死者を抱いて泣き叫ぶ人、がれきだらけの街…トルコ・シリア大地震、被災者が語る凄まじい惨状 復興は大幅遅れ、「難民」にもなれず
47NEWS / 2023年10月3日 10時0分
トルコ人のアリさん(28)=仮名=は2月、南部カフラマンマラシュの自宅で寝ていた時、突如激しい揺れに襲われた。とっさに近くにいた6歳の長女を守ろうと抱きしめた。3歳の次女を抱え上げた妻のナズさん(27)と一緒に外に出た。
街の様子は一変していた。建物は崩れ落ち、がれきの山に。アリさん宅も半壊し、車は上から落ちてきたブロックでひしゃげていた。周囲では多くの人が死者を抱き、泣き声を上げている。トルコ・シリア大地震は家、電気、水道などあらゆる生活のインフラを破壊した。被災地は復興が進まず、親族を頼って来日する人々がいる。ただ、それでも生活を立て直すことは難しい。ネックになっているのが入国時のビザだ。(共同通信=赤坂知美)
5月、トルコ・シリア大地震でトルコ南部カフラマンマラシュに設けられたテント村
▽水も食料も電気もなく、水浸しのテントで眠った
アリさんは地震の直後、急いで近くの村に住んでいる親族に電話した。だがつながらない。隣の村にある実家に行くと、父親の片足はブロックの下敷きになっていた。病院に搬送され治療を受けたが、片足は今も不自由なままだ。いとこが住んでいたアパートは崩れ落ちていた。いとこの行方はわからない。後になって、犠牲者2千人が安置された遺体置き場で対面した。親戚は30人近くが亡くなった。
マイナス10度の極寒の中、車の中で救助を待った。数日後にようやくテントに避難することができたが、電気も水も食料も十分に行き届かない。被災後、初めてシャワーを浴びることができたのは23日後だった。
一番苦労させられたのは雨。「水浸しになった床の上で寝なければならなかった」。地震から数カ月たっても復興は進まない。余震もやまず、そのたびにテントが揺れる。娘は小さな揺れが起こるたびに「地震、地震」と泣き叫んだ。
「ここでは暮らせない」。親戚が住み、かつて訪れたこともある日本へ逃れることを決意した。
2月、トルコ南部カフラマンマラシュで、捜索活動をする人たち(ゲッティ=共同)
▽来日するトルコ国籍者が急増、地震影響か
出入国管理庁によると、トルコ国籍の入国者数の月平均は、17年が約1700人、18年が約1780人、19年が約2030人と、多くても2千人ほどだった。コロナ禍で大きく落ち込んでいたが、地震発生後は増加し、4月は3791人、5月は2465人、6月は3316人と、以前と比較しても大幅に増えている。新型コロナウイルス禍による渡航制限の緩和で旅行者が増加した一方、アリさんのような被災者が一定数含まれている可能性がある。
実際に、行政や支援団体への相談も増えている。川口市教育委員会によると、地震前は、就学の相談に訪れるトルコ国籍の人は1カ月に数組。それが地震のあった今年2月以降は週に2~3組になった。支援団体「在日クルド人と共に」(蕨市)によると、団体には在留資格についての相談が相次ぎ、日本語教室の参加者も多くなっている。
ただ、短期ビザの入国では数カ月しか在留できず、地震のトラウマなどに対するケアも不十分だ。行政窓口で言葉が通じず、意思疎通に困る人も少なくない。
地震から半年が経過したがトルコ国内の復興は遅れている。いまだにテントやコンテナ式住宅で暮らす人々は多い。帰国しても安定した生活は見通せない。トルコ政府からの支援は行き届かず、国連などの国際機関から食糧や水の支援はあっても、住宅や交通インフラの回復は進まず根本的な解決にはならなかった。
移民問題に詳しい上智大の稲葉奈々子教授(社会学)はこう指摘する。「日本政府は、ウクライナからの避難民のように、情勢が安定するまで一定期間保護する対応を取るべきだ」
トルコ・シリア大地震で日本に逃れたナズさん(仮名)一家
▽在留期間は短く、立場は不安定
アリさん家族は在留期限が3カ月の短期滞在で4月に入国した。長期間日本に滞在できるビザを得ようとしたが、短期滞在ビザの更新は通常2回までのため、最長でも6カ月しか延長できない。来日後に留学ビザなどに切り替えることは、制度上難しかったという。
なんとか難民申請をして、今は結果を待つ立場。ただ、申請後8カ月間は就労ができない決まりだ。今年6月には改正入管難民法が成立したため、申請が2回退けられると強制送還の対象となる。
トルコ国籍者の難民認定は過去に1例しかない。日本では地震を理由とした難民認定は例がないとみられ、アリさん一家の日本での立場は不安定なままだ。
ナズさんは涙ながらに訴えた。「私たちはただ生きる権利がほしいだけ。日本政府には、長期間滞在できる仕組みを作ってほしい」
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