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根室発釧路行き快速「はなさき」は1両編成、窓は全開、ワゴン販売があった

47NEWS / 2023年10月6日 11時0分

根室駅で発車を待つ快速「はなさき」

 【汐留鉄道倶楽部】夏休みに北海道の道東を3泊4日で一人旅した。JR根室線のうち「花咲線」の異名を持つ根室―釧路間(約135キロ)を乗りたかったのと、日本最東端の駅を見てみたかった―のが理由だ。

 旅の前半は端折って納沙布岬から根室交通の路線バスで根室駅に向かう旅の2日目からコラムを始める。岬の前面は見渡す限り広大な海しかない。周りには北方領土絡みの建物や資料館が多く建つ。「本土最東端」の碑は当然の撮影スポットで、観光客が順番待ちしている。観光バスのガイドさんから「今日は貝殻島の灯台が見えますよ」との耳打ちで、望遠鏡をのぞくと海上におぼろげながら見えたような感じがした。わずか3・7キロ先だという。

 1日5本の路線バスに遅れまいと、岬を後にそそくさと30ほどの停留所を経て根室駅に向かった。バス車内は地元の人と観光客が半々といったところ。「珸瑤瑁(ごようまい)」「歯舞診療所前」「トモシリ岬入口」など、停留所名は“根室半島感”満載だった。乗降がなくても一つ一つ愚直に停まる。約30分で根室駅着。駅前は土産物店や数軒の飲食店がぽつんとあるだけ。カモメだろうか。上空を大きな鳴き声で縦横無尽に鳥が飛んでいる。この日は根室市内泊まり。

 翌日。予想以上に小さい平屋の根室駅の周辺を歩くと、さびた単線線路と車止めがあり、「根室本線終点」「東京駅まで1607キロ」の大きな看板があった。文字通り端っこの行き止まり駅。さび付いたレールに同色の車止めがあればいや応なしに「とうとう端っこの駅に来たなあ」と心底実感せざるを得ない。


茶色の線路に茶色の車止め。これ以上の「終点」はない

 根室発釧路行き列車の発車まで、時間つぶしの場所を探すが、これと言って店もなければ人もほとんど歩いていない。駅舎の前はいきなりアスファルトの広場。やたら大きな空と広い駅前。駅と一体化したそば店があったが、開店前だった。「さんまそば」のメニューに腹が鳴る。開店には間に合わず、列車を優先する。ホームには「日本最東端有人の駅」の看板。ホームの先に先ほど見た車止めが見えた。東京の猛暑をよそにさわやかな風が吹く午前。駅の温度計は27度を示していた。

 1つしかないホームで待機していた11時3分発の釧路行きに乗る。ステンレス製のキハ54。国鉄民営化で導入された歴史ある北海道を代表する車両で、クロスシート中心の1両編成。耐寒設備が施されているというが、雪国の鉄道を知らない自分には道外の気動車との相違は良く分からなかった。


根室駅の線路の行きつく先。これで線路は終わり

 列車には快速「はなさき」の愛称が冠されている。花咲線には快速「はなさき」と「ノサップ」がある。北海道は他路線にも「狩勝」など愛称付きの快速気動車があり、石北線には「きたみ」という“特快”まである。へたに凝らない直球の命名に好感が持てる。

 車内は夏のシーズンともあって観光客とおぼしき人でシートはそこそこ埋まっていた。かん高いうなり声をあげて快速は一路釧路に向かう。次の東根室はご承知のように本当の日本最東端駅。根室駅はあくまで有人駅としての最東端。東根室で途中下車はしなかったが、南と西は過去に制覇しているのでまあ、これで最東端駅も制覇!と勝手に自身の記録に残しておいて「残りは最北端の駅」と決意した。果たして残りの人生で北、つまり稚内を制覇できるかどうかは分からないが。


日本最東端の駅「東根室」に停車する

 寒冷地だからか真夏なのに車内は非冷房。だから窓は全開だ。それでも扇風機はずっと回り続ける。肘を窓枠に置きその上に顎を乗せて進行方向を見ながら振動とにおいとともに列車旅を味わう。この快感。この風。これがいい。いろいろな虫が入ってきたが。

 高校時代の真夏の東北鈍行一人旅の思い出が頭をよぎる。1970年代の旅の姿の再来だ。ああ、懐かしい。当時も夏の気動車の窓は当たり前のように全開だった。

 さてお楽しみの時間がやってきた。根室駅で駅弁「さんま丼」を事前に買っておいたのだ。この弁当屋さんは“車販”としてワゴン車ごと同乗もしている。車内でも買うこともできたのだ。1両編成での弁当販売は珍しい。新幹線が車販をやめるご時世にうれしいこと。ちょうど昼時。900円で買った弁当の紙ひもをほどいていただく。パンフレットには「特製たれでふっくら焼いた根室特産品のさんま」とあり、沿線の風景を見ながら“高級魚”をおいしく味わった。ワゴン車とともに乗り込んだスタッフが車内を行ったり来たり。コーヒーを食後にいただいた。約50分後、厚床でワゴンは降りたが、丁寧に客へのお礼のあいさつまであったのはうれしい対応。


ご当地駅弁「さんま丼」は甘じょっぱい根室の味がしみ込んでいた

 列車は原生林や草原、湿原などめまぐるしく風景を変えながら最高時速80キロくらいは出しながら快走する。想像以上の速度を出している。特に厚岸から終点釧路まで距離約50キロ、40分間を無停車で走り抜けるのは「快速」の名がだてではないことを見せつけた。

 やがて網走からの釧網線と合流して釧路駅に滑り込み約2時間余の花咲線の旅程を終えた。

 わずかな乗り換え時間で札幌行き特急「おおぞら8号」に乗り換え、3日目の夜はこの大都市で過ごした。にぎやかな札幌の街はものすごい人々で息づいていた。ホテルのある狸小路はうるさかった。根室との違いを痛感。札幌一極集中とはこんなことをいうのか。

 北海道のJRは最近でも廃線、廃駅が続き、取り巻く環境は厳しい。それでも「はなさき」「おおぞら」とも乗客は少なくても精いっぱい気動車としての個性を発揮して走っていた。自分はただ旅を楽しんだだけ。今回の旅の主役である花咲線の将来はどうなるのだろう。

 ☆共同通信 植村昌則

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