「話を聞いて!」1週間の合宿で変わった高校生、多様な進路を学ぶサマースクールに参加した 国境や世代を超えた交流に感じた可能性
47NEWS / 2023年9月22日 10時30分
夏休みに全国の高校生が参加し、国内外の大学生や社会人らと交流するサマースクールが東京や愛媛など5カ所で開かれた。国境や世代を超えた教育を提供する一般社団法人「HLAB」(東京)などが主催した。
今春大学を卒業して愛媛県に赴任した私は8月14日から7日間、県内で開かれたプログラムを取材した。瀬戸内海に浮かぶ大三島(今治市)と、古民家の保全などで国際的に評価されている大洲市が舞台。高校生と寝食を共にしながら話を聞くと、多様な価値観に触れ、わずか1週間で参加者の視野が大きく広がるのを実感した。親や先生、身近な友達とは違う人たちとの出会いが未来を変えるかもしれない―。そんな期待を抱く体験だった。(共同通信=熊木ひと美)
HLABなどが主催した高校生向けサマースクールの参加者ら=8月20日、松山市(提供写真)
▽刺激的な体験をきっかけにカナダ留学
このサマースクールは、理系・文系の枠にとどまらないリベラルアーツ教育を実践しようと、HLABが2011年に始めた。米ハーバード大学などの寮生活をイメージした少人数のグループで行動するのが特徴だ。これまでに約2300人の高校生が参加した。日本国内だけでなく、海外からも大学生を招いて高校生の学びを手助けする。大学生は「メンター」と呼ばれ、高校生と近い距離で交流を深める。
愛媛の実行委員長を務める国際基督教大3年の三木真菜さん(22)は高校時代にも参加した。「サマースクールの刺激的な体験を機に、高校を1年休んでカナダ留学に挑戦できた。参加者には、将来の選択肢を広げるきっかけにしてほしい」と意気込んだ。
愛媛のプログラムで実行委員長の三木真菜さん=6月11日、松山市
▽岡田元監督「ロールモデルがない時代。タフに生きて」
最初の講演には、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが登壇した。高校生を前に「人生は計画通りになんかいかない。とにかく何かをやってみよう」と熱く語りかけた。岡田さんは愛媛県今治市に本拠地を置くサッカーJ3のFC今治の会長を務める。今年4月には今治市の学校法人の学園長に就任。来春、既存の私立高校の名称を変える形で「FC今治高校」を開設する。
日々挑戦し続ける岡田さんの話にみんな興味津々。「ロールモデルがいない今の時代、一人一人が主体性を持ってタフに生きていかないと」と岡田さん。香川県の高校2年、櫛田志帆さん(17)は「岡田さんの話から自主性の大切さを学んだ。今後は自分で考えて行動できるように頑張りたい」と語った。
高校生に向けて講演する「FC今治」会長の岡田武史さん=8月15日、愛媛県今治市
▽地元以外の出会いが少ない中、思い切って参加
参加者は、高校生が約50人。まずは同じグループのメンバーを知ることから始まる。2人一組になって、自分の人生を振り返り相手に説明する。一番幸せだった時期はいつなのかを、グラフで示しながら共有した。初対面で緊張していたが、メンターの大学生が「話したいことから伝えてみては」と声をかけると空気が変わった。「初恋は幼稚園の時だったな」「中学校は受験して入ったよ」。少しずつ自分の過去を話し始めた。次第にあちこちから笑い声が聞こえ、明るい雰囲気になった。
大洲高校(大洲市)3年の稲月杏珠さん(17)は「相手がたくさん質問をしてくれる人でよかった」と控えめな様子で振り返った。普段の生活で地元以外の人と会う場面は少なく、せっかくの機会と思い参加を決めた。「日本語でも英語でも、自分の思いを正直に伝えられるようになりたい」と語った。
大洲高校3年の稲月杏珠さん(右)=8月15日、愛媛県今治市
▽多様な背景のメンター、UAEからも参加
将来の進路を考える際に海外にも目を向けてもらうため、メンターには多様な背景の学生たちが加わる。米国や英国だけでなく、アラブ首長国連邦(UAE)の大学に通う学生もいた。少人数のグループごとに担当するメンターが自分の専門分野を英語で説明する。内容は教育や政治、情報工学など多岐にわたる。
言葉が分からないとき、参加者は手で「T」のマークをつくる。「Translate」(翻訳する)の頭文字だ。そうすると、英語が得意なメンターや他の参加者がその場で通訳してくれる。英語が苦手な人も置き去りにしない。大阪府の高校1年詫摩一空さん(15)は「日に日に英語を話すハードルが低くなった。将来は海外の大学で勉強するのもいいなと思った」と満足そう。
少人数のグループになり、メンターから英語で学ぶ高校生ら=8月16日、愛媛県今治市
生徒らが「最高だった」と声をそろえたのが、四国で活躍する社会人と直接対話する企画。「なぜ今の職業を選びましたか」「働いていて楽しいことと、つらいことを教えてください」。大学や企業、行政など幅広い分野で地域に貢献する15人に疑問をぶつけた。滋賀県から参加した高校1年の松山和葵さん(16)は自身の将来に焦りを感じていたというが、「社会人の方がそれぞれやりたいことに向き合い、とことん追求している姿を知った。進路についても焦らなくていいと助言をもらえた」と話した。
▽「希望の進路に向けて学びを深めたい」
最後の夜、高校生たちは「まだ話し足りない。寝る時間がもったいない」と名残惜しそう。当初は言葉数が少なかった稲月さんは「積極的な人が多く、いい影響を受けた。話せるのは今だけだから積極的に話しかけている」と声を弾ませた。一方で「首都圏から参加した高校生と比べて自分の知識量が少ないと痛感した。悔しさをバネに、希望の進路に向けて学びを深めたい」と話した。
変化があったのは地方から参加した生徒だけではない。神奈川県の高校3年山本拓さん(18)は「異なるバックグラウンドを持つ人に会えて、将来の選択肢が増えた」と振り返った。参加前は自分の将来を国内に限って考えていたが、部活で取り組むテニスを通して海外で働くことも視野に入れたいと語った。
初めはおとなしく、硬い顔つきだった生徒たちが、日を追うごとに「記者さん聞いて!」と笑顔で話しかけてくれるようになった。その日感じたことや進路の悩みなど、まっすぐな表情で語る姿が印象に残った。この夏に見つけた自分の可能性をさらに広げようと一歩踏み出す彼・彼女らへ、心からエールを送りたい。
青く美しい瀬戸内海を背景に笑顔で写真を撮る高校生と大学生メンター=8月16日、愛媛県今治市
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