められる広角レンズや、手ぶれ補正機能などカメラメーカーならではの魅力も盛り込んだ。

 さらに、効果的に売り込むため、Vlog利用者のニーズを分析した。販売子会社のキヤノンマーケティングジャパン(MJ)は発売前、約3500人を対象にアンケートを実施した。

 すると、スマホで撮影する人の約7割が「ピントがすぐに合わない」「画質が良くない」などの不満を抱えていることが分かった。V10ならレンズ性能や画像処理に強みがある。ヒットへの手応えを得た。


キヤノンが発売した「PowerShotV10」の開発段階の模型と完成品(右端)

 ▽「交換日記」のようにコミュニケーションツールとして利用
 2023年7月、キヤノンMJは東京都内で中高生が参加するプレゼンテーション大会を開いた。テーマは「Z世代がV10に興味を持ってもらえるようなマーケティングプラン」。スマホでは得られない新たな体験を提案してもらうことが目的だった。
 キヤノンMJの阿部俊介氏は、中高生は「5~10年後に顧客になってくれる世代」と話す。カメラへの向き合い方を学び、将来の商品やサービスのヒントを得る狙いがあった。また、キヤノン初のVlogカメラとあって、これまでの製品の延長線上にはない販売戦略が必要だった。中高生ならではの視点や発想に期待を寄せた。

 参加したのは中学2年から高校2年の男女。計10チームがそれぞれV10のPR動画を作成し、2カ月間練り上げたマーケティングプランとともに披露した。

 発表は中高生らしいものが並んだ。「美肌効果や手ぶれ補正といった機能は、恋人とのデートにうってつけだ」「スタンドで自立させれば、運動部員のフォーム確認に使える」。審査員を務めたキヤノン側も熱心に耳を傾けた。スマホが使用禁止の学校も多く、代わりにV10を学校生活に取り入れる戦略も目立った。


中高生の発表を聞いて講評するキヤノンマーケティングジャパンの担当者(左)=7月22日、東京都

 優勝したのは、1台のV10を友だち同士で共有する使い方を提案したチームだ。動画を撮影後にSNSで共有するだけでなく、撮る瞬間もみんなで一緒に楽しむ。その上で、日常の記録が詰まったV10を見返す。1人1台が基本のスマホと違って、「交換日記」のようにコミュニケーションのツールとして利用できると説明した。

 阿部氏は「過去の成功や失敗体験などによる思考の枠がなく、柔軟なアイデアがたくさん出た。効果を検証し、実際の販売戦略にも生かせないか検討したい」と話した。


Z世代に売り込むマーケティングプランを発表する生徒たち。カメラを友だち同士で共有する使い方を提案した=7月22日、東京都

 ▽競合メーカーも新商品続々


 デジタルカメラの出荷台数は大きく減少してる。カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計によると、2023年1~6月の累計出荷数は約343万台。2013年の同じ期間は約2974万台で、10年間で9割近く減少した。ピーク時は1~6月だけで5千万台を超えていた。

 ニコンが2022年8月に発売したミラーレスカメラ「Z30」は、Vlog用を前面に押し出した。光を感知するイメージセンサーのサイズは一般的なスマホの約14倍で、暗くてもきれいな動画が撮れる。発売に合わせ、「あなたの日常」をテーマにVlogのコンテストも開催した。多くの動画を共有できる場所を提供することで、自社の存在感を高める狙いもあった。


 競合他社に先駆けてVlogへの取り組みを打ち出したソニーは今年6月、シリーズ5機種目の「VLOGCAM(ブイログカム)ZV―12」を投入した。一眼カメラで培った技術を活用して高画質の4K動画での記録に対応した。スマホでは得られない広い画角での撮影もできる。ソニーは「映像表現にこだわった動画投稿が増えた。高画質・高音質の映像への意識も高まっている」と分析する。業界全体が千載一遇のチャンスに沸いている。

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