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「物価高で苦しいのに、ごみ袋まで」大幅値上げ続出 反発受けた市長は落選 なぜ今?

47NEWS / 2023年10月6日 10時0分

値上げが凍結された愛知県瀬戸市の燃えるごみ指定袋

 物価高の中、全国的に市区町村の「指定ごみ袋」の値上げが相次いでいる。北海道北斗市は4月、鹿児島県南九州市は5月に、それぞれごみ袋の容量に応じて約30円から約60円、20円から80円と、全国くまなく値上げの動きが広がり、各地の住民から戸惑いの声が上がっている。中でも、愛知県瀬戸市は多くの家庭で使用頻度が高い「燃えるごみ」用45リットルの袋10枚について、従来の180円から500円への値上げを予定し、大論争に。賛否が市長選の争点となり、反対派が当選。新市長は値上げを凍結した。
 それにしても、今なぜ値上げなのか。背景を探ると、ごみ処理費用の負担に苦悩する自治体の実態が浮かび上がる。(共同通信=平等正裕)


 ▽全国1700自治体の8割超が導入
 全国の市区町村の大半は、「指定ごみ袋」で収集している。2020年度の環境省調査によると、全国に計約1700ある市町村と東京23区のうち、82・6%が導入。2・9%が導入を予定、または検討しているという。
 袋は自治体ごとに規格や種類を指定し、自治体名や収集するごみの種類が明記される。袋の価格は、入札などで製造業者を選び、業者から調達した製品に諸経費や処理費用を加えるなどして決めている。この袋に入っていないごみは原則、収集してもらえないため、住民が指定ごみ袋の値上げを回避する手段はない。
 家計に直結するだけに、愛知県瀬戸市では3倍近い値上げに住民が反対の声を上げた。


陶器店に並ぶ瀬戸焼(9月28日撮影、瀬戸市)

 ▽焼き物のまちを二分
 瀬戸市は人口約13万人。陶磁器の代名詞「瀬戸焼」の産地で、プロ棋士藤井聡太七冠の出身地としても知られる。昨年3月、市は燃えるごみ、燃えないごみの指定袋の値上げを決めた。瀬戸市には長年の課題があった。隣接する長久手市や尾張旭市とごみ処理施設を共用しており、両市と比べごみの排出量が多いことだ。
 そこでごみ減量の切り札と考えたのが、指定ごみ袋の値上げだった。環境省は2022年に改定した「一般廃棄物処理有料化の手引き」で、ごみ袋の価格を製造にかかる実費以上に値上げする「有料化」を実施した場合、2年後に燃えるごみの量が年間1人当たり平均約40キロ減るとの調査結果を示している。


愛知県瀬戸市役所

 燃料高や人件費高騰、老朽化した処分場更新費など、ごみ処分にかかる費用は自治体の重い負担となっている。各地の自治体では一層のごみ減量が喫緊の課題だ。ごみ袋値上げもこうした流れの中の動きとみられ、瀬戸市も家庭にごみ削減のインセンティブ(動機付け)が生まれると期待し、値上げ条例を市議会に提出。昨年3月に賛成多数で可決され、1年半後の今年9月からの変更が決まっていた。
 ところが、市民の反発は想定以上だった。4月の市長選に出馬した新人3人のうち、2人が値上げに異を唱えた。明確に反対を打ち出していた元市議が当選を果たし、当選後の6月に値上げを凍結する条例改正案を市議会に提出。賛成13、反対12のわずか1票差で可決され、9月以降も従来の値段が維持されることとなった。


取材に応じる愛知県瀬戸市の川本雅之市長=8月、瀬戸市役所

 ▽高まった行政への関心
 瀬戸市民の受け止めはさまざまだ。50代の女性は顛末を振り返り「物価や電気代が上がり、家計は厳しい。正直ほっとした」と語る。40代の男性会社員は市民が二分されたことに、複雑な表情を浮かべた。「物価高で会社の経費も増えている。値上げによる収入を市が適切に使ってくれるならそれで良かったのに」
 8月、共同通信のインタビューに応じた川本雅之市長は値上げ凍結の理由を改めて説明した。
 「昨年始まったプラスチックごみの分別などの効果で、ごみの排出量が減り始めていた。値上げ自体の必要性は理解できるものの、タイミングが引っかかった」
 ごみ処理施設を共用する長久手、尾張旭の2市が値上げを見送ったことも重視したという。
 「足並みをそろえるため、1回ストップすべきだと考えた」
 1票差だった値上げ凍結の市議会採決は「どちらに転ぶか直前まで分からなかった」。信念を持って当初の方針通り値上げすべきだと主張した議員の意見も理解できると振り返る。
 市議会には多くの市民が駆けつけ、現在は月2回にとどまるプラスチックごみの回収頻度の向上や、リサイクルセンター増設を訴える声も寄せられている。「行政への関心の高まりを感じている。ごみ減量のペースが落ちないよう“オール瀬戸”で取り組みたい」とまちの団結を訴える。


浜松市役所=2020年撮影

 ▽「透明化が重要」
 瀬戸市同様、値上げを図ったがうまくいっていない例も続く。浜松市は値上げ条例案を今年の9月議会に提出する検討をしていたが、物価高などを受けて見送った。議会でも賛否が割れているという。ごみ減量推進課の鈴木浩之課長はこう語る。
 「市民目線で家計への影響を見ながら、検討を続け、年内に改めて判断したい」
 長野県飯田市は昨年4月、製造業者から指定ごみ袋の50円アップは避けられないとの見通しを伝えられた。現在、新型コロナウイルス関連の交付金を用いた補助金で価格を維持している。「財源の問題もあり、いつまで補助を続けられるかは不透明」(担当者)


ごみ問題に詳しい東洋大の山谷修作名誉教授(本人提供)

 ▽「ごみの減量効果や使途を住民に明示することが重要」
 住民との合意形成に向け、自治体にはどのような対応が求められるのか。ごみ問題に詳しい東洋大の山谷修作名誉教授(環境政策学)はある自治体でごみ袋値上げの制度設計に携わった際、住民にアンケート調査を実施。その結果、「収入の使途を明確化してほしい」という意見が最も多かったと指摘した上で、こう説明した。
 「値上げした場合に見込まれるごみの減量効果や、自治体に新たに生じる収入の使い道を明確に示すことが合意形成につながる。金銭負担が増えることは誰にとっても嬉しいことではないものの、処理費用が圧縮されれば住民サービスを手厚くできる。指定ごみ袋値上げの可否を問わず、ごみ減量の効果は大きく、古紙収集袋を全戸配布するといった取り組みを通じ、全住民の分別意識の向上に取り組む必要がある」

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