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子どもや外国人を阻む「漢字の壁」、読書の世界広げる「ルビ」普及に取り組むネット証券創業者 私財1億円で財団設立、無料ソフトを年内配布

47NEWS / 2023年9月24日 11時0分

ルビの普及に取り組む「ルビ財団」を創設した松本大さん。松本さんはマネックス証券の会長も務める=8月7日、東京・赤坂

 読書好きの子どもに立ちはだかるのが漢字の壁だ。ふりがなが振られていれば児童書を飛び出すことができ、本の世界を広げられる。日本に暮らす外国人もひらがなは読めても漢字は難しい場合が多い。行政のウェブサイトや手続き書類は外国語版があるのが望ましいが、それがなかったとしてもふりがなが振られていれば多少は理解しやすくなるだろう。

 そうした社会のハードルを取り払おうと、インターネット証券大手マネックスグループ創業者の松本大会長が2023年5月下旬に「ルビ財団」を立ち上げた。1億円の私財を投じてウェブサイトや出版物などにふりがなを普及させる活動を進めている。金融市場を舞台に巨額の取引を手がけてきた松本さんが、金融とはかけ離れた社会貢献に踏み出した背景を探った。(共同通信=越賀希英)


 ▽壁一面の本棚、子どものころの読書体験がきっかけ
 松本さんは東大法学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券などに勤務し、1999年にマネックス(現在のマネックス証券)を創業した。2023年6月にマネックスグループの社長を退き、現在は会長として新規事業や暗号資産関連事業などを担当している。

 財団の名前にもなっている「ルビ」は漢字の脇に付けられた読み方を示すふりがなのこと。宝石の「ルビー」が語源で、活版印刷の文字の大きさに由来するという。

 松本さんがこの活動を始めたきっかけは、子どものころの体験にある。両親は出版社に勤務しており、自宅の部屋には床から天井に届くほどの本棚が壁一面にあった。親の配慮からか、本棚の下段には漢字にふりがなが振られたさまざまな分野の本が並んでいた。絵本や江戸川乱歩の「怪人二十面相」、世界美術史、科学…。

 松本さんは理科が好きで、園芸の本がお気に入りだった。日照時間によるイチゴの育ち方の変化や、実験装置の組み立て方といった内容を興味深く読んだ。「ルビのおかげで漢字でつまずかずに読み進められたことは、成長の過程において大きかった。興味の幅を広げてくれた」と振り返る。


ルビ普及に取り組む「ルビ財団」のホームページの画面

 ▽大人と子どもで出版物を分けるのは「愚民政策」
 日本語は漢字が読めなければ内容を理解するのは難しく、アルファベットのみで書かれた英単語と比べて辞書を引くのにも苦労する。松本さんは今、昔に比べるとふりがなの振られた本が減ったと感じているという。「読めないと頭に入らず、考えることをやめてしまう。読めるということが大切で、ルビがないことの弊害がいかに大きいかに気付いた」と語る。

 自分の年齢や学年に合った本では満足できない子どもにとっては、漢字にふりがなが振られていれば、もっと難しい内容の本をどんどん読み進め、能力を開花させることができるだろう。松本さんは「大人向け、子ども向けと出版物を分ける考え方こそ愚民政策につながる」とも批判する。愚民政策とは、為政者側が政治的な問題などに知識や関心を向けさせないようにして、批判する力を弱めようとすることだ。

 ▽会社の事業とは一線を画し、NPOや国際人権団体が参加


ルビの重要性を語る松本大さん=8月7日、東京・赤坂

 ふりがなの大切さを周囲に話したところ「確かにそうだよね」、「盲点だった」と共感する声が多かった。これが活動への背中を押した。

 マネックスグループは「個をエンパワーメントする(力づける)」を掲げ、教育事業を手がける子会社がある。ふりがなを振る活動の根本的な考えもマネックスグループが目指す延長線上にあるが、松本さんは「社会にとって良いことなので、ビジネスではなく非営利で行う方がいろいろな立場の人が参加しやすい」として財団を設立し、会社の事業とは一線を画した。

 松本さんの問題意識は社会全体にも向く。「漢字が読めなくて社会になじめず、犯罪につながることもある。それが社会の不安定化につながる」と話す。目指すのは、大人が読むことを想定した文章でもふりがなが振ってあるような「インクルーシブ(包摂的)で優しい社会」だ。ルビ財団の活動には子ども関連のNPOや国際人権団体、印刷会社の代表らが集まった。

 ▽自動でルビを付けるソフトを開発、年内に無償配布へ
 ルビ財団は具体的な活動として、ウェブサイト上でボタンをクリックすれば、文脈に応じて漢字に自動でふりがなを付けたり消したりできるソフトの開発に取りかかっている。年内に自治体などへの無償配布を始める。財団のホームページにはすでに同様の機能を付けた。


ルビ財団の伊藤豊代表理事

 自治体に対しては行政手続きや防災に関する説明文書、広報誌などでふりがなの活用を訴える。日本に住む外国人は増えている。ルビ財団の伊藤豊代表理事は「外国人を含めあらゆる人が暮らしやすい町だというアピールにもなる」と話している。

 企業に対しても、多様な人材が力を発揮できるよう環境を整備する「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」の一環として、取り組みを後押しする。ルビ財団のメンバーの名刺には全ての漢字やカタカナにもふりがなを付けた。伊藤さんは「共感した企業は名刺だけではなく会社案内にも広げてほしい」と話す。


漢字にルビが振られた伊藤豊ルビ財団代表理事の名刺

 ▽財団の活動は2年の期限付き、良書のルビ付き再版も期待
 ほかにも出版社に書籍にふりがなを付けた本を出版するよう働きかけるほか、良書にふりがなを付けて再版することも求める。選書の専門家へもアプローチし、書籍の売り上げ増につながるようなキャンペーンができないか模索中だ。

 ルビ財団は2年をめどに活動する。松本さんは「集中して短期的に結果を出す」と意気込む。

 松本さんはルビ財団の活動を巡り、手応えの一方で「『ルビは格好悪い』という人も3~5%程度いる」と感じている。出版社にとっては、ふりがながあることで旧来の読者が離れるとの懸念があるという。

 松本さんは2023年10月に資本市場に関する著書を出版予定で、全ての漢字にふりがなを振って準備を進めている。「興味を持ってくれる小学生がいるだろうし、金融に興味を持つ人がその中から生まれてほしい」と期待を寄せる。

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