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「ふわふわ」という名前からは想像できない…急成長の障害者ホーム元社員たちの驚くべき証言 「うその記録で不正に報酬」「勝手に印鑑」

47NEWS / 2023年10月6日 10時30分

障害者向けグループホーム大手運営会社「恵」の不正について証言する元社員の2人=2023年9月17日、愛知県内

 障害者がアパートのような建物や一軒家などで共同生活をする「グループホーム」(GH)が近年、全国で増えている。ホームの職員から支援を受けながら、地域社会で自立した生活を送ってもらおうと、政府が開設を後押し。障害者や家族のニーズもあって、今やさまざまな事業者が参入し、全国に約1万3千カ所ある。その中でここ2~3年、「ふわふわ」という名称でGHを急激に増やしている会社がある。「入居者から食材費を過大に徴収していたようだ」。最初に入ってきたのは、そんな情報だった。ところが元社員たちに話を聞いていくと、そのほんわかした名前とは懸け離れた驚くべき証言が次々と飛び出してきた。(共同通信=市川亨、岩原奈穂)


恵が運営するグループホーム「ふわふわ」の一つ=2023年8月7日、愛知県春日井市


 ▽売上高は4年で10倍超に
 「ふわふわ」を運営するのは、2012年に名古屋市で設立された「恵(めぐみ)」という株式会社だ。今年7月に本社を東京に移したが、「西日本支社」として名古屋市にも拠点を構える。
 元社員らによると、愛知県出身の中出了輔(なかで・りょうすけ)社長(34)と2人の弟、母親が中心となり、立ち上げた。「恵」という社名は母親の名前の一文字から取ったという。


恵が事業の中心を置く名古屋市の「西日本支社」=2023年9月14日

 2018年に名古屋市内に一つ目のGHを開設。その後、愛知県を中心に数を増やしていき、ホームページによると現在は仙台や関東、福岡など12都県で約120カ所を運営する。GHのほかにも通所施設や訪問看護ステーション、障害児向けの放課後等デイサービスなどを手がけている。主な対象は知的、精神障害者だ。
 信用調査会社によると、2018年の売上高は3億円弱だったが、22年の売上高は約38億円と、わずか4年で10倍超に増えた。
 「上場して会社を売り、お金を稼ぎたい。それには、あとこれだけGHが必要だ」。複数の元幹部社員は中出社長や役員がそんな話をするのを聞いたという。「GHを『店舗』、利用者を『お客さん』と呼び、『利益は山分けだ』とかお金の話ばかりしていました」と元幹部社員。
 ほかの元社員たちを含め、こう口をそろえる。「実態とは違う虚偽のサービス提供記録を作り、組織ぐるみで障害福祉や医療の報酬を不正に受け取っていた」


2019年に恵の役員から社員(当時)に送られたLINEメッセージ。元社員によると、「店舗」はグループホームや施設を指し、自治体の実地指導に備えて人員基準を満たすよう書類の改ざんを指示されたという(画像の一部を加工しています)

 ▽「社長や役員が記録改ざんを指示」
 数年前まで愛知県内のGHに勤務していた元社員は「実際には配置していないスタッフの名前を実績記録に書き、人員基準を満たしたように装っていた」と証言する。「社員にしても利用者にしても、会社が同じ名前の印鑑を買って、出勤簿やサービスの実績記録に勝手に印鑑を押していた」と語った。
 利用していない障害児にサービスを提供したことにして、報酬を架空請求していたこともあったという。「報酬を多く取るため、障害者の利用時間の記録を改ざんするよう社長や役員から指示が出ていた」と話す。
 GHだけではない。恵の訪問看護ステーションに勤めていた看護師はこう明かした。「診療報酬をなるべく多く取るため、所長の指示で、必要のない入居者まで『健康管理』などと理由を付けて週3回、訪問看護に入っていた」。利用者数に応じて所長の給与が増える仕組みだった。
 あるときは、他の看護師が記録上、早朝や夜間に訪問していることについて所長からこう聞かされた。「これ、実はこの時間には行ってないんだわ」。報酬の加算を受け取れるよう、実際の訪問時間とは違う虚偽の記録が作られていたという。
 「勤務表が実際のものと、行政に提出する用と2種類作られていた」「役員自身が実務経験の年数をごまかして、サービス管理責任者の資格を取っていた」。取材に応じた元社員たちは次々と不正の手口を明かした。取材では、役員や社員の間で交わされていたLINEメッセージも確認した。


