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個人だけで年約46兆円、なぜ米国民は桁外れに寄付するのか 善意と売名、微妙な線引き【ワシントン報告⑧寄付大国】

47NEWS / 2023年10月13日 17時0分

米シアトルでの発表会で舞台上を歩くアマゾン・コム創業者ベゾス氏=2014年6月(AP=共同)

 米国は世界に冠たる寄付大国だ。日本とは桁外れの規模で、一つの産業ともいえる。なぜこれほど寄付が集まるのか。他者を手助けするキリスト教の影響も背景にあるが、それだけではない。最近は富豪や慈善団体による巨額の寄付が目立ち、政治や世論への影響を懸念する声もある。善意と売名の線引きは時に微妙だ。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕)


米ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館=2023年8月10日(共同)

 ▽アマゾン創業者の夢
 ワシントン中心部にはスミソニアン協会の博物館群が並ぶ。米国の懐の深さを示すかのように全て無料。協会予算の6割は連邦政府が賄うが、その他は信託収入や寄付収入で成り立っている。中でも、連邦議会議事堂とワシントン記念塔の間に立つ航空宇宙博物館は歴史的な航空機の数々を展示し、人気が高い。ここにインターネット通販大手アマゾン・コム創業者ベゾス氏が2年前、自分の名を冠した科学学習センターの建設含みで2億ドル(約290億円)を寄付した。


 当時の声明は「全ての子供が可能性を秘め、ひらめきがその可能性を解き放つ。私にとってはそれが科学だったし、今回の寄付がそれに役立ってほしい」と強調した。寄付の表明から程なくして、ベゾス氏は自らが率いるブルーオリジン社の宇宙船で、子供のころからの夢だったという有人飛行を成功させた。


米テキサス州で宇宙飛行を終えた後のジェフ・ベゾス氏(左から2番目)ら=2021年7月20日(ロイター=共同)

 ▽「道徳条項」欠く契約文書
 センターは2026年にオープンする。世界指折りの富豪の社会還元は広く歓迎されたが、昨年表面化したスミソニアン側との契約文書が議論を呼んだ。大通りから見えるように「ベゾス・ラーニング・センター」の標識を取り付けることや、50年間は名称を変えないことがうたわれていた。
 これには伏線がある。オピオイド(医療用麻薬)が深刻な社会問題となる中、製造した製薬会社パーデュー・ファーマへの批判が強まり、同社の所有者の名前を冠した公共施設が次々と名称を変更している。アマゾンに将来、同種の「道徳的な」問題が起きたらどうするかというわけだ。
 ベゾス氏は有力紙ワシントン・ポストのオーナーでもあり、社会的な責任は一段と重い。ところが、そうした事態が起きた場合の対応を決めた道徳的条項が契約文書には含まれていなかった。


オピオイド系鎮痛薬の錠剤=2017年6月(ロイター=共同)

 ▽慈善は「権力行使の一形態」
 公共事業は税金なり寄付なりで賄う。税金よりも自分たちの寄付で地域社会を築こうとする自立の精神が米国にはある。NPOと寄贈者を結ぶ国際団体グローバルギビングのビクトリア・ブラナ最高経営責任者(CEO)は「米国においては政府がどこまで直接的に支援し、どれだけお金を投じるかはさまざまな意見がある。ニーズがかみ合っていない多くの部分でNPOがそのギャップを埋める役割を果たしてきた」と説明した。
 地域社会の課題は地域に根ざした組織や住民の方が適切に対応できる場合が少なくないだろう。寄贈で賄おうという考え方は素晴らしいことだが、巨額寄付には寄贈者の思惑が当然ある。
 スタンフォード大のロブ・ライヒ教授は著書で「慈善活動は権力行使の一つの形態であり、公共政策をねじ曲げるために個人資産が使われかねない」と民主主義に逆行する恐れを指摘した。「巨額寄付はしばしば説明不足で透明性を欠き、寄贈者の言いなりだ」とも批判している。


巨額の寄付をしていることで知られるビル・ゲイツ氏=2022年8月、東京都内

 ▽「仕組みがあれば日本でもできる」
 米国で昨年、慈善事業への寄付金は4990億ドル(約72兆円)に達し、このうち個人寄付は3190億ドル(約46兆円)を占める。2020年の日本の個人寄付は1兆2千億円だった。米国と歴史的に近い英国も日本と大差がなく、米国の突出ぶりが目立つ。
 米国の寄付コンサルタント団体ドナーサーチのジェイ・フロスト氏は日本の事情にも詳しい。「日本でボランティアが本格的に始まったのは阪神大震災以降だろう。1998年にNPO法はできたが、法人格を得るためには今なおずいぶん苦労があると推察される」と米国との違いを対比させた。
 それでも、米国民だけに寄付の意識があるとは考えていない。「資金集めのやり方が確立しているからではないか。仕組みがあれば日本でも英国でもできる」と語った。ブラナ氏も「(他者に寄贈するという)寛大さは人間が誰しも持つ性質で、米国に限ったものではない」と言う。
 そうは言っても米国が築き上げた資金集めの仕組みの確立そのものが難しい。フロスト氏は資金集めの背景に層の厚い非政府組織(NGO)や慈善団体の長い活動の歴史、税制、寄付集めのプロの貢献があると説明したが、それら自体が米国の独自性を示しているのではないか。


阪神大震災の被災者に生活物資を配るボランティア=1995年1月、兵庫県芦屋市

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