今年2月、恵の訪問看護ステーションの事務員(当時)が所長の指示について訪問看護師(当時)とやりとりしたLINE(画像の一部を加工しています)

 ▽「行政はうちをつぶせない」
 ある元幹部社員は、こうした行為に異議を唱えた際、役員から返ってきた言葉が忘れられない。「愛知県や名古屋市に言っても相手にされないと思うよ。規模が大きくなったうちをつぶせば多くの利用者が行き場を失うから、行政はつぶせない」
 不正がばれないよう対策も取られていた。「GHなどに自治体の実地指導が入る際は、実際の管理者ではなく、ごまかしがうまくできる別の社員が管理者を名乗って対応していた」と話した。
 これに対し恵は取材に「不正の事実はない。そうした話には悪意を感じる」と答えた。


今年9月に「恵」の現役社員から元社員に届いたLINEメッセージ(画像の一部を加工しています)

 ▽「一食30円。ご飯を糸こんにゃくでかさ増し」
 GHの食事は、実際にかかった食材費を徴収するのが本来だが、恵は事前に「月2万5千円」などと定額で設定。数年前まで勤務していた元社員によると、入居者や家族の口座から引き落とし、本部が各GHに現金で配っていたという。
 ところが、実際に現場に下りてくる予算は徴収額の3分の1程度。平日は2食で、土日は3食。「入居者の人数に対し、どう考えても無理」。少しでも安いスーパーを回り、スタッフが自腹を切ったり、食材を自宅から持ってきたりして提供していた。役員に増額を求めたが、「会社の決まりだから、その金額でやって」と断られたという。
 障害者向けの住宅型有料老人ホームで働いていた看護師はこう証言する。「パンフレットでは、1食数百円と書いていたのに、実際の予算は1食30円ほど。ご飯を糸こんにゃくでかさ増しして、おかずを上に載せた丼だけで済ませていた。カップラーメンだけのこともあった」
 訪問看護ステーションに勤めていた看護師は、憤りながら話す。「食材費はなるべく削るよう役員から指示が下りていて、粗末な食事のため低栄養で痩せていく入居者が何人もいた」
 過大徴収も故意だったのか。ある元幹部社員は「徴収する食材費に、買い出しに使う車のガソリン代や調理の人件費も含めてよいのだと勘違いしていた」と否定。一方、別の元社員は「上層部は分かってやっていた」と話しており、見方は分かれる。ただ、元社員の多くが会社の利益優先主義を背景に挙げた。
 恵は今年春ごろから入居者の家族向けに説明会を開き、「全事業所を調査し、利用開始時点までさかのぼって返還する」との方針を示している。だが、GHを既に退去したある障害者の家族は「一切、説明がない」と話す。


 ▽経済的虐待、厚労省が特別監査に
 食材費の過大徴収について愛知県は今年5月、障害者総合支援法に基づき、恵のGHを立ち入り検査。愛知県から情報を受けた厚労省は6月、恵のGHがある他の自治体にも調査を要請した。これまでに群馬、神奈川、愛知3県で過大徴収が判明している。
 厚労省は、障害者虐待防止法が禁止する経済的虐待の疑いがあると見ていて、愛知県尾張旭市は既に虐待と認定。他の自治体も今後、認定するとみられる。
 「行政処分の対象になり得る」。9月26日、武見敬三厚労相は記者会見でこう話し、恵本社への特別監査に着手していることを明らかにした。報酬の不正受給についても自治体と連携して調べる考えだ。業務管理体制の改善を勧告することなどを視野に入れ、対応を検討する。


恵が食材費の過大徴収について入居者家族らに配った文書=2023年9月

 ▽取材後記
 障害福祉の取材をしてきた経験からすると、民間企業にせよ社会福祉法人にせよ、行政側には大きな事業者に対し「障害者を引き受けてもらっている」という意識がある。指定取り消しなどの厳しい処分を出せば、数百人から数千人の利用者の受け皿を調整しなければならない。
 関係者が内部告発しても、腰が引けていたり、面倒くさそうに対応されたりすることは少なくない。事業者側はそれを見透かしている。要するに行政はなめられているのだ。
 「立ち入り検査」「特別監査」といっても、数日前には事業者に連絡して実施するのが通例だ。これでは、いくらでもごまかせてしまう。参入のハードルが低く、事後チェックも甘い現状では不正は防げないだろう。抜き打ち検査を積極的に行ったり、指導監査の態勢を見直したりする必要があると思う。

